初めての打ち合わせ
小僧の洗脳は無事に解けた。
ついでに身体も調べた。やっぱ気になるよね。
シュテンの生首ガッチャンコ以来、念のため医療室の整備を進めておいたかいがあった。
『HC計画の実験体と判断します』
分析結果には開いた口が塞がらなかったが。
さすが元お偉いさん方の吹き溜まりシェルター。情報が揃ってらっしゃる。
HC計画。正式には“HERMIT CHILDREN計画”というらしい。
“仙人の子供達”を意味するまんま、不老の研究として人工的に作られた人間であり、すでに滅んだ前時代の遺産。
よく狂暴化しなかったね。ま、そこはいいや。
それより……
「あのガキ何歳よ?」
『仮に実験体の生き残りであれば、2050歳以上と判断されます。ですが』
「?」
『シリアルNo.が確認できませんでした』
「そりゃつまり、別のところで非合法に生み出された存在ってことか?」
『HC計画を基に現代で新たに生み出された存在である可能性も、考慮に入れるべきと進言します』
ほほう。
いくら寿命がないとはいえ、飯を食わなきゃ生きていけない。
初めは研究所で飼われてたはずだから無教養ってのは不自然だよな。子供は放っておいても言葉覚えるし。
教育しないよう徹底されたか? あいつを使って人体実験をする気なら、情を移さぬようそういうこともありうるか? その場合名前もつけなそうだが。
覚えたくない、と洗脳されていれば別か……なんの目的で?
わっかんねぇ。まあ、知らなきゃいけないことでもないからいいか。
知るべきは奴が最後に言い残したサイズタイドについてだ。
若干推定も入るが、山田次郎を遣わせた誰かさんAは必ず暗殺失敗する暗殺者を仕立て上げ、俺を狙わせた。
理由は警告と考えていいだろう。
カルト国家の誰かさんBが俺のことを狙っているぞと教える一方で自身に敵意がないことを示した。
その誰かさんBは、山田次郎の言葉を信じるならサイズタイドを治めるヨハンなる者らしい。
サイズタイドは全面戦争を仕掛けてくるつもりらしい。
確かに奴らがここに兵士を突っ込ませた場合、結末は2つだ。
最悪なのは騎士の全滅。あまりにしつこく攻めてくるなら考えなきゃならない。騎士がいなくなれば街も終わる。
騎士を撤退にとどめられたとしたら? 街は存続できるんだろう。で、代わりに聖教国が攻めてくる、と。
阻止するためにはサイズタイドの乗っ取りが必要だと山田は言う。
筋は立ってる気がするが、なんか怪しいんだよね。
信じるか否か……
◇◆◇◆◇
悩みを解消すべく講堂にシュテンと、ついでにスズカとオーガと集まって勉強会だ。
相手の国の文化も事情も全く分からんからね。こういう場合、知ってるやつに聞くのが一番。
シュテンも元騎士団長だったんなら、多少事情は詳しいだろう。オーガ達はよく虎狩りに向こうに行くから。そう思って集まってもらった。
家からMOUSEとRABBIT使ってテレワークでもよかったと思うんだが、スズカに講堂へ連行された。なんで?
家に置いておくわけにも行かないので、ヤコウも連れて来た。というわけで5人で集まっている。
「そもそもサイズタイドはこっちをどう見てるんだ?」
「騎士隊長とはいえ、所詮衛星街の役職なれば、詳しくは。ただ、ヨハン様……ヨハンはトキ殿の言う通り、いい感情を持ってはいないかと」
「自領の衛星街を2つ潰されていることになってるらしいからな。一つはオーガのやつだよな」
「そうですな! ガハハ」
「笑うとこじゃねえよ。で、あと一つは心当たりがないんだが?」
「イーストサイズは私たちが虎狩りに行った際、全軍を差し向けてきた。オーガ殿達と地の利をもって迎撃した後、領主ウィンド伯は責任をとって自害された。これによって難民となった住民を受け入れてもらいやすくする為、ウィンド伯と騎士団は私が討ったということで元部下と口裏を合わせた。」
「へー。男気全開かっこいいー」
お前のせいかよ!
