子供達の親

「「魔法!?」」

「違います」


 翌日の朝、起きた子供達に朝飯を提供する。

 ベーコンエッグとパンと野菜スープ。パンと野菜スープはシェルター製。ベーコンエッグはスズカ製。


 で、朝飯を食べながら、持ち込んだモニターで昨日の映像を見せた。

 映像を見せるか迷ったが、言葉だけじゃどうかと思ったのでひとまず見せることにした。


 で、最初の一言がこれ。

 普通、最初同族に目が行くものではなかろうか?

 あるいはそいつらが殺人事件を起こしたことにショックを受けているとか。


「これ、君達の同族だよね?」

「うん、父上達だ」

「あ、ハイ。誇りある白の衣。あの勇猛果敢に戦う姿。間違いありません。」


 解りきったことなのに、思わず確認をとってしまった。

 とりあえず殺人事件については、むしろ胸を張る方針らしい……どういう教育?

 因みに映像の中に一人だけ白い虎の毛皮を全身に着込んでいる奴がいたが、それがどうやら父親だったらしい。


「一応どこにいるかは把握しているが、どうする?」

「僕行くよ!」

「私も、行きます!!」


 元気でよろしい。


「ねえ、トキ」

「どうしたスズカ?」

「この子達だけで、この人達のところまで行かせるの? 流石に危ないと思うんだけど」

「……」


 そういえばこの子達、ここまで普通に来ていたので忘れかけていたが、壁の向こうはモンスターでいっぱいだ。つか、よく無事にここまで来たな。


「獣除けを使ったんだ」

「獣除け?」

「うん、強い獣。虎とか熊の尿を被ると、そういう獣を嫌う獣たちが寄ってこなくなるから」


 道理で臭かったわけだよ。

 まあ迷子を親に返そうとするなら、親に子供迎えに来させんのが普通やね。


「座標はわかってるし、となると……ここに招くの? えー、ヤダー」


 相手はバチバチの殺人集団である。

 南の街とのトラブルがフラッシュバックする。僕ちゃん、もうここに危ない人入れないって決めたんだもん。


「私もちょっとアレだけど。この子達このままにしておけないでしょう?」


 そうなのよねぇ……。


「はぁ。まあ、今回はしゃーないか。とはいえ入れたくねえなぁ……つーと送るしかないのか」


 外出んのか~。ヤダな~。面倒くさい。そんなこと言ってられんのですが。

 ドランは1人乗りだから、なんか適当な車両に乗せて、親に引き渡して、速攻バックレる。

 うん、これだな。



◇◆◇◆◇


 とまあ、そんなこんなで現在結局バギーを走らせている。

 他に車両がないわけではないが、整備して直ぐに動かせるのがこれだけ。


 熱線銃とナイフを後ろに背負い、エイガをしがみつかせて走る。スズカはスーツケース型ドローンがスィンの操作範囲外になるので、スタンロッドを一応武装して後ろにジュネを乗せている。

 スズカの武装が流石に心許ないので、マガミ隊と昨日帰ってきたトリィ隊を護衛につかせた。

 バギー2台を囲むように走るワンチャン達。上空には鷲がV字編隊を組み、周囲を警戒しながら飛んでいる。


 時々獣たちが襲って来たが、マガミ達の容赦ない熱線銃により即沈黙。

 子供達が何か言いたそうだったが、「音が獣を呼ぶから静かに」と事前に言い聞かせてあったので終始黙っていた。素直で良い子。

 

