ヤコウの春

 ヤコウが盛っている。

 パートナーが欲しいお年頃だ。それ自体はいいんじゃないだろうか? 

 その御相手は問題な気もするが。


 事の始まりは例の空き巣集団だ。


 シュテン率いる捕縛隊は、フットハンドルに向かう途中で彼らとエンカウントしたらしい。

 散々虎皮達が空き巣を繰り返したフットハンドル。もう割れる壺は残ってない。


 しゃーなしに壁から出て来たであろう5人組はシュテン達と出会い、すぐに戦闘態勢へ。


「なかなか手強い相手でしたな、ガハハハ」


 笑っちゃいるが手痛い傷を受けたらしく、オーガは体にぐるぐると包帯を巻いている。

 命に別状はないらしいが、狩人復帰できるかはちと怪しいらしい。

 後継ぎが決まっててよかったな? あ、だから笑えるのか。


「確かに手強かったが、それ以上に不思議な技を使う連中だったな。この身体でなければ危ない状況もあった」


 シュテンは無傷だ。ボディがカッチカチですからね。

 とはいえ、シュテン自体が優れた戦士であったわけだから、シュテンに危機感持たせるってのは中々だ。


「不思議な技ねぇ……」


 会議室でホットドッグをパクつきながら報告を聞く。

 無事に帰ってきたんだからいいや、って放置しようとしたら、関心を持ち、報告を受けるのも主の仕事だとスズカに連れだされた。

 最近スズカママンが厳しい。

 

 とはいっても話聞くより見る方が早いわけで、会議室に設置したモニターにヤハタの撮った映像を写しつつ鑑賞会だ。


 名乗りを上げる空き巣組は、自らを勇者パーティーとほざきやがった。やっぱりか。

 名乗り返すシュテンとオーガを見ながら、俺なら相手名乗ってる間に不意打ちするなって思ってたら、やっと戦闘が始まった。早送りすればよかったね。


 相手5人は如何にも勇者パーティーな編成だ。

 如何にも過ぎて、つっこみ待ちかと勘繰りたくなるぐらい勇者している。


 まず、ビーガインと名乗った自称勇者野郎。諸刃の剣と盾、軽装ではあるが鎧で身体の要所要所を守っている。

 シュテンのマグロ包丁と打ち合えているあたり、前時代の技術が使われている剣だ。


 次にセンジンと名乗った重装兵。デカい盾を構え片手斧を振り回す多分戦士とかタンクとかいうアレ。

 ミザルのこん棒攻撃を体制を崩しながらも必死に受け止めている。武装したゴリラとかいう化け物相手に大した奮闘だ。


 ロックと名乗った弓使いもなかなか、援護の為にシュテンに狙いを定めるもオーガに阻まれた後、撃ち合いに持ち込んだ。


 だが、言ってみればこの3人は普通だ。残り2人の女性こそが不思議と言わしめた所以だろう。


 一人はヨウコと名乗った、つばの広い三角帽子を被ったアレである。俺マジで異世界転生してないよね?


 この魔女コスが持っている杖っぽい武器を見て何故か安心した。ちゃんと科学を使った兵器だ。ふぅ。


 高圧加熱ガス射出砲。凝縮したガスを空気砲の容量でブッパする。

 資源問題含む様々な社会情勢から、実弾を不要とする武器が開発されていった時代に生まれたグレネードもどき。


 対象が遠いとガスが届く前に燃えて尽きてしまうので射程は限られてるが、中間距離での威力はそれなり。しかもこの杖なんとガスを自動生成する。

 人間が屁というガスを生み出すのと理屈は一緒だそうだ。臭そう。 

 速射性と距離でアギョウにしてやられたが、なかなかいいもの持ってらっしゃる。山田の言う通り、ほど良い武器だ。ウチならいくらでも対処できる。


 で、もう一人。多分こっちの方がメインじゃないかな?

 ユキメと名乗った白装束。服の真ん中に赤丸。日本国旗かな?


 なんとなく僧侶とかをイメージする服装。パーティーの後ろで隠れるように身を潜ませていたから、最初は役立たずかと思ってたが、彼女の真価は戦闘じゃなかった。

 ミザルの攻撃にいよいよ耐え切れず、吹き飛ばされたセンジン。その横に駆け付け、ユキメが手を触れるとセンジンが負った傷がみるみるうちに治っていった。

 ヤコウが他の4人をかいくぐりユキメを抑えるも、その光景に動揺したオーガが隙をつかれて矢傷を負った。


 自力で勝ってるシュテン達が最終的には勝利したが、初見ということもあって爆発系飛び道具や回復魔法もどきにかなり苦戦したようだ。

  

「トキ、これって……」

「生物兵器、っていえばいいのかね」


 山田の言っていた聖教国では強いって意味が分かった。

 確かに防衛装置に代表されるウチが本気で物量攻撃しかければ負けはない連中だが、文明が中世レベルの聖教国でなら、アピールの仕方次第で人は彼らを精鋭と呼ぶだろう。

 

「多分HC細胞だろうな」


 “いろいろ使える”ヤコウを贈り物にした理由はこれか?


 まだ調べてないからはっきりしたことは言えないが、ヤコウの持つ回復力を何らかの方法で移植された集団なんだろう。

 魔法なんてものがない前提で言えば、傷の治りは身体が持つ自己治癒能力に頼るしかない。加速する術はあるが、触っただけで治るとか意味不明すぎる。


 だからこの場合、彼らは元々強い治癒能力を持ちながらも、それを封じられた状態にある者で、ユキメは触れることで一時的にその治癒能力を開放できる、と考える方が自然だ。

 ではその治癒能力をどこから持ってきたか? ヤコウしか思いつくところがない。


 ヤコウの回復能力を普通の人間が獲得した場合、身体が耐え切れない。常時その能力を発揮するヤコウは、肉体のエネルギー循環が半端じゃないからだ。

 とたんに痩せこけて死んでいくであろう、あの身体を維持できているのは、それに耐えられるよう身体をデザインされたが故。


 だが、常時ではなく一時的にその能力を発揮できるのなら。つまり、普通の人間に制限付きとはいえ、ヤコウと同じ能力を与えられるのなら……


 この推測に辿り着いたもう一つの理由。それがヤコウの発情だ。

 全員の捕縛に成功し、彼らを運んでる最中からソワソワし始めたヤコウ。多分生物として自身と同じ何かを感じ取ったのではないだろうか?


 辛抱たまらなくなったヤコウはヨウコとユキメに襲い掛かった。まさかのMU・RI・YA・RI。どっちが悪者かわからん。

 救いなのは事が終わった後、ヨウコもユキメも「ヤコウ様ぁ~」とか言い出したことだ。

 完全に服従してらっしゃる……彼女たちもヤコウを上位者と本能的に理解したのだろう。

 これが俺の推測の決め手なわけだが、それはともかく……


「ケガしたオーガはしゃーなしとして、シュテンはなぜ止めなかった?」

「敵なれば、別にいいかと」


 ウチの庭に強姦魔がいるとか勘弁してほしい。あ、でも最終的に服従したなら、これは一応同意と見ていいのか?

 ……うん、そういうことにしておこう。


 血の涙を流していたビーガインは気の毒だが。

 ハーレム勇者だったのかな? じゃあ、いい気味だ。

 猿轡されてなかったら怨嗟の言葉がねちっこく語られたに違いない。


「で、こいつ等は今どこに?」

「男3人はトキ殿がヤコウの為に作った牢に放り込んだ。女2人はヤコウが持って帰った」


 ヤコウよ……大人になったな。

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