謎の来訪者

 決断してしまえば簡単なお仕事だった。


 防壁全周警戒をスィンに指示し、黒マントの小僧を見つけた段階でオーガとシュテンを走らせた。

 学習能力がなんでこんなにないのか、匍匐前進で壁までずりずりと近寄ってきた小僧のいる場所は南門の近く。

 せっかく伏せてくれているので門を開けWシリーズにそのまま取り押さえさせた。後はオーガとシュテンの到着を待つだけ。


『流石はトキ様!! 魔狼をもって押さえ込むとは。確かにこの者達に比べれば人の速度など意味のないもの!! ガハハハ』

『このような方を相手に喧嘩を売ろうとしていたとは。聖都の者達は一度ここへ来て現実を見るべきだな』


 オーガが小僧をロープで縛り付け、担いでシュテンの背に乗り込むのを見届け、映像とRABBITを切る。

 

「スィン準備は出来たか?」

『あと3日程かかります。ところでマスター』

「うん?」

『MINDWEDGEによって書き込まれた思想を消去するためには、何が書き込まれたのかを正確に知る必要があります』

「おう? そなの? ……もしかして調べられない?」

『調べるには本人の言動から見当をつけるか、書き込んだ者から聞き出す必要があります』

「それ先に言って欲しかったなぁ……」


 なして素直に事が運ばないかね。あのアンテナ仕様の文句をスィンに言っても仕方ないから、なんとかするしかないんだけど。


「スィン、RABBITであの小僧の音声を拾ってくれ。一応オーガとシュテンも」

『承知しました』


 となれば言葉の全てに注意すべきだろう。


『アウダ……バ……レバ、バブー!!』


 何語??? あー、猿ぐつわでもされてんのか?


『しかし、言葉が通じんとはのう』

『ここに送り込んだのが誰か位は吐かせたかったが……ふむ』

『エバ……ベバァ……』

『うむ、全く解らん!! まあ、トキ様ならなんとかするであろうよ』

『そうだな。不甲斐ないところであるが任せるしかあるまい』

『イボ……ニボバ!!』


 ……嘘だろ?




◇◆◇◆◇


 書き換えの準備は完了したものの、結局小僧は檻の中に放り込んだままだ。


 小僧はシュルターの入り口に連れてこられると、静かに暫く俺達を観察した後、何を思ったのか縛られた足で器用に跳んで、俺の首筋に噛みついてこようとしやがった。生憎そんな趣味はない。

 流石に縛られてる相手に後れを取ることはなく、地面に口づけを強制したが。


「ジャリア!! ジャ!!! ズィアァアーーーーーーッ!!!」


 とか叫び散らして、まあやかましいのなんのって。


 話合いなんて無駄なことはせず、縛ったまま騒音で苦情の出ない程度に居住区から離れた森の木に吊るし、その間にマサル達の手を借りて即席の檻を作った。 

 結局めっちゃ働いてんね、俺。


 今も多分脱出しようとガジガジと檻をかじってるはずだ。餌与えると途端に静かになるけどな。食ってる間だけ。


 もう何というか人と言うより獣に見えてきた。保健所に引き取って頂きたい。

 とはいえ、ここで殺処分とか、昨日の悩みは何だったのか。正直ただ意地だけで生かしてる。


 このまま忘れてしまうというのはどうだろうか?


『マスター、西門に人影を確認しました。現状危害を加える様子はないようです』

「そんなになんで人来んの? お外って危険が一杯だった筈なんだけど? 変異した野獣さん達仕事してる?」

『如何致しましょう。門に向って歩いて来ていますが』

「ナイススルー。RABBITの音声と映像よろしく」


 あ、居留守使っても良かったかも……だめだ、西門てことは扉開いテーラ。小僧捕えて、また開けちゃったんだよねぇ。

 映像には馬に乗った男が1人。


『なるほど、こちらのことは見えているし、聞こえているわけか』

 

 カメラの動きで諸々察したようだ……カメラを知ってるってことは


「スィン、サーモグラフ。2秒だ」

『承知しました』


 アンドロイド。しかも馬も馬ロイドじゃねえか。


『もし、よければここを通して貰っていいかな? きっと役にたつ情報を提供できると思うよ……例えば数日前にここを訪れた少年について……とか』


 ……うっさんくさ……が、この男が知ってるのは確か。


「そこで話してくれても聞こえますよ? そこからなら門の中を守るウチのかわいいワンチャン達も見えていますね?」

『つれないことを言わないでほしいな。ここまでなかなかの長旅だったんだ』

「知らない他人は警戒すべきものでしょう? 知ってれば警戒しなくていいってわけじゃないですが」

『なるほど。では話す条件として、ここを通してくれること、と言い直そう」

「話さなければ無事ではすまないと言ったら? 俺はその少年とやらに襲われてましてね」

『では、残念ながら話さずに帰るとしよう」

「逃がすとお思いで? その馬が熱線より早くないなら試さない方がいい」

『折角の情報元を潰す気かな?』

「情報なしで解決する手もあるんですがね」

『それを選べるなら、既に彼は生きていないはずだね。だったら、やっぱり話す必要はないかな?』


 チッ……あちらさんの方が上手ってかよ。まあ、欲しいもん握られてる時点で勝ち目なかったんだけど。


「スィン、オーガとシュテンにMOUSEを」

『はい、マスター』

「聞こえるな? これから客がそっちに行く。温泉施設を使うから場所を空けてくれ。それと……警戒を怠るな」


 最近過労気味じゃないかなぁ、俺。


「では、ワンチャン達の誘導に従って下さい」

『よかった。では失礼するよ』

「どうぞ。歓迎しますよ」


 今だけはな。


「ところで、お名前は?」

『おっと失礼。申し遅れたね。僕は、山田次郎。か弱いただのアンドロイドさ。よろしく』


 何その疑う余地ゼロミリの偽名。逆に清々しいな……胸元に帯びた銃も隠そうとしていない。


「吉備津兆です。どうぞよろしく」


 ま、今は乗ってやる。


「スィン、西のWに客を温泉施設へ誘導するよう指示してくれ。俺も温泉施設に向う」

『承知しました』

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