久しぶりの来訪者

 4188年。

 もう暦というものに意味を感じなくなってきたが、それでも体内時計は正確に時を刻んでいる。


 スズカと会って4年。互いに見た目は齢を重ねることもなく、今日も変わらぬ日々を過ごしている。

 つまり食って、ヤって、寝てるわけだ。

 たまになんちゃって温泉行ったり、山中で2人バギーを走らせてみたり、ジムで泳いでみたり、外で肉焼いてみたりと気分転換はしているが、基本行動はこの3つ。

 ぶっちゃけ最も大きな欲望を満たされているわけだから、今の生活に不満なんてない。


 全てが満たされた、いたって平和な日常。

 このまま5000年を迎えるのは悪くないと思える日々。ずっとこのままこの壁の中で生きよう。

 うん、そうしよう。


『マスター、西側の壁の外に人間らしき生物を確認しました。如何致しましょう?』

「スルーで。こっちに何かしてくるようなら迎撃で」

『承知致しました』

 

 過去、頭割られたスズカは新人類不信である。

 俺も人間不信が治ったわけではない。スズカが特別なだけだ。


 というわけで、こういうときの対応は決めている。同じ失敗を繰り返す気はない。

 スズカを迎えられたおかげで結果的にプラスに見えるが、あれは確実に失敗だった。

 アルフとかいうおっさんは敵意満載だった。最後おっさんは脇腹ぐっさりやられて被害者になったが、それは向こうの事情で結果に過ぎない。

 言ってみれば「この家の有り金全部ぶんどってやるぜ!!」と息巻いている訪問販売装った詐欺師を、我が家の庭に知ってて通したようなものだ。

 不用心にも程がある。


 人類がいることに驚き、好奇心が抑えられなかったところへの美人局。今にして思えばなぜ引っかかった、俺?

 もう新しい人類がいることが解った上、今の俺は満たされている。

 居留守上等。もう門を開けることなんてあるものか。


『マスター』

「ん?」

『こちらに害意がなく、しかし被害を受ける可能性がある場合は如何致しましょう?』

「なんだそれ? ……映像と音声よろ」

『はい、マスター』


 まず、モニターの先頭に映った人影は、背のまだ小さい男の子と女性。土汚れが酷くて年齢は見当つけにくいが男の子は勿論、女性も若い。多分10台後半。

 褐色の肌に虎の模様、というか毛皮かな? を身に纏った褐色の肌の2人。

 耳が異様に長い……つーかこれ……


「ダークエルフ?」


 虎の皮着たダークエルフ。ゴメン、聞いたことない。

 てか、何か? またこの世界は異世界へと一歩前進したのか?


 そんな2人が防犯カメラに、つまり門に向って走ってくる。距離を置き、その2人の後ろに追随する騎士もどき。その数30程……これは、どう見たらよいのでしょう?

 見ているとその子供が門に縋り付きこう言った。


『助けて!!』

「は?」


 ハァハァと息を切らし、門の前で蹲る子供。その子供を守る様に腕に抱え、騎士もどきを振り返る女性。睨み付けてんのかな?


 何が始まったよ? ……色々予想外だ。

 ふむ……どうすんべ?

 悩んでいる間にモニターでは寸劇が進んでいく。追いついた騎士団の先頭にいる奴らが、イイ感じに汚え笑いを浮かべながら2人にこう言った。


『へっ、手間かけてくれやがって』

『追い詰めたぜぇ。なあ、お坊ちゃん』

『なかなか頑張ったなぁ。だが、ここまでだ』

『おい、縄持ってこい。さっさとふん縛っていかねえとな』

『待てよ。ガキはともかく、女の方はちと楽しませて貰ってからでいいんじゃねえか? 生きてりゃいいんだろ?』

『クカカッ。まあ確かにな。任務を頑張った御褒美だ』


 おお。展開までファンタジー。つか人の家の前で何しようとしてんのこの人達?


『それ以上近寄らないで!! お前らにもし指1本でも触れようものなら舌を噛み切って死んでやる!!』

『おお、やってみろ。お前が死んでもガキが生きてりゃ……』

『隊長!』


 男の声を同じ騎士もどきの一人が遮る。声的に多分若手。


『なんだガム』

『いや、ここって』

『あん?』


 やっとこっちに気付いてくれたらしい。


『別段よくある遺跡だろ?……なんか新しい気はするが』

『じゃなくて、あれじゃないですか? ほらフットハンドルの奴らが言ってた。位置も合いますし……』

『あ? ……ああ、鉄と石の壁の街ってか。ハッ、なんだお前。ビビってんのか? 魔術とかいう眉唾モン。どうせフットハンドルの兵士共が逃げ帰った言い訳だろが』

『ですが、その……リンディア様も……』

『フン……』


 リンディア様が何だろう? ウチにいるけど。

 隊長さんとやら強がってるが、ビビりが顔面に出てますけど。つか我が家はどんな噂をされてるのかね?


『どっちにしろ向こうさんは全く反応してねえみたいだぜ? もうくたばったんじゃねえか?』

『言えてるぜ。門に見張りも立ててねえしな』

『どうせなら、コイツ等縛ったついでに壁ぶっ壊して火でもつけてってやりゃあいい』


 ふむ。騎士もどき共は敵確定。

 

『助けて……助けてくれ!! 誰かいるんだろ!!』


 子供がまた叫び門をドンドンと叩き始めた。


『迎撃しますか?』

「やめて差し上げて」


 確かに門を叩くのも害意かもしれないが、これ見てて子供撃つのは流石にどうなの?


『おいおい、民の誇りとやらはどこ行った? 女に護られて、次は壁に向って助けてーってか?』

『次期族長様ってのも大したこたねえぜ』

『まったくだ。さて、じゃ取りあえずガキ縛んぞ』


 長いおしゃべりを終えて騎士もどき達が2人に歩み寄る。

 男の子は涙を流しながら門に縋り付き、女性は男の子を両手で強く抱きしめる。

 これ、見逃すのはちょっとなあ……関わりたくないけども……あー、メンドくさ。

 メンドくせーけど、見ちゃったもんはしゃーなし。


「スィン、騎士もどきの足下に威嚇射撃」

『はい、マスター』


 一斉に放たれた防衛装置の熱線銃が、2人の周囲の地面を抉る。


『ぐおっ!?』

『な、何だ!?』

『た、隊長っ!?』


 騎士もどき達が驚愕の表情を浮かべ、歩みを止める。

 ダークエルフ(仮)の2人も驚きの表情で門の防衛装置を見上げている。


「スィン、MOUSE起動。対象は画面に映ってる奴ら全員」

『承知しました』


 スィンの返事と共にMOUSEが起動する。


「アー、アー、聞こえますか?」

『これは?』

『隊長!!間違いないですよ!!これって』

『うるせーぞガム!!』


 なんか大混乱だな……さて、なんて言おう?

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