「まあ、1つも2つも一緒か。てなるとヨハンが小僧を送り込んだってのは信じてもよさそうか……」
「大丈夫? 私もお茶を入れに行った時しか見てないけど、なんか怪しかったわよ?」
「山田次郎の言ったことを全部信じる気は俺にもねえよ。だが、こういう場合全部が嘘ってこともねえ。多分な」
「どうして?」
「すぐに調べりゃ解ることで嘘ついたら、そこで終わりだからな。本当の中に嘘を混ぜるか、嘘はないけど全部は言ってないってやつかのどっちかだろ。まあ、一応調べるべきなんだろうけど」
「そういうものなのね。でも、どうやって?」
「監視させるだけならトリィ隊を出せばいいが、できれば向こうの内部事情を知りたいところではある」
生憎、アテがねえけども。
「サイズタイドであれば知り合いがいる。私が行こうか?」
「お? さすが元騎士隊長」
「騎士隊長のつてというより、難民に知り合いがいたというだけだがな」
「ああ、さっき言ってたやつ」
「デルスは元部下で中々優秀だった。うまく引き立てられていれば、それなりに内部に詳しくなっているかもしれん」
「なら頼もうか……ってその格好でいくのか?」
「いや、私が直接は無理だと思うが、このヤコウを借りれぬか?」
「構わないけど、使えんぞ?」
だってアホだし。
「手紙のやり取り位なら可能だろう。おそらく期間は1ヶ月以上ある。ここには通じなかったが、忍び込む技能だけならあるようだしな。こちらで仕込もう」
「なるほど。1ヶ月の根拠は?」
「人の足であれば往復1か月を見る。ヤコウがここにきて半月あと半月で帰るはず。だが帰ってこないとなれば確認の為、使いを出す」
「使いを最初から連れてこないのはなんでよ?」
「野獣からの防衛を考えればそれなりの人数が必要だ。相応の力があり、野獣に狩られる側ではなく狩る側でなければ少数移動などできんからな。大人数を暗殺者に同行はさせれまい。」
「確かに暗殺者に付き人たくさんとか暗殺とは? って話だな」
「その通り。よって使いの者が来るのはヤコウが帰らないと判断してから。使いの者の往復にも、おそらく1ヶ月位は見るはずだ」
「なるほど。電話もネットもない世界ってこうも情報が遅いのね」
まあ、おかげでこっちには調べる猶予ができたわけだが。
シュテンなら車両で1~2日あればたどり着ける。人間の足って遅いね。
「ならヤコウは任せた。今後ともな」
ついでにシュテンに押し付ける。
「うむ。任せてくれ」
互いに寿命がない者同志、仲良くしてほしい。
「ヨハンって人はいいとして、山田さんて人はどうするの?」
「それなんだよねー」
あいつをどう考えていいのかがよくわからん。怪しさはめっちゃあったんだが、敵意は確かに感じなかった。
「敵の敵は味方。今はそれでいいかなぁ」
「え? 本当に!?」
「何か企んでのは確かなんだけど、何企んでのかが全く分からんし。あくまで最悪、最悪の場合だけど……」
「うん?」
「聖教国ごと消えてもらえばいいわけで」
「物騒!?」
「いや、俺もやりたかないよ、もう。ただ最後の手段があるんだから、今は向こうの真意を突き止める方向で動くべきかと」
「えと……言いたいとはわかったわ。確かに泳がせるしかないものね」
「そういうこと」
◇◆◇◆◇
『取って来い!!』
『ヴォウッ!!』
シュテンが投げる球を走って追いかけ、拾ってシュテンまで拾って来るヤコウ。
打ち合わせの翌朝早速シュテンがヤコウを仕込むというので、どうやるか興味本位で見た結果だ。
理由は全く分からない。わからないが何故かいつか俺は聖教国を滅ぼすのかなって思った。
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