3章 ~傷だらけのおっさん~

ASR1000年 とある学園の歴史講義③

「では次に闇黒剣士シュテンに関してである。


 その真意は定かではないが、四天王最強、その力は魔王に迫る、などといわれているな。

 真意は定かではないと言ったのは何故か? フォウル」


「え? えっと……」


「私の講義を聴いていたなら、解るはずだぞ」


「あ、魔王国の防壁が破られたことがないから、でしょうか?」


「その通り。もう少し言うと、誰も四天王の力を比較したことなどない。

 それで最強だ魔王に迫るだと、何を根拠に? というところであるな。


 ではなぜこのような噂がたつに至ったのか。


 これに関連する話であるが、先ほどティウォが応えてくれたように、シュテンの姿は馬を象徴として描かれる。

 馬に乗り、黒い鎧を着た騎士の姿で描かれることもあれば、下半身が馬の半人半馬などという怪異な姿で描かれることもある。


 だがシュテンに関しては“馬に乗った騎士”が正であろうという声が学会では多い。

 その理由がわかるかね? エフイブ」


「え?あ、あの……すいません」


「まったく。ボーッとしてるから指してみたが。話を聞いていたかね?」


「いえ、その……はい」


「ふぅ……どうせ千年祭のことでも考えておったのであろうが、嘆かわしい。

 さて、ではわかる者はいるか?


 …………


 誰もおらんのか?

 ん? ミレニア」


「はい。シュテンに関しては出自がわかっているから、でしょうか?」


「素晴らしい!! 諸君も見習いたまえ。


 さて、いまミレニアが答えてくれたように、シュテンの出自は文献に残っている。

 その文献でシュテンはイーストサイズの周辺集落で生まれ、一度はこのサンライズ聖教国の騎士隊長を務めたという。

 この文献の正否を疑う声も上がってはいるが……これが本当であれば、シュテンは元々只の人間だった、ということになるな。


 隊長を務めるほどの力を持つシュテン。その様な者が不滅の肉体を魔王より与えられ、その技を磨き続けたとしたら……聖教国騎士団の剛強さを知る者であれば、なるほど恐れる理由も解ろう。


 以上の理由が、シュテンの魔王国最強説やシュテンの姿は人間であると言う説に結びついてくるわけだな。


 だが、シュテンが最強と言われる理由はそれだけではない。

 四天王の中でもシュテンの行いが余りに凶悪であったが故、その様な印象を持たれる様になったのでは? という者もいる。この点については私も同じ見解だ。


 ASR190年、我ら聖教国を裏切り、己の生まれた集落を焼き払い、住民を虐殺し、イーストサイズの街を滅ぼした悪逆の剣士。


 “シュテン19。0行く。堕ちて壊した東サイズ”


 そしてこの事件が、後のサイズタイド戦争へと繋がっていく、というのは皆も知っての通りである。


 時間の都合上戦争の話はまた次回だ。

 しっかりと予習しておくように」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る