新手のいやがらせ

「あれで良かったのかしらね」

「彼等の為に動こうと決めて動いたんだったとしたら、不十分にも程があると思うけど」


 スズカがあれから子供達の事を思い出しては、よく悩むようになった。

 子供というだけで無条件に構いたくなるし守ってあげたくなる。気持ちは分かる。


 だが、それを選択すれば責任を負う必要がある。

 文明も文化も違う人々。少なくとも俺は狩りで生きないし、虎の毛皮を着る趣味はないし、何の得があるのか知らないけど騎士もどきを奇襲して、肉塊に変えたりしない。

 それに若干聞きはしたけど、当事者じゃない俺は彼等の事情も本当の意味では知らない。首突っ込んだら後戻り出来なくなりそうだから突っ込む気もない。

 親が責任持って子供をああいう風に育て、失い、また手元に取り戻した。

 なら、それで良いと思う。


「良かったんだと思うよ。少なくとも部外者が部外者として出来ることはしたさ」 

「……うん、それはわかってるの」


 それでも……と思うのは、多分余所の子を責任持って教育する元教師としての一面が疼くからだろう。

 肩に乗ったスズカの頭を撫でながら、スズカの葛藤を時間が解決してくれることを祈る。


 子供達と別れて3ヶ月以上の時が経った。

 一応偵察に行って貰っていたトリィの画像では、虎狩りの民と自称していた筋肉ダークエルフ達は、フットハンドルで鍛冶屋だったっぽい家を見つけると、夜中トンテンカンテンと何かを作り始めた。

 鍛冶屋から出てくる品物を見る限り、多分罠とか、鉈をそのまま長く伸ばしたような剣というか刀とか。


 わざわざ倉庫にあった剣を溶かして作ってた位だから、どうやら騎士もどきの剣はお気に召さなかったらしい。

 矢も鏃と羽だけ再利用して、シャフトの部分はわざわざ長さを調整していた。


 その後、暫く狩りを続け、十分な食料を得ると女子供を街に留まらせ、西へと向った。

 それ以上の追跡はしていない。


 出発前に街で眠っていた酒と狩った肉で大宴会の後、彼等が盛り始めたからだ。しかもお外で。

 これ以上こいつら見てちゃダメなんじゃないかな、って思った。人として。

 俺アンドロイドだけど。


 まあ、聞こえてきた言葉の端々から推定するに、どっかの街に喧嘩売りに行くらしい。そういえば何か言ってたな。

 戦士が戦いに行くときに、恐怖に対する転位行動として発情するって話を聞いたことあるけど、それなのかな? それとも単にそういう奴らだったってだけなのか……どうでもいいや。


 騎士もどき達が子供達をここまで追って来たこと考えると、相手にも動きがあるかなと思っていたけど、そんなことはなかった。

 いや、あったのかな? 時々狩りにいったと思った筋肉ダークエルフ達が、持っていったはずのない血まみれの騎士もどきの剣とか鎧を持ち帰ってたもの。


 とにかく翌日筋肉エルフが西に旅立って、彼等を見送った女性陣や子供達が心配そうな顔を時折覗かせつつも、元気に生活を開始した映像を最後に、偵察を打ち切った。それからでいえば大体2ヶ月位経つのか。

 時が経つのは早いものだ。


 なんにしても、もうあの子達はここにはいない。

 できることもやるべきこともない。ならば折角の平和な日常を謳歌すべきだろう。


「そうね……」


 呟くスズカと目が合う。この目はアレだな。このままソファでもつれ込むやつだな。


『マスター』

「はい!?」


 ならばガバッと行ったれや、と思った矢先のスィンの声。思わず居眠りしかけた生徒が教師に指された時みたいな声を出してもうた。


『西門の映像に新人類の集団を捉えました』

「えー、じゃいつも通り……」


 危害を加えてきたら撃退と言おうとして、いつも通りに対処できないからスィンが声がけしてきたのだと思い直す。


「いや、映像を回してくれ」

『承知しました』


 1階のデカいモニターにスィンの声と同時に映る人の集団。その数、約500。

 耳が長く、褐色の肌に虎の毛皮の服。

 男達は筋骨隆々でムサいこの集団。うん、知ってる。

 女性も子供も引き連れて、大量の荷車を引きながら、明らかこっちに向ってきてる。なんで?


