いきなりの殺人事件

「え!?」


 折角の美人が台無しなぐらい驚いてくれたが、こっちから言わせれば寧ろ普通じゃねえかな、と思えて仕方ない。

 はっきり言ってこっちにメリットないし……まあ、損得抜きにしても微妙な話だと思うけど。


「き、貴様ぁ!!リンディア様をどなたと……ぐッ!」


 予想通りアルフのおっさんがプチッといったが、リンディアさんが手で制したので見なかったことにする。


「理由を聞いても?」

「質問返しで申し訳ないんですが。そもそも、なぜそんなに人に拘るのでしょう?」

「と……いいますと?」

「あー、先に言っておくと俺は人類滅亡なんて望んだことはないですよ? 人間が好きかと言われたら微妙ですが……人だった頃は周囲にもそれなりに大事な人がいたりもしましたし。言いたいのは、人が滅んだって事実は消えないわけで、そこに無理矢理人類創ってまで繁栄させたい理由は何なのか? と」

「人類が滅んだ運命を受け入れるべきだと?」

「運命とか知りませんが、ただ乗り気じゃないってだけです。こんな身体でこんな場所に住んでる立場で自然や運命をどうこう語る気はないので」

「乗り気じゃないって……」

「そりゃ貴方は自分で生み出した人々に思い入れもあるんでしょうけど、俺は全くありませんから。そもそもなんで新しい人類を?」

「そ、それは……」


 答えたくない、というより考えなかったって顔だ。ふむ……


「さっき七体で始めたと仰ってましたが、貴方は初めから参加していたので?」

「いえ……私は、ある施設で凍結されていたところをビリオン達に起こして貰って、世界がこうなった実情を教えられて……」

「言われるがまま手伝った?」

「正しいことだと思いました! ……滅んだ世界を今一度取り戻す。それが悪いことでしょうか?」

「善い悪いじゃないと思うんですが」


「それはどういうことでしょう?」

「勝手な推測ですが、死んだはずが今一度望んでないのに何故か目覚めて、そしたら世界がボロボロで、なんでこんな時に目覚めなきゃイケナイの? ってシチュエーションで、“君が必要だ”って手を差し伸べられたら、その手を取るしかないだろうな、とは思うんですよ」

「そ、そんなことは……」

「あ、ただの推測ですよ。実際どうだったかは知りません。受け取った情報を見て高い志に燃えたのかも知れないし。そこはどっちでもいいんですよ、俺には」

「どっちでもって……」

「仮に貴方方の志が正義なのだとしても、それって貴方たちだけのの正義なわけで。絶対の正義ってやつがないのは常識だと思うので議論は省かせて貰って、単純に貴方たちの掲げた正義に共感できないんですよね。大事な人が不幸な目に遭うのは悲しいけれど、地球の裏側で誰かが死んでも関心なんてないのと一緒で。他人が他人の為に頑張るのは見ていて素晴らしい事なんだとは思いますが、失敗してもそうですかってだけですし。まして関心持てない他人の事情に巻き込まれるってのは流石にゴメンですね」

「私は協力をお願いしているのです。巻き込むだなんて……」

「そもそも今やっていることは正しいのか? って点を共感できなきゃ協力なんて出来ないでしょう。俺達はその部分が食い違っている。だから協力は出来ないって断ったんです」


 正義とは何かではなく、協力とは何かって話だ。

 見る方向が一緒だから手は取り合える。

 そして、俺には全く新しい人類の世界ってやつに魅力が感じられない。

 だから無理。それだけ。 


「では……貴方が正しいと思う世界はどのようなものなのですか?」

「だから世界の在り方に正しいも何もない、が俺の思いなわけでして。そんなもの、それこそ個人の決めるこっちゃないですし。勿論貴方達のやることを否定する気もないですよ? 貴方達の考える通り、人がまたかつてのように繁栄するのだとして、それを邪魔する気もありません。彼等が俺やここに危害を加えようとするなら話は別ですが」


 一応の警告を加えて話の終わりを示す。

 久々の他人との会話で疲れた。

 最初は浮かれていたが、実際来て見ると他人と関わるって面倒くさい事なんだなって思う。

 来たことに後悔しかない。


 どう在りたいのか、どう生きたいのか。

 好きなものが共通の人と会話が弾む様に、一緒にいて楽しいと思えるのはやはり目指す場所が一緒の相手なんだと思う。

 自分の為に働いてるのに、会社の為に自分に権利以上の責任を求められるのは辛いのと同じで……なんか嫌なこと思い出したな。


「……そう……ですか」


 少し落ち込みながら引き返すリンディアさん。

 ちょっと悪い気もするがね。


「今日は失礼します」

「ええ。それでは……ん? 今日“は”?」

「また来ます」

「はい?」


 いや、なんで?


「共感してもらえないなら、して貰えるまで何度だって来ます」

「俺に迷惑だとは思わないので?」

「取り返します。たとえ今は迷惑だと思われても、後になれば感謝できるって思って貰えるように」


 そんないい顔されましても。


「貴重な体験でした。今まで疑うことなく正しいと思っていた、私達がやってきたことが実は人によってそんな風に思える事だったんだって。でも、それでも今の私達の街は、そこにいる人々の中で生きる今の生活は、素晴らしいと思うから。こんなに素晴らしい日々が正しくないなんて思えるわけないから」

「いや、そう言われましても」

「一度私達の街にお招きしますね。見て貰わなければ伝わりませんし。今日は無理でも、せめて一度来て貰えるようになるまでは、ここに来続けます」

「……さいで」


 まあ、今日帰るつもりでいるならよしとしよう。

 次からは居留守使えばいいし。


「だから、今日“は”これで」


 肩をすくめて返事にする。こっちは約束してねえぞ、と。

 そうして今度こそ後ろの二人の元に引き返すリンディアさん。

 その二人の内の一人、アルフって野郎の身体が傾ぎ、と同時にハルバートがリンディアさんの頭にめり込んだ……は?


 リンディアさんが倒れるより早く、その身体の影から横に身をずらしたベートの手には弓矢が構えられていて、その矢はためらいなく俺に向って放たれた。

 普通の人間なら確実死んでる脳天直撃の早業も、身体スペックのおかげで易々と掴み取り、お返しに熱線銃を二発。

 両腕を撃ち抜き、事情が全く解らんこの状況を打破すべく、ベートの捕獲に動く。


 足を払い地面に押しつけ、ベートの身動きを封じたところで、残りの二人を確認する。

 頭かち割られたリンディアさんは勿論、アルフの横っ腹には深々とベートの剣が突き刺さっていた。


「ゴクン」


 ……しまった。

 飲み込む音はベートから、つまり


「毒を飲んだか……」


 口の中に仕込んでいらっしゃったか。

 ここで死を選ぶと言うことは、聞かれちゃ困る事情があったと言うこと。

 つまり命じられてやったことなのだろうが、何にせよ、今ここには死体が三と生者が俺だけ。


「もしかしてハメられたのかな?……これは」


 門の向こうには五十近くの兵が三人の帰りを待っている。

 さて……どうしよ?

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