被害者の事情
温泉施設にバギー2台を走らせる。荷物が多いからスズカにも運転して貰った。
到着後2人と顔合わせ。話すべき事は多々あるが、まずは……
「風呂に入ってくれ。で、これが替えの服な」
といってもサイズなんぞ解らんから、渡したのはバスローブだ。
「「ふろ?」」
揃って首を傾げられた……まあ、普通はいきなり風呂入れとは言われないもんな。
解ってはいるんだが、茶色くない部分を探すのが難しい位だし。それなりに距離離れているのに臭いし、そもそもお嬢ちゃんの方は先ほどお漏らししているわけで。
そんな状態で椅子とか座って汚して欲しくない。仮に汚されたとして掃除はマサルに任せるとはいえ。
「ああ。ほら、身体が汚れたまんまだと衛生的に良くないだろう?だから、一回身体を綺麗にしちゃおう」
「はあ……」
何故だろう。そんなに変なこと言っていないと思うのだが、2人ともポカンとして、何言ってんのこの人? って心情を隠そうともしやがらない。……ん? もしかして……
「因みに風呂は解るかい?」
「ううん。わかんない」
「すみません……」
そっからか……ファッキン文明レベル。
◇◆◇◆◇
2人を風呂に入れ、毛皮もシャンプーで洗わせる。俺はエイガ、スズカにジュネを担当して貰う。流石に毛皮洗浄機なんて温泉施設に置いてない。下着につけていた
因みに当たり前だが2人はトイレの使い方も知らなかった。結構大変だった。
綺麗になったところで、改めて2人をみる。
銀髪が褐色の肌に映える。どちらも中性的な顔立ちで、将来はイケメンと美女になりそうだが、今は可愛らしいという感じ。
ジュネがお腹でキュルルと可愛い音を鳴らしつつ、顔を真っ赤に染めたので、話は飯を食いながらにしようと準備に取りかかった。といっても2人が温泉設備まで登りを歩いてきたのに対し、こっちはバギーで下り道。
その時間は有効利用しようと、飯はシェルターの食堂で注文したものを鍋に入れてきたので、温めるだけだ。
風呂上がりの冷たい牛乳、サウナ上がりのカップラーメンと、こっちで食べたくなったものを食べられるように冷蔵庫も電気コンロも揃えてあるから、温めるくらいは簡単だ。
2人とも若干やつれていて、あんまり味と油の濃いものはよくなかろうと、柚をたっぷり効かせた塩ちゃんこを用意。
おじやで締めれば腹も一杯になるだろう。
「ほれ、出来たぞ。遠慮せず食ってくれ」
2人にちゃんこをスズカが取り分ける。俺達が食べないと遠慮するかもと、一応最初の一杯は俺達も一緒に食べつつ、ついでに2人を事情を聞き取る。
正直2人の身の上自体には余り関心ないんだけどね。
気になるのは寧ろ兵士達の方。黙って引き下がるのか、またここに来るのか。
一応奴らの行き先をトリィ達に追わせているが、得られる情報は得た方がいいだろう。
「で、君らはどうしてここに?」
「それが……うぐっ、う、うぅぅ」
「ぐすっ」
聞いたら泣かれた……これ俺が悪いんかな……
◇◆◇◆◇
涙腺を緩ませ、鼻をグジグジ言わせながら、飯はしっかり食べつつ、話された要領を得ない会話を頑張って理解するよう務める。で、内容をQ&Aで箇条にすると……
Q.アナタ達はだれですか?
A.虎狩りの民です。その族長の子供です。
Q.虎狩りの民とは何ですか?
A.狩人を生業とし、自然と共存する民です。強者は虎を狩って力を示し、一人前と認められます。
Q.何で追われていましたか?
A.解りません。突然住んでいた場所を火で焼かれ、襲撃されました。
Q.住んでいた場所はどこですか?
A.必死で逃げていたので方向も距離も解りません。
Q.いつの事ですか?
A.10日前位のことです。
Q.他に住んでいた人は?
A.数えたことはないけどたくさんいました。そしてたくさん殺されました。
Q.他に生きている人達はいないのですか?
A.いるはずです。でも逃げている最中にはぐれてしまいました。
Q.どうしてここに来たんですか?
A。隠れながら逃げて、見つかって、走った先に偶然あったから。息も切れてもう走れなかったから、ここにすがるしかないと思いました。
Q.追って来た人達は誰ですか?
A.解りません。父は街の奴らと言っていました。
Q.何故耳が長いんですか?
A.虎狩りの民だからです。
Q.歳はいくつですか?
A.エイガ10歳。ジュネ16歳。
以上。
解ったようで解らんかったが、あの兵士達が彼等の住処をいきなり襲撃したってことなら、なんで襲撃されたかなんて子供が知るわけないわな。
さて。考えるべきは、この後どうするか、なんだけど……
はっきり言うがいつまでも世話する気はない。冷たいと思われるかも知れないが、余所の子を拾ったからとて、ほいほい育てられるものじゃない。
犬猫じゃねえし、今の時代犬猫だってヤバイし。
じゃあ、明日壁の外に放り出すのかといわれると、それはどうなのよ? って話になる。
これはかなり面倒くさい状況ですよ。
うーん、まあ何だ……
「一旦保留で」
他に何を言えと?
暫くここにいることは許可し、安心させて寝かしつける。
一番良いのは親元に返すことだ。だが、その親がどこに居るか解らん。
「追跡……するか……」
まあ、そういう答えになる。じゃあ手掛かりは?
住んでいた場所が解れば、そこから追跡することは出来るかも知れないが、それも解らんときたもんだ。
森が焼かれたというなら、焦げた場所を探せば良いのかも知れないが、ちと途方もなさ過ぎませんかね?
「Eを1隊回して虱潰しにやるしかないか?」
あんまりウチの可愛い同居人達を危険に晒したくはないんだが。
別段トリィ達は無敵の軍団ではない。熱線銃を搭載しているという優位性を持った“集団”であることが本当の強さであって、一体では不意打ちでやられる可能性がゼロではない。
解決策はもう一つある。
追われていることが問題なら問題の根元、つまり現在追跡中の騎士もどきが住む街をドランでドカンすればいい。
ただ騎士もどきはゲスだったとしても、命じた側には正当な理由があったのかもしれない。ふむ……
『マスター』
「どうした?」
迷っているとスィンが声をかけられる。
『トリィ隊より映像が送信されました』
映像が送信されたということは、送信できる距離にトリィ達がいると言うこと。つまり追跡が終わり、帰って来たということだ。
「早くない?」
『追跡に失敗したようです』
「へ?」
空中からの監視というスピードもトリィが失敗。しかも相手は一部怪我人。どうなってんだ?
『映像を確認されますか?』
「ああ」
返事と共にモニターに映った映像。騎士もどき達は隊長を馬に乗せ西に向って移動していた。その騎士もどきを突如多数の矢が襲う。
『『『うおぉおおぉおおお!!』』』
それなりに上空にいるトリィのマイクが拾うくらいの大声で現れた襲撃者達。手に持った武器はそれぞれだが、襲撃者に共通点が4つ。
耳が長い、肌が褐色、虎の毛皮、筋肉過剰にムッキムキ。
最後のはどうでもいいが、これってそういうことだよね。
彼等は騎士共に突撃し、蹂躙してみせた。
「見つけた、はいいけど殺人集団とかマジかよ」
『一部のEシリーズが襲撃者を追跡していますが、如何致しましょう? 継続しますか?』
「ああ……継続で」
『承知しました』
寝る前にイヤなもん見せられたわ……
これ、子供達に見せていいもんかね?
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