 そして目的地。

 南西に100km程走らせた場所で、息を潜める様に彼等はいた。

 周囲に見張りを立てて、全力の警戒態勢。ここでバギーに乗ったままマガミを構わず引き連れていくほど空気が読めないわけではない。

 マガミ、待て、待てよ。よーし。バギーをよろしく。


「何者だ!?」

「待って!!」

「エイガとジュネよ!」


 歩いて近づいていくと見張りが武器を構え、警告じみた声を発した。

 見張りと俺の間に、エイガとジュネが慌てて身を乗り出して見張りの警戒を解く。


「……お前達……おい、族長に報せろ」

「あ、ああ」


 見張りが一人走って行ったが、待つ必要はない、というより早く帰りたい。


「昨日この子達を保護しました。身柄を引き渡したいのですが」

「待て。お前達は何者だ?」


 見張りが俺達を引き留めようとする。勘弁してくれ。


「何者と言われましてもね、何を答えろと?」

「お前達の---」

「エイガァー!! ジュネェー!!」


 見張りの声をぶった切り、響く声の出本を見てちょっとビビる。虎男かと思った。

 他の面子は腰巻き風に撒いていたり、ベストみたいに来ていたりと服の一部として毛皮を使っているんだが、この父親なる人物は、虎の毛皮をまんま被っている。顔つきで。


 映像で見て知ってはいたが、正面から見るとなかなかの迫力だ。

 頭をフードのように虎の頭で覆い、胴体部分が外套のように身体を覆う。

 長く伸ばした、というより切らずに伸びきっているザンバラヘアと髭が首を覆い、厳つい顔と筋骨隆々の肉体が獅子を連想させる。


 そんな男が、白虎のリアル着ぐるみ被って走って来たわけである。思わず撃ちそうになったよね。


「「父上ぇーーー!!!」」


 感動的親子の再会を見届けつつ、見張りの視線もそっちに移ったので、その隙に踵を返す。


「いやぁ、よかったよかった」

「ええ、本当に」

「これで明日から普通の生活に元通りだ。さて、帰ろ帰ろ」

 

 バギーに跨がったところで


「待たれえぇいぃ!! っ!? ぬおぉっ!?」


 俺達を止めようと、声を出しながら走ってきた虎男が、驚愕の顔で後ろにのけぞった。

 周りワンチャンだらけだしね。


「オオ……カミ……」


 唾を飲み込みながら鉈の様な刃を腰から抜く。


「ウチの可愛いワンチャン達にそんな物騒なもん向けないで貰えませんかね? ここまでアンタの子達を護衛したのは、この子達なんですよ?」


 ちょっとイラッとする気持ちをマガミをモフることで癒やす。マガミも甘えて俺に身体を寄せてくる。うん、かわいい。


「おお、その者達はお主の意に従っておるのか?」

「ええ、勿論」

「信じられぬ事ではあるが、いや、街の奴らは実際馬を飼い慣らしていたな……そういうことも可能なのか」


 なかなか物わかりの良いこって。


「失礼した。儂は虎狩りの民が族長、オーガと申す。我が子を送り届けてくれたこと、本当に感謝する」

「トキとスズカです。こっちも成り行きでやっただけですので。お気にせず」


 刃を収め、頭を下げるオーガさん。


「お主達は、一体何者なのだ?」

「またその質問ですか」


 見張りと違って敵意はないが、困る質問であることに変わりはない。

 だって聞かれたことなくない? 実際にこんな質問。

 人間時代、少なくとも俺は訊かれたことない。


「やましいことがあるわけじゃありませんが、どう答えて良いのか解りません。俺達の家に貴方の子供達が一晩泊まっているので、気になるならそちらから訊いて下さい」

「……そうか、解った」


 納得してくれたらしい。


「では、今度こそこれで。もう子供とはぐれないように御気をつけ下さい」

「うむ。もう短い命であろうが、二度と離さぬ」

「へ!?」


 気になるワードに足を止めてしまった。


「すまんな。その様な顔をせんでくれ。街の連中に受けた奇襲で住処を焼かれてな」

「それは聞いていますが」

「そのとき、狩りの道具も大半を失ってしまったのだ。我らは誇りをかけて、これから街の者達との戦に挑む。本来なら負けるような相手ではないが……ふむ、今のままではな」

「……襲撃された理由を聞いても?」

「大した話ではない。儂らが邪魔になったのだ。森を切開くから退けというから、突っぱねてやった結果がこれよ」

「……そうですか」


 なんとなく他人事に感じられないのは、多分俺も似た境遇であるからだろうな。違いは、住む場所を守れているか守れていないか。

 他人の争いに首を突っ込む気はまったくない。だが争いではなく、子供達のため少しだけ口を出すことにする。

 

「この先南東に5日程進むと」

「?」

「良いから聞いて下さい。この先南東に進むと今は誰もいなくなった街があります」

「お、おお?」

「4年前のある事件で、住民達が逃げ出したんですよ。そのせいで街の中にはまだ結構な物資が残っています。兵士達が使っていた武器なんかもね」

「その事件……とは?」

「細かいことは。一つ言えるのはその事件の元凶は既に去ったって事だけです」

「……そうか……ご助言感謝する」

「いいえ。それでは今度こそこれで」


 そうして俺達は家に帰った。

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