平和の享受

 平和だ。


 塔を撃ち抜いてからもう1ヶ月が経つ。

 10日に1回位あった兵達の襲撃は、あれからない。

 やっぱり人間関係において相互理解は大切なんだなぁと思う。理解が深まり過ぎてフットハンドルの街には人影がなくなってしまったが、まあ良しとしましょう。


 さて、外への脅威がなくなったからか、スズカが外に出たがるようになった。

 森にはでっかい猪が彷徨いているので危ないし、スズカも森に入ろうと言うつもりはなかったのだろうが、ときどきは日光に当たりたいそうだ。俺には解らん感覚だな。


 シェルターは基本地下に埋まってるから、確かにここに住んでると日光に当たる事は希だ。

 一応出入り口やアンテナは地面より上にあるので、その屋上行けば当たれんこともないが。

 俺も閉じ込める趣味はないので、危ないところには行かないように忠告しつつも、スズカの武装を考えるべきかと思っている。

 防壁に囲まれた屋上とは言え100%安全とは言えない。トリィ達が見張っているとはいえ、屋上に空飛ぶ害獣が防衛網突破して来ないとも限らない。例えその確率が0.01%だとしても、備えあれば憂いなしである。


 というわけで現在シェルター内の倉庫を物色中だ。

 最初は手頃な大きさの銃でも渡せば良いかと思ったが、思いとどまった。

 スズカは戦闘アンドロイドではない。パワーもスピードも人間が出せる域を超えていない。


 看護される側にとって、看護する側が使用用途の謎な必要以上のパワーを持っている、というのは不安要素でしかないからね。

 そういう理由で、看護機はわざとパワーを落した仕様になっていたりする。


 俺のスペックだと自分で銃を持つのが一番強いのだが、スズカはそうはいかない。加えて今は精神的に人間の弱い部分も備えてしまっている。銃を渡してもいざってときに撃てないかもしれない。

 何らかサポート機能のあるものの方が良いだろう。

 とはいえ武装車両やパワースーツとかを渡すのも違う気がする。攻撃面も防御面も申し分なく強力な補助ではあるが、まず日光に当たれないし。


 うーん……となると。

 武器は制御をスィンに任せてスズカは装備してるだけって感じの方がいい気がする。

 そういえば武装ドローンがあったはずだ。


 ………………


 あ、これこれ。円盤のようなしゃれた機体の形状。

 あ、でもこれ動作可能時間が短いんだよな。熱線銃にもドローンの動力にも電力はいる。


 エリアの自動警備目的なら充電期間は別の機体を用意し、その上で警備に穴が出ないように警備ルートを設定すれば良いけども、武器に合わせてスズカの行動が制限されるってのはな。

 マガミ達みたいに、自分で食って補給してくれるならいいんだが。

 外付けバッテリーはドローンが重くなって機動性が悪くなるしな。


 ……てか、外出時限定とはいえ横でずっとプロペラ音がなってるってどうなんだ?


 んー……戦闘時だけ起動させればいいのか。

 手元でスイッチオンで動けばいいや。

 これだったらバッテリーからケーブル繋ぐ方がいいよな。


 機体のバッテリーを外せるから機体がより軽くなるし。ドローンの役目はスズカの護衛だけだからスズカの周辺にいれば良いんわけで、だったらケーブルの長さは特にネックにならないだろう。

 バッテリーとドローンの接続オンで動き出す感じ。うん、悪くない。

 バッテリーにドローンの収まるケースとケーブルの巻き上げ機能つけてバッテリーと一緒に持ち運びが出来るようにする。

 ちと重いけどスーツケースみたいに車輪つけて運べるようにすれば良いでしょ。うん、そうしよ。




◇◆◇◆◇


「……なんか、蛇みたいね……」


 俺特製スズカ護衛ウェポンを見たときのスズカの一言である。

 そう言われれば、ドローンを頭に見立ててケーブルを胴体に見立てればそう見えなくもない。

 まさかデザイン性にダメ出しが出ると思わなかった。


「あ、大丈夫よ。備えとして効率的なのは解るし、せっかくトキが用意してくれたものだもの。すごく嬉しい」

「そか……そう言って貰えてよかったよ」


 とまあ、採用はされた。


「さて、やることなくなっちゃったな」

「フフ、これを作っているときのトキ、楽しそうだったものね」

「作ったってのも大袈裟なんだけどな。ある部品組み合わせただけだし。でもまあ、いい暇つぶしにはなったよ」

「よかったわね……それじゃ今日は時間あるんだ」

「ああ、まあ」

「じゃあ……」


 スズカに手を引かれるまま向ったベッドに、俺達は潜り込んだ。

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