久しぶりの山田

 急遽編成された空き巣捕縛隊。


 W,G、Eの10番隊も同行する……おっと、10番隊っていうと拗ねるんだった。

 名前貰ったもんな。


 WシリーズNo.11改め、アギョウ率いるアギョウ隊と、GシリーズNo.11改め、ミザル率いるミザル隊。戦闘になったら補佐を頼むぞ。

 お前たちの安全が第一だ。無理はしないように。

 EシリーズNo.11改め、ヤハタ率いるヤハタ隊。君達の役目はあくまで記録。そ、安全と記録が優先。戦闘は他の人に任せような。


『ピー』


 ん、いい子。

 背にオーガとエイガとヤコウを乗せた農耕馬、じゃなくてシュテンを先頭にフットハンドルへと旅立つのを見届ける。


 相手は5人。

 シュテンがいる時点で、相手が人であればどうやったって負けはないだろう。仮に負けることがあるとすれば、前時代の兵器を持ち出された場合位だ。


 一応その点は警戒している。山田次郎が懐に忍ばせてたからね。


 念の為、人型とマサルには耐熱コートシールドを持たせておいた。

 シェルター警備用アンドロイドの備品だ。倉庫に眠らせておくよりは、こういうところで使った方がいい。もったいない精神は日本人の美徳だ。


 さて、皆が捕縛に行き、スズカはいつも通り講堂へ先生役をこなしに行っている。

 静かな一日だ……だが、どうにも落ち着かない。

 多分聖教国とヤコウの件のせいだ。考えても仕方ないと思いながら、気になっちゃうこの気持ち。お解り頂けるだろうか?


 あれから5年、サイズタイドを奪われた聖教国は、サイズタイドを取り返そうとするでもなく沈黙を守っている。

 自分の領土を奪われたら、普通取り返しに来るだろう……来ないかな? お国のお偉方考え方なんぞ知らん。

 お国のお偉方ならこういう場合、聖教国内部を探るべきだとスパイとか派遣するんだろう。

 そうでなくとも随分と来客の多いお隣さんだ。事情は知っておくべきかと思って山田次郎を帰したが、ヤロウ、あの後一切来やしやがらねえの。


 ウチの領土じゃないからサイズタイドがどうなっても文句はないが、サイズタイドが取り返されれば次はここだ。

 俺達の安眠の為にもサイズタイドには頑張っていただきたい。


 スパイとか本気で考えるべきかね? 役に立つかどうかは知らんが、いたらカッコイイよね。「放った草からの報告だ」とか言ってみたい。

 残念ながらウチにできそうな奴いないんだけどね。


 お外出れる連中は、耳長い虎皮マッチョ、いかついサイボーグハゲ、アンテナ生えた低知能ゴキブリ。街に馴染みようがない。

 まともな人型は戦闘能力ないから、そもそも外に出れないっていうね。将来の為にこの人材不足は考えるべきかも……俺が? やめとこう。

 

 あとヤコウだ。

 アイツ自身に何かやらせるつもりがないなら、アイツの存在そのものに意味があるんだろう。

 ヤコウの特殊性は身体能力もそれなりだが、あの回復能力ともう一つ、前時代に生み出された生物であるにも関わらず狂暴化していないという点にある。

 ヤコウ自体は今の時代に生み出されたとしても、その元は前時代のもののはずだ。

 

 だがヤコウはその影響を受けていない。つまり、


「この時代の人間たちの遺伝子モデルは、HC計画ってことか?」


 だったらなんだって話だ。めっちゃキメ顔で言ってみたけど、どうでもいい。

 あ、もし将来スズカと子供生もうってことになったら役に立つかも……ふむ、一回ちゃんと検査してみるか?

 

 話がそれた。結局こっちもなんもわからん。


 というわけでこの5年、どこかモヤモヤした気持ちで過ごしている。

 

『マスター』

「ん?」

『西門のカメラが人影を捉えました。照合……山田次郎と名乗ったあのアンドロイドです』

「へー、すげータイミングー」


 いやマジで。狙ってやってくれたとしか思えんね。


「ご招待差し上げてくれ。温泉施設だ」

『承知しました』




◇◆◇◆◇



「やあ、久しぶり」

「ええ、本当に」


 調子いいこと言って、5年もシカトしてくれやがったからね。


「アハハ、そう睨まないでよ。こっちにも事情があったんだ」

「へえ? どのような?」

「いやぁ、君達がサイズタイドを乗っ取ってくれたじゃないか。あれでこっちも交通の便がね」

「乗っ取ってませんよ?」


 あそこは俺の領地じゃない。ここ重要。


「おや、そうなのかい? 聖教国では魔王国が乗っ取ったって噂で持ち切りだよ」

「へー……あ゛!?」


 今なんつった?


「聖人を討ち、領地を2つも潰した魔なる存在、魔王と魔王に率いられし国家、魔王国。古来から人は自身に害なす人ならざるものを魔と呼んだわけで。なかなか言い得て妙だよね」


 微妙だよ、いろいろと。なんだそれ?


「ま、聖教国の噂なんて君が気にすることじゃないだろうけど」

「……確かにそうですがね」


 心は痛えよ。14歳で時が止まった人が受ける特有の痛みをなぜか受けてるよ。


「ところで、贈り物は気に入って貰えたかな?」

「持て余してるんで返します」

「やだなぁ。彼いろいろ使えると思うんだけど」

「例えば?」

「そうだな……君達子供とか欲しくないの?」

「今のところは」


 ホントに人の考え読むのが上手いな。


「そっか。じゃあ後は他所に忍び込ませる、とか」

「聖教国に忍び込ませたいんで?」

「いやいや、あくまで彼の使い方を提案してるだけだよ」

「ふーん……で、そちらのメリットは?」

「君の信用」

「はい?」

「親睦を深めるのに手土産は当然だろ? 彼は僕を遣わした人にとって、最高のお宝だったってだけだよ」


 置いていった理由はなくて本当に贈り物ってかよ。実際、それ以外で思いつくこともねえんだが。


「それより、もっと気になってることがあるんじゃないかな?」

「といいますと?」

「聖教国の動向、とか」

「……何か教えていただけるので?」

「勿論。そのために来たんだから」

「それはご親切にどうも。正直、あまりに動きがなくて不気味には思っていたんですよ」


 確かに一番気になっている部分ではある。ここは本音を話して相手の口を開かせた方がよさそうだ。


「黙って干渉するのをやめてくれた、ってわけじゃないんでしょう?

「アハハ、自領を盗られて、黙っている国なんていないよ」

「だから盗ってねえっつに」

「それは聖教国に言ってほしいな。裏で動いてる僕に言われてもね」

「チッ……」


「話を続けるよ?聖教国は対魔王戦の方針として最もオーソドックスな手を打つことにしたんだ」

「オーソドックス……なんだ、結局全軍出撃ですか」

「いやいやいやいや、違うよ。対魔王といえばアレじゃないか」

「……いや、まさか」

「そのまさかさ」


 おーい、誰か決めた奴に物語と現実の違いってのを教えてやってくれー。


「勇者が来るよ」

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