空き巣の処置

 自称勇者の空き巣集団は一応身体検査のため、血液や細胞をちと頂戴してからサイズタイドに返すことになった。

 といっても野郎だけ。

 女性陣は、うん、文句はヤコウに言って。文句はない? あっそ。


 元はと言えばウェストサイズの空き巣から始まった、捕縛活動。

 居候達のストレス発散に使わせて貰ったが、ぶっちゃけ他人事だ。


 ヨウコを返せ、ユキメを返せとやかましいビーガインには、鎮静剤を過剰に叩き込んである。

 目が覚める前にシュテンの高速便ならサイズタイドに到着する。後はお任せだ。


「デルスより彼らをどうすべきかと相談をされたのだが?」

「焼くなり煮るなり好きにすりゃいい。そっちの犯罪者はそっちで裁け」

「所詮空き巣故、そこまで重い罰は下せんが、あの様に力を持つ者達をただ解放するのはどうかと」

「要は持て余してると?」

「うむ」


 知らんがな。




◇◆◇◆◇


「やっぱりHC細胞か」

『はい、マスター』


 調査の結果、空き巣共には予想通り体のあちこちにHC細胞が移植されていた。ふーむ。


「これってのは、どう考えるべきなのかねぇ」 

「空き巣のこと?」

「うん。あと、聖教国のこと」


 話すことで少し自分の考えを整理したい。せっかくだ。スズカに聞いて貰おう。 


「ヤコウがいれば生物兵器を生み出せる。そして、生物兵器は所詮生物だ。機械兵器に太刀打ちはできない」

「そうね。実際彼らがここに来ても、できることはなかったと思うけど」

「聖教国の一部の組、山田が属してるところ。メンドイから山田チームって呼ぶけど、山田チームはそれを知ったうえで勇者を派遣してきた。」

「自分達の国民に報復してるぞってアピールしつつ、国力を減らさない為の少数派遣、だったわよね」


 酷い話だとスズカは顔をしかめている。


「実際全軍KAMIKAZEさせるより良心的な気もするがね。それはともかく、本当にそれだけかね?」

「どうかしら。正直私もなんか不気味だな、とは思うのよ」

「だよね」

 

 ヨハンと仲間割れが起きた。ヨハンは最高権力者の一人だ。

 民を動揺させないように収拾するため領地一つを投げ捨て、ウチの仕業に仕立てた。


 山田チームはウチとやり合う気がないらしい。ウチを利用しつつも、勇者とか小細工を弄しながら民を抑え、基本的には自国の発展に注力したいという。

 ウチからすれば利用されてやる義理なんてないのだが、それが嫌なら全面戦争と言われてるようなもんだ。

 大量虐殺なんぞ避けられるなら避けたい。だから現状に不満はあるが、飲み込んでいる。


 山田チームもこっちの心情は解っているのだろう。

 その上で「気持ちは解りますが落ち着いてくださいよ、ダンナ。勇者っていってもあの程度ですぜ。そんな気にするものじゃないでしょう」ってわけだ。


 蠅が目の前飛んでたら何とかしたいのが人ってものだ。

 しばらく続くと山田は言っていた。脅威という程ではないにしろ、潰せるものなら潰してしまいたい。

 一番手っ取り早いのは蠅の巣を叩くこと。つまり飛んでってチュドンしかない。


 だったら武力行使以外で手はないかって考えになるんだが……相手のことが解らんとね、とここでも行き止まり。


「自国の発展を目指す奴らが、領地を投げ捨てた、か」


 どうにもここに引っかかってるんだよなぁ。単純にヨハンって奴がそれだけ邪魔だったのかもしれないが。

 

「他に目的がある、って考えるべきかしら」

「やっぱそう思う? で、空き巣のことになるんだけど」

「HC計画を利用した生物兵器か……なんか怖いわね」

「で、その素のヤコウを事前にこっちにプレゼントと。単純に考えればどんな奴かは解ったでしょ? どうぞ調べて対策してね、ってことだよな」

「ヤコウ君を調べさせることが目的?」

「って思うんだけど、それでアイツ等がどんな得をするのかが謎すぎるんだよね」


 言葉の通り、俺の信用が欲しいだけってことはないと思うんだけど。


「結局行き詰まりか」

「そうね……。どうするの?」


 空き巣どもが高頻度でこっちに来ようもんなら、また外出自粛をお願いしなければならなくなる。スズカも心配そうだ。


「サイズタイドで防ぎきるしかないかな……」

「でも、できるかしら?」

「サイズタイドを境にがっちり防衛線を張れば、まあ出来んこたないかな」


 ホント山田の言う通り動いてるな。


「そうかもしれないけど、どうやって?」

「虎皮とミザル隊に支援活動を拡張させる感じかね。日本列島縦断するように防衛線張ればこっちに入りようないだろ?」

「さすがに人手が足りないんじゃない?ていうか誰に防衛させるの? ここみたいにスィンが無休でやってくれるわけじゃないし」


 ほんそれな。

 壁ががっつりそそり立つ場所で矢を撃つならともかく、常人があいつ等の侵攻を防ぐとか無理……常人じゃなきゃいいのか。


「トキ、悪い顔してるわよ?」

「え、そう?」




◇◆◇◆◇


 毒をもって毒を制すとはよく言ったものだ。勇者に対抗できるのは勇者。これ常識。


 女性たちはヤコウの細胞を叩き込まれてヤコウに服従した。じゃあ、野郎3人にも同じことができるんじゃなかろうか?

 ヤコウに尻を掘れと過酷なことを言う気はない。はい患者さん、お注射ですよ~。


「やめろ! 何をする!?」

「ぐっ、我々が誰か解っているのか!?」

「我々は神聖なる聖教国教会に選ばれた、あ、痛っ!?」


 サイズタイドからシュテンにわざわざ運んできて貰った空き巣達。口塞いどきゃよかったかな。

 まあ、効くまでに時間はかからんだろう。


「貴様一体俺達に何を……ヒウッ!?」

「どうした、ビーガイ……」

「え、あ、うあ……」


 目の前のヤコウに急激に恐怖を感じ始めたらしい。

 うん、効いてる。ガンギマリだ。


 サイズタイドじゃ持て余した彼等。実際「じゃあ」と解放されて、またこっちに来られても迷惑だ。

 どうしようかなと思ってたところで思いついちゃった名案。天才と呼んでくれ。


 デルスもウチで教育するよって言ったら快く譲ってくれたらしい。まさにWIN-WINだ。


「それじゃ、ヤコウ」

「ウン?」

「シュテンの言うことよく聞いて、彼らにシュテンの言う通り命じてくれ」

「ウン、ワカッタ」


 ん、素直。


「シュテン、あとよろしく」

「あいわかった」


 これで、サイズタイドの空き巣問題も解決だ。WIN-WINだ。

 今は人数が少ないが今後も自称勇者が来るなら、同じように処置して防衛線に取り込めば自然と人手不足も解決するだろう。

 普通の人との間に子孫も作れるみたいだし。


「いいのかしら、これで」

「いいんじゃない? 俺、魔王らしいしぃ……」

「トキ、拗ねてる?」


 フン。

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