ダークエルフの類友 

 4190年。

 今日も世界は平和だ……少なくとも俺の周りは。

 だって誰もいないもの。


 最近スズカが外出するようになった。

 ダークエルフ達に勉強を教えるためだ。元教師の血が騒いだらしい。


 新人類不信だったスズカも子供達相手なら別だ。頭割られたトラウマのケアになるならと俺も協力した。

 といっても、マサル達にシェルターの壁の外に教室ならぬ講堂を建設させただけなんだけど。

 あ、あとシェルターに教科書はなかったが、データはあったので印刷した。俺、頑張った。


 流石に森に住んでると、勉強なんぞしていないらしい。

 それを知ったスズカが、「文字と計算位は子供達に教えてあげたい」と言い始めたのが始まり。

 オンライン授業のアーカイブをモニターで映せばよくない? と思わんこともなかったが、解らない人が解るまでちゃんと教えるためには録画じゃ厳しいそうで。

 講堂にはどういうわけか、大人達も集合してるのが釈然としないが、スズカが楽しそうだからよしとした。

 人間だった頃「拙者働きたくないでござる」を地で行っていた俺には、仕事が楽しいって感覚がなかったから、少し羨ましくもある。

 

 スズカは昼食の時間と夕方から翌朝までは戻ってきているので、別段寂しさとかはないんだけど……感化されたのか、なんとなくソワソワしてしまう。

 で、なんか俺もやることないかなと、シェルターの倉庫を彷徨いている最中だ。


 そもそも俺、無趣味なんだよね。

 人間だった頃はゲームとか漫画とかラノベとかって立派な趣味があったんだけど、もう2000年以上ここにいるわけで……まあ、やり尽くしたよね。


 ただ歩くだけではやりたいことなど見つかるはずもない上、この倉庫、鬼堂さんの業の深さがちょこちょこ垣間見えてあんまり好きじゃない。

 最たるものは一番奥の何重にもセキュリティをかけられたドアの先。引いたよね。

 まあ、それは置いておいて。


 それなのに倉庫に来た理由は、前にスズカの武装スーツケースの製作で、工作の楽しさに目覚めかけたから。

 といっても目的もなく作るのはしんどいし、俺やスズカは何も不自由していない。

 なのでダークエルフ達が便利に使えるものを考案中だ。


 こういうとき、いきなりハードなことから始めようとすると絶対途中で飽きるから。まずは一から作るんじゃなくて、あるものを改造するくらいが丁度良い。

 実際広大なこの倉庫、何があるのか俺は把握してないし。データでリストはあるんだけど、そも作るものも決まってないから、現物見ながら何か思いつかないかなと。

 

 ……………………


 まあ、思いつかないよね。


 というか俺、奴らの生態とか詳しく知らんもん。

 狩りが好きで、うんこ虫に食わせて、酒が入ると乱交するくらいの知識。

 もっと調べようなんて気は面倒くさくて起きないし……いいや、スズカが帰って来たら聞こう。

 普段話してる分俺よりは詳しかろう、多分。




◇◆◇◆◇


「あの人達の生態ねぇ……狩人で、トイレに虫使ってて、宴会の後---」

「ゴメン、それは知ってる」

「そ、そうよね……後は一応農業もやるし、鍛冶とかも出来るみたい」

「ふむ……生態って聞き方が悪かったかな。彼らが欲しがってそうなもので、彼らじゃ用意できないものとかは?」

「んーーー………………馬、とか?」

「え、そんな趣味まであんの?」

「何の話?」

「獣か---」

「ストップ!! そうじゃなくて。農耕とかに使えるかなって思っただけよ。あと虎を狩るのに時々遠征してるみたいだし」


 なるほどね。

 車両貸した方が早い気もするが、事故防ぐには交通ルールとか整備しなきゃならないし、充電スタンドとか結構な大工事だ。

 加えてあの人達の中では科学は魔術だからな。

 馬が無難か。


「エネルギー管理とか、まださせられる状態じゃないもの。ここ、お肉に関しては猪しかいないから、川の下流に釣りに行ったり、野鳥の卵取りに森に出たりもしているみたい……結構な頻度で外に出ているから、やっぱり移動に便利な何かが喜ばれるんじゃないかしら?」


 ふむ。となると……


「ウマロイドを作る感じか……」

「野生の馬じゃ言うこと聞かないし、遺伝子操作ができるような設備は流石にないものね」

「いや、あるで」

「あるの!?」

「操作はできるけど、只の馬を産んだところで奴らに調教できんのかって疑問は残る」

「それはそうね……あ、それと」

「他にもあるのか?」

「うん。包丁と研ぎ石」

「へ? 奴らに?」

「ええ、彼等一応鍛冶はするんだけど、あんまり切れ味良くないっていうか、包丁っていうより短い鉈って感じで。動画で流してる料理を真似しようとしても、同じように切れないのよ」

「あー、そういうこと。まあ、包丁なら倉庫に在庫あるはずだから、明日馬の件考えに行くついでに取ってくるよ」

「うん」




◇◆◇◆◇


 で、本日もまた倉庫に来ている。ウマロイドなんて都合の良い物はない。

 4足歩行というならワンコのスペアがあるが、これを使うのは万が一のために避けたい。ゴリラ然り、トリ然り。

 移動に使えればよくて、マガミ達みたいに自身で食ってエナジー補給してくれれば良いんだから、ウマに拘る必要はないが……使えそうなのは人間ベースの骨格ばっかり。つまりメイドロイドのスペアだけ。どうしろと?


 人間の足を2セット繋げて4足にしてみる?

 長めの金属棒で骨盤同士を繋ぐイメージ。

 人間の足は遅いがアンドロイドなら人工筋肉次第。後ろ足にバイオモータ入れて地下で眠ってるメイドロイドの尻にぶっ刺せばケンタウロスの出来上がりだ……やめとこう。


 だったらメイドさん1体起こして車両運転させりゃいい。起こす気ないけど。


 一応食物エネルギーで動く車両に心当たりがないわけじゃないんだが、アレに手をつけるのはちょっとなぁ……


『マスター』

「んあ?」

『外出していたテリトリーの住人達が新人類を引き連れて戻ってきました』

「へ? ……誰を?」

『不明です』

「あー……視界に仮想モニター設置。音声はMOUSEで俺に回してくれ。あと俺の声とMOUSEも繋いで」

『承知しました』 


 なんだっつーのよ?

 事態を飲み込めないままの俺の視界に、西門前の画像が映される。

 あんまり好きじゃないが、直接脳に映像送られるよりはマシだ。


 その画像には虎を狩りに行った筋肉エルフと一緒に小汚いかっこした人間が10人程。


「おかえり、オーガ君。で、どないせえと?」

『ただいま戻りました。で、どうしたものでしょう?』


 俺に聞くのかよ。


「誰その人達?」

『集落の者達らしいのですが、どうやら住処を失ったようでして』

「類友か」

『獣に襲われていたので、助けて連れてきました』

「なにゆえ?」

『その、放置も気が引けまして……』


 オーガが申し訳なさそうにしょぼんとしている。


『それで、ひとまずトキ様の意見を伺おうかと』

「また面倒なことを……んー……」


 まあ、見る限り戦闘が出来るような人はいないな。


「オーガ」

「はっ」

「任せた」

「はっ、承知致しました!!」


 拾った責任は拾った奴がとりなされ。

 丸投げを決めて俺は映像を切った。

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