川辺のおっさん

「で、なんなのあの人達?」

「それがね……」


 晩飯をスズカと食いながら、オーガの拾って来た人達についてスズカに話題を振ってみた。

 今日も夕方までオーガ達のところに行っていたから、ある程度話は聞いていると思う。

 正直あんまり興味ないんだけど、2人で黙ってご飯食べるのもどうかと思うし、じゃあ話そうとすると話題が欲しくなるよねってところで、なんとなく聞いてしまった。

 

「かなり酷い話よ」

「じゃ、いいや」

「そこは聞いて?」


 新人類の中にカネちゃんという少女がいるそうで、そのカネちゃん親子が物語の主人公らしい。

 カネちゃんが全く話さないので、カネちゃんの家の隣に住んでいたという一家の父、ベアさんが代わって話したそうだが……イイ感じで胸くそ悪くなる話だった。ご飯は美味しく食べたいものである。


 彼等はここから南西に向った先にある、イーストサイズとか名乗る街の周辺集落に住んでいたそうだ。どっかで聞いたなーと思ったが、オーガ達と隣人トラブルを起こした街の名前が確かノースサイズだったのを思い出した。関係あんのかな……ありそうだ。


 モンスター化した生物から安全な住処を手に入れる為、街を壁で囲う性質上、住める人数に上限がある。新しい土地の開拓という名目で追い出された人達の寄り集まり。それが集落だそうだ。一応期間限定で騎士が守りにつくらしいが、なんとも世知辛いというかなんというか。


 で、その彼等の住んでいた集落に1月程前、2人の騎士が訪れた。2人の騎士はニヤニヤと笑いながら街を練り歩いた。

 集落の者達は関わり合いになるまいと家に隠れたが、気付かずに家の外に出てしまった者がいた。少女の母親ソーンさんだ。集落でも評判の美人さんだったらしい。

 2人の騎士はソーンさんに目をつけ、近づいていったらしい。


「多分だけど、最初からそれが目的だったんじゃないかって」

「ソーンさんが?」

「いえ、その……女の人が」

「というと?」

「その……街にも身体を売って生活してる人達はいるそうなんだけど、生活の苦しさでいうなら街より集落の方が苦しいらしくて。その分安く買えるからって長老さんが……」

「ホント世知辛いな」


 最初は話から、金をちらつかせ、少しずつ身体を触り……とエスカレート。どっかの漫画のやられ役のチンピラみたいな奴らである。

 で、ソーンさん結構気が強いらしく、騎士の頬をパシーンと平手でいったそうだ。

 「このアマァ!!」とお決まりの台詞を吐きながら、ソーンさんをそのままソーンさんの家に無理矢理連れ込んだ騎士達。

 

 ベアさんは自宅の窓から覗き見ながら、何もできずに震えていたそうだ。なので視覚情報で何があったのかわかるのはここまで。

 この後家の中からソーンさんの叫び声が何回か聞こえたらしい。


 これで終われば“不幸な暴行事件”で終了だったんだろうけど、ここでヒーロー登場だ。

 ソーンさんの旦那、つまりカネちゃんの父親のシュテンさんが帰って来た。このシュテンさん、かなりの剣の腕前らしく、イーストサイズの街で近衛隊長にまで上り詰めていたそうだ。

 ソーンさんの叫び声が聞こえたのか、ダッシュで家に戻ったシュテンさん。家のドアを蹴り開けて自宅に入った後、派手な物音と男達の怒号が聞こえ、その後騎士達はシュテンさんの家から逃げていったという。


 めでたしめでたし、には当然なってない。


「やつらの行動は領主様に伝え、必ず裁きを受けさせてやる」


 そう凜々しく決めて街に向ったシュテンさんが集落に帰ることはなく、代わりに訪れたのは騎士団だったと。騎士団はお出迎えした集落の長を問答無用でぶった斬り、住人達の虐殺を始めたそうだ。

 いや、なんでよ?


「証拠を消すため、みたいな声が聞こえたそうよ」

「あー、つまりシュテンさんや集落の人達より、騎士2人の罪のもみ消しの方が優先されたと?」

「多分……ね」


 これだから組織って嫌いなのよ。ねぇ、奥さん。


 そうして騎士団住人を斬り伏せながら、集落を焼いたのだそうで。騎士って誰かの住処を焼くのが好きな集団の事をいうのだろうか?