 ボケーッと見ていると彼等は西門の前に到着。筋肉集団を前、女性と子供を後ろに約500人が荷物を置いて門の前に集まった。


「スィン……MOUSE起動……」

『承知しました』


 なんとなくマイクをオンにしたくない気持ちを抑え、オンにする。


「あー、えと、何か御用でも?」


 挨拶も忘れてこの謎の状況の解決の為に声を発する。いや、普通に意味わからん。


『おお!!』

『エイガや奴らの言うことは本当であったか』

『いや、まだわからん』


 沸いてる。なんか知らんけど筋肉が沸いてる。イヤン、こわい。

 と、500人も人がいるので獲物と思ったか、森の茂みが動いたと思いきや、豹みたいなのがエルフの後列に飛び掛かってきた。

 悲鳴が聞こえたが、防衛装置がその前に迎撃したので被害はなし。


『見たか、今のを』

『ああ、間違いあるまい』

『確かに……』


 いや、なんなのよ? 何しに来たのよ?

 頭にクエスチョンマークを並べてると500人は皆跪き、両手を地につけ、頭を下げた。

 オウ、ジャパニーズドゲザ……


『トキ様、どうか我等の願い聞き届けて頂きたく、我ら虎狩りの民一同、ここへと参りました』

「様?」

『我ら虎狩りの民、貴方様にお仕えすることをお許し頂きたい!!』

「何言ってんの?」

『我らが力、必ずしや御身の為に役立てて見せましょうぞ!!」

「どこの戦国武将よ?」

『どうか、御開門をお願い致します!!』


 人の家の前で地に頭を擦りつける500人のダークエルフの集団。嫌がらせにしては斬新すぎる。


「あー、ちょっと待ってて」


 マイクをオフにしてスズカを見る。目をそらすなスズカ。ウォッチ、ミー。


「どうしたらいいんだこれ?」

「どうって……話を聞くしかないんじゃないかしら? ……正直まったく意味がわからないし」

「だーよーねー……入れなきゃ駄目だと思う?」

「うん。一応は知った仲だし、外立たせたまま……土下座してるけど、話し続けるのは礼儀的にちょっと……」


 知らない仲ではないが、心打ち解ける程の関係でもないから、そうはいっても警戒は必要だろう。

 危険な奴らを中に入れないって決めたんだし。


 もし、彼等がここを乗っ取る為に来たという最悪の想定をしてみる。

 戦力になりそうな筋肉共は100人程度。場所は温泉施設を想定。

 過去に騎士もどきを襲った映像を元に彼等の身体能力と、今映っている映像で見える彼等の武器から素早く戦闘結果を予測。


 うん、普通に勝てる。


 加えてそのときはマガミ達の援護も入るから、負けようがない。

 彼等のバックボーンに詳しいわけじゃないが、最悪こいつら全滅させても、スズカのときみたいに後から恨んだ奴らがしつこく襲撃してくる事はなさそうだ。

 つまり、こっちの危険ゼロ……あれ? 危険の定義とは?

 

 ため息をつきながらスィンにWシリーズを西門に向わせるよう指示を出し、マイクをオン。

 

「あー、取りあえず話を聞きたい。茶くらい出すから入ってくれ。門が開いたらウチの可愛い番犬達がお出迎えするから、誘導に従うように」

『おお、ありがとうございます』


 マイクを切り、折角癒やしの温泉施設に全く乗らない気持ちで向う準備を始めた。

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