2章 ~新しい国民~

ASR1000年 とある学園の歴史講義②

「では次に魔王国とは、について論じよう。

 考えてみると魔王本人の存在というのは、思うほど歴史の表舞台に出てくることがない。

 現実として存在する魔王国の存在を知らなければ、地方に根ざす伝承の一つに過ぎないのでは? と笑い飛ばす者がいてもおかしくない程だ。

 

 実際、魔王というのは生ける伝承とも言える節がある。

 魔王国が発見されてより、今の今まで事実の国の防壁は破られたことがない。

 それは魔王の存在を誰も証明することができない、ということでもある。

 我々講師が所属する学会では“本当に今も実在するのか?”等と疑問視する声も上がっている。


 だが、そう言った者達はあくまで少数派だ

 事実、の存在を信じぬ者はいまい。

 勿論、あまりに大きな歴史的事件を起こしたから、というのもあるであろうが。

 皆その姿を見たことがないにも関わらず、その存在を信じている。


 学会では魔王の実在については、いつもある一言で反論される。

 では、“四天王”は誰に従っているのか?


 これは私の私見でもあるが、国への影響力と存在の知名度は必ずしも同じではない。

 魔王が今も有名であり続けているのは、“四天王”の存在によるところが大きい。


 では魔王国最高幹部といわれる、四天王について改めて論じていこう。

 知っての通り四天王と言う位だから4人いるわけだ。


 まず一人目。

 地獄の大淫婦、魔王妃スズカ。


 魔王や四天王というのはその存在の象徴を野獣の姿で描かれることが多い。

 魔王の象徴が竜であるのに対し、魔王妃スズカの象徴は“蛇”だ。

 身体に大蛇を巻き付けた女性を描く絵もあれば、上半身が人で下半身が蛇で描かれることもある。

 どちらも禍々しい事に変わりはないが、学門の視点から考えるなら禍々しいで終わりにしてはならない。どうしてこのように姿絵が各人によって違うのかを、しっかりと理解しておくことだ。


 魔王妃スズカというのは、魔王よりも歴史の表舞台に出て来ることがない。

 その為、どの姿絵を真とするか、そもそも真と捉えて良い姿絵があるのかもよく解ってはいない、というのが実情である。

 中にはその絵姿を真に受けて、四天王とは亜人たるか魔人たるかなどという者もいるが……絵画に描かれる絵は、あくまで伝え聞かされた内容を元に、絵描き達が想像で書いたということを忘れてはならない。

 言い換えれば否定する材料もない、ということでもあるが……


 続けよう。

 魔獣達を統べる獣人。人と獣の狭間にある者。狂獣戦士オーガ。

 さて、眠くなってくる頃合であるし、ここは質問でもしてみようか……オウネ」


「え、あ、ハイッ」


「オーガの象徴といえば何かね?」


「えと、“虎”です」


「その通り。

 オーガは二足歩行で武器を持つ虎の絵姿で描かれる。 

 オーガに関しては他の姿絵を少なくとも私は見たことがないが、皆はどうかな?

 ふむ……やはりないか。

 

 オーガの姿は虎であるが、絵画には大概別の獣も描かれる。魔狼、巨猿、怪鳥のいずれかだな。

 こう言った背景を気をつけてみることも重要であるぞ。

 情報が違って伝わっているということは、それだけ情報が不確かであるということだ。

 魔獣とは如何なる存在なのか。あるいはそのどれもが存在するのか。


 では、闇黒剣士シュテンについてはどうかな?ティウォ」


「ハイ……“馬”です」


「その通り。続けて聞こう。スリエ、潜影凶手ヤコウはどうだろう?」


「あ、ハイ。“牛”だと思います」


「正解だ。有名である故知らぬ者もおらんな。では、次は難しいが聞いてみよう。“四天王”の存在が何故ここまで有名か、解るかな?ミレニア」


「ハイ。歴史に度々登場しては悪逆を尽くす者達であると同時に、その存在が数百年と語り継がれている為です」


「流石だミレニア。公爵家の生まれだけある。完璧な回答といえよう。

 そう、数百年と語り継がれ、今も時折その存在を覗かせる、四天王の特異性故だ。


 まるで不滅の存在のように、彼の者達は何百年にも渡って歴史に度々登場するのだ。

 そしてそれが魔王もまた不滅の存在なのでは? とする根拠ともなっている、というわけだな。


 では四天王の有名な事件について少し紹介するとしよう。


 ASR188年。歴史上初めてオーガの存在が確認された年だ。

 “188イヤン、ヤメテ、オーガが壊したノーズサイズ”で習ったとおり、サイズタイド領の衛星街ノーズサイズの壊滅事件である」

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