 ちなみに、そのとき逃げ遅れたソーンさんも騎士達の凶刃の餌食になったと言うから救いがない。

 それを見て母に駆け寄ろうとするカネちゃんを無理矢理抱きかかえ、集落から逃げ出すも、野人に襲われて絶体絶命。何人かの犠牲を出し、もう終わりだと思ったところで、オーガ達が登場したと。


 どう思う? この話を聞きながら食べるご飯の味。


 現状、新人類達はかなり疲労していて怪我人もいるが、オーガ達の治療の御陰で落ち着きは見せたらしい。皆おじやを腹に入れ、眠りに就いたそうだが健康面では問題ないだろう、とのことだ。

 だが心のダメージはかなりのものらしく……特にカネちゃんが感情を表すことがなく、ボーッと一点を見つめて動かないらしい。目の前で母親斬られりゃ、そりゃあねぇ……。

 一応飯は渡せば食うらしいが。

 まともな飯にありつき、安堵や喜びの表情を見せた他の新人類達とは違い、表情は変えず、ただゆっくり作業の様に食べたのだとか。


「何か出来ることがあればいいんだけど……」

「ないと思うよ?」


 子供相手に直ぐ感情移入してしまうスズカ。悪いとは言わんが現実論出来ることなんてない。

 救いがあるとすれば、シュテンさんとの再会とかだろうけど……


「殺されてるよな……」

「そう……よね」


 集落一つ消しに来たんだ。目撃者であるシュテンさんもただですむわけないし。


「嫌な世の中ね……」

「……そうだね」


 目を伏せ落ち込むスズカを見ながら、俺には同意しか出来なかった。

 ん……? この人、元リンディアさんだったような? ……気のせいか。




◇◆◇◆◇


「こんなものまで置いてあったの?」 

「元お金持ちの施設ですから。食事には味だけじゃなくパフォーマンスもって事じゃない?」

「私みたいな元一般市民にはちょっと理解できないわね」

「まあ、置いておいてもしょうがないし、魚が大きいって言ってたろ? 丁度良いじゃん」

「そうね。まあ、あれば使うのかしら」

「折れず曲がらず錆びず欠けず。されど切れ味抜群でございます。メーカの売り文句だけど、信頼性はあるよ。奴らの雑な使い方にも余裕で耐えるだろ。一応砥石も付けたし」

「フフ。確かに。じゃ、行ってくる」

「おう、気をつけて」


 スズカに狩人達への贈り物、包丁を持たせて部屋に戻るとすぐにスィンからアナウンスがあった。


『マスター』

「なんぞ?」

『河川側に向って外出していた住人が、また人を連れてきたようですが』

「また!?」


 どんだけ拾ってくんのよ。


「映像回して。あとMOUSEとRABBITもいつも通り」

『承知しました』


 モニターに映る南門の前。

 名前を知らない筋肉が肩におっさんを担いでいる。


「あー、状況説明ヨロ」

『それが、漁の網に引っかかってまして。結構深手を負っているらしく、一応応急処置はしたんですが……』

「あー、うんそう……釣果がおっさん一匹ってどうよ?」

『いえ、魚もちゃんと釣れましたが』

「ゴメン、そこはどうでもいい」


 見捨ててこいや、と命じるのもどうかと思うので非難できないのが辛い。


『かなり危険な状態だと思うんですが、どうしましょう?』


 知らんがな。

 言われるまでもなく矢が何本も刺さり、応急処置の結果であろう身体に巻き付けた布きれは真っ赤だ。

 よし、こういうときは必殺奥義の丸投げだ。

 一応危険人物の可能性は考えておこう。


「スィン、講堂のモニターにこの映像映して。あと、スズカにRABBITとMOUSE」

『承知しました』

「スズカ聞こえるか?」

『うん』

「筋肉共が、今度はおっさん釣ってきた。モニターのやつ」

『うん、見えてる』

「そっち行くかもしれんから一応気をつけておいてくれ。スーツケースは肌身離さずにな」

『うん、わかったわ……え?』

「どした?」

『……そう、なの? ……えと、ねえトキ!』

「おう」

『その……この人がシュテンさんみたい」

「ふぁ?」


 ……ホントにロクなもん拾ってこねえな。

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