サイズタイド領の状況

 4197年。

 エイガ君も19歳だ。


 オーガも族長の引継ぎを考えているらしく、来年あたりでエイガ君がオーガを襲名することになる。

 この場合、オーガはどうなるんだろうか?


「元の名前に戻るらしいわよ」

「へえ。で元の名前って?」

「タイガっていうらしいけど」


 オーガがタイガでエイガがオーガだ。ややこしいことこの上ない。


 族長のお仕事ってのは結構大変らしい。ガハガハ笑いながらお外で腰振ってるだけかと思ってた。


「狩りを子供達に指導したり、もちろん率先して狩りをしたり。族長である以上一番強くなきゃいけないからって、鍛錬の量もすごいわよ。あと最近はサイズタイドの支援の陣頭指揮もやってるみたいだし」


 確かにお忙しそうで。俺なら吐くな。


 サイズタイドがあれからどうなったかはシュテンから聞いている。

 

 ウチに向かって派遣されたサイズタイドの騎士は恒例通り撃退された。

 火攻めは防衛装置に阻まれ、水攻めはマガミ隊とトリィ隊に潰され、奇襲なんて効くはずもなく、総力戦を挑んで皆足を撃たれた。

 騎士隊長は理性ある人物だったのだろう。

 

『このままでは埒が明かん。一度体制を立て直すべきだ』


 そういって帰っていった。

 で、そのまま帰り着けるかといえば、そんな甘い時代じゃないわけよ。


 足引きずりながら血の匂いさせてる集団が歩けば、野獣どもが黙っちゃいない。

 彼らは帰り着くまでに相当の犠牲を出し、そこで絶望した。自分達の領の旗が折られていたからだ。


 デルスの乗っ取りは成功したそうだ。

 シュテンが引き連れていった虎皮達を、騎士たち不在の間にデルスは街に潜ませた。

 街の防衛に残っていた僅かな兵の食事に薬を混ぜて眠らせ、街から追い出すと同時に、周辺集落の民を街に招き入れた。

 そしてイーストサイズ、ノースサイズの難民と連携を取り、サイズタイド領民を黙らせた。


 騎士団といえど、ケガした足では防壁の中の者達には手も足も出ない。 

 結局騎士達は残った衛星街に逃げ込んだ。

 

 傷を癒し、サイズタイドを奪わんと騎士達はまたサイズタイドに侵攻した。でも遅かった。

 オーガたちの支援のせいだ。というか、虎皮達はさらに人数を派遣し、完全にデルス側についた。基本的には騎士団嫌いだからね、アイツら。

 結局城壁の上からの矢の弾幕に騎士達は引き返し、その後衛星街の騎士のすべてを駆り出すも、やっぱり撃退された。

 

 とはいえ、この戦いは騎士達にとって、自身の家を取り戻す戦いだ。ウチを攻めに来たのとは、わけが違う。

 しつこく攻め続けた結果、騎士達は衛星街をも失うことになった。野獣のせいで。


 街の防衛力を一切残さず投入した結果、ウェストサイズが鳥の野獣に攻められて、あっという間に半崩壊。

 それを知ったサウスサイズは、それでもサイズタイドを取り戻すことだけを考える騎士達への不信感を募らせた。


 ある日、サウスサイズはデルスにサウスサイズへの支援を条件に密約を交わした。

 そして騎士達がサイズタイドに侵攻した際に城壁を閉じ、騎士達を締め出した。

 

 街という形だけならイーストサイズもあるが、難民達が物資を持って行ってしまった為、補給には使えない。


 補給個所を失った騎士たちは、結局西へ向かって逃亡せざるを得なかったという。なんかちょっとかわいそう。

 矢を受け、傷だらけの疲弊しきった身体で、更に遠征とか……野獣の犠牲になるのがオチではなかろうか。


 そんな経緯でオーガ達の支援は、サイズタイドだけでなくサウスサイズにも必要になった。

 俺から言うことはただ一つ。そっちは知らん、勝手にやって。


 そういったらまあ、遠慮なくやってくれた。おかげでオーガ達の支援は多岐に渡っている。

 騎士がいなくても防衛できるよう武器を渡し、作り方を教えるだけではなく、調理方法とかウチで学んだことも広めているとか。

 マサル、なぜお前が手伝っている? 暇だったと。10番隊がうらやましかったと……そうか。


 サウスサイズには戦いの経験があるものがおらず、シュテンがしばらく指揮をとった。

 そしてトップのデルスはシュテンの元部下だ。騎士達との戦いに支援も受けている。上下関係は明確だ。


 今、サイズタイドとサウスサイズには何故か龍の絵を象った旗がはためいているそうだ。

 もう一度言う。俺は知らん。


 現在、街のシンボルとして、ウチにならって人魚像もつくっている最中だとか。俺の彼女が蛇女だと世に広まらないことを願っている。


 暫くサウスサイズに泊まり込んでいたシュテンは、後継人を決めて業務移管した後、こっちに帰ってきた。

 畑を耕さにゃならんからね。シュテンの主業務はあくまで農業だ。

 ただ、今も出張のように行き来はしている。


 シュテンの出張は現状、支援というよりは貿易の為だ。サイズタイドと繋がったことで、居候達にも得があったわけだ。

 卵や乳の代わりに、猪肉や調味料なんかを持っていっている。

 車両のおかげで高速配達ができるシュテンは、生モノの運送にうってつけだ。あちらさんも喜んでいるらしい。


 そういった事情から、今や2つの城郭都市を掌握したような感じになっているシュテンとオーガ。

 結局聖教国からの軍隊は、山田の言った通り現れやせず、驚異と呼べるものがない。

 おかげで2人共イケイケだ。調子乗んなよー。

 

 話が長くなったが、オーガも今年で42歳。体の衰えを隠せないらしい。


「息子が立派になって後を継いでくれる。ならば老いもまた幸福というものでしょうな! ガハハハ」


 少し羨ましいと思った。


 そんなこんなでエイガ君は必死だ。覚えることがたくさんある。勉強と鍛錬で一日のほとんどが潰れている。

 せっかくシュテンの娘のカネちゃんとイイ感じらしいけど、今はイチャついてる暇もないらしい。


「そういえばあの2人が結ばれた場合、どこで子供作んだろ?」

「流石に室内じゃ……ない……かしら?」


 彼らが築く家庭が幸せに満ちたものであることを祈っている。

 ああ、祈るだけだ。

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