久しぶりの外出

『初めまして。この声は届いていますでしょうか?』


 ガッツリカメラ目線で問われた言葉にどう返そうか躊躇する。

 人と話すのも何年ぶりだ? コミュ力高い方じゃないがまともに話せるかな……まあ、その辺りはアンドロイドの部分に期待だ。


「監視カメラに門の近くにスピーカーってあったっけ?」

『いえ、来客を想定して建設していませんでしたので』

「確かに。じゃあMOUSEを起動してくれ。対象は門の前にいる人間全員……届くよな?」 

『有効範囲内です。MOUSEを起動します』


 タワーに取り付けられた音声発信装置“MOUSE”。

 こうして連絡先も知らない遠くの相手に直接声を届けることが出来る。

 名前の由来は口の英語“MOUTH”とかかっているらしい。あとネズミのどこにでも現れる感じと、どこでも届く装置の便利性からと聞いたことがある。


 ある波長の電磁波を当てて骨を共振させ、その振動で声を伝える。

 相手の意思に関係なく骨伝導させる健康倫理に反した装置だ。その為一般化はしてない。

 イヤホンをつけてるとバレるかもしれない、身代金の受渡とかで被害者にこれを使って指示したり、銀行強盗が立て籠もった銀行の職員に警察が指示したりといった使用用途が主だ。

 

「アー、アー、聞こえますか?」

『やはり、ここには住民がいるのですね』


 聞こえたようだ。女性のアンドロイドはMOUSEを当然しっているから平然としていたが、騎士団はざわざわと騒いでいる。

 

『どこから聞こえているんだ、この声は!?』

『どこだ!? どこにいる!?』

『いや待て、これは……同じ力……』

『馬鹿をいうな!!』


 これはMOUSEを新人類はしらないと思った方が良いだろうか? いいだろうな。

 一旦彼等は無視して俺は女性アンドロイドとの話にまずは集中しよう。


「先に要件を訊かせてください。何をしに兵を引き連れてここへ?」

『彼等は道中の護衛です。ここに危害を加えるつもりはありません。私は貴方たちと話し合いがしたいのです』

「何を話します?」

『まずはお互いを知るところから始められれば、と思っていますが』


 “思う”ね。解っちゃいたがこのアンドロイドも自我に目覚めているようだ。

 しかし動きがやたらと艶めかしいな……もしかしてアレかな?

 なんにせよ警戒を解くべきではないだろうが、このまま腹を探り合っても仕方がない。


「となると、直接顔を合わせるべきでしょうかね?」

『宜しければ』

「しかしながら、我が家に武器を持った赤の他人を易々と招く気にはなれないのですがね」

『では、私だけなら如何でしょう?』

『リンディア様、それは危険です!!』

『この先に何があるか解らんのですよ!?』

『相手が我々に敵意を示したらどうするのです?』


 話を聞いていた部下の一部が、リンディアと呼ばれた女性のアンドロイドの一言に反応し騒ぎ立てる。


『ふぅ……困りました』


 そう言いながら助けを求める視線をリンディアさんがカメラに向けてきた。

 そこは自分でなんとかしろや。

 会話を聞く限りこのリンディアさんというのは、この集団でも高い身分に位置づけられているのだろう。命じれば部下も引くはずだし。


『せめて私だけでも同行を!!』

『それならば俺も。リンディア様を命をかけて護るのが使命なれば』

『アルフ……はぁ。お聞きしたいことがあります。この門の先に危険な獣はいませんか?』

「ああ……牙の立派過ぎる猪がいるっちゃいますね。こちらで抑えますが」

『失礼な言い方になるかもしれませんが、初めてお会いする方に私も命を委ねるわけにはいきません。アルフとベートだけでも同行させて貰えませんか?』

「2人だけですね? …………ま、いいでしょう」


 そりゃまあ、向こうも警戒はするだろうよな。


「スィン」

『はい、マスター』

「門に一番近いパトロール隊は?」

『現在マガミの隊が最も門から近いですね。到着まで3分』

「それは好都合。門の周囲に向わせてくれ」

『了解』


 さてと。


「これから門の扉をあけます。貴方と先ほどの2名のみお入り下さい。他の方が入ろうとした時点で敵と見なします」

『……それは怖いですわね』

「入った後は扉をしめますので俺の部下……Wシリーズはご存じで?」

『軍用の? 知識としてはありますが、そのようなものがここに……?』

「ええ、彼等があなた方の護衛を務めますので御心配なく。同行されるナイトの皆さんにも腰の刃を抜かぬよう念押ししておいて下さい」

『わ、解りました』

「入った後はその場でお待ち下さい。車があるのでこちらから向った方が早いでしょう」

『宜しいのですか? お手間をおかけします』

「到着には1時間ほどみて下さい。では、話の続きはお会いしたときに」

『ええ、楽しみにしています』

「通信終了」


 となれば行動開始といかねばなるまい。


「スィン、理解したな?」

『はい、マスター』

「もしものときは、迎撃して構わない。その際はできるだけ武器の破壊のみに留めるようマガミに指示してくれ』

『了解』

「それとマガミの視点映像と門の監視カメラの映像を俺に転送してくれ。彼等の会話も頼む」

『了解』


 スィンの返事に合わせて頭の中に3つの映像が映し出される。

 俺の視点と、マガミの視点と、門の監視カメラ映像。流れる音も三ヶ所同時。


 俺の身体の性能的はこの程度で混乱したりはしないが、人間の部分が不快感を示す。

 なので、あまり映像の直接入力が好きではない。いつもならモニターに映すのだが、この後運転しなければならないのだから、今回は妥協する。


 開けた門には約束通り3名のみが入ったようだ。

 扉は閉められリンディアさん達は言われた通りに、その場で待機している。


「それじゃ行きますかね」


 ジャージから、念のため黒染めのタクティカルスタイルに着替える。

 かっぱらった熱線銃Z-12を背中に背負い、合金ナイフが収まった鞘をベルトの後ろに装備する。

 部屋を出て、愛車の四輪バギーAWAKEN SHEEPに跨がり目指すは南の門。


「楽しみ……なのかね」


 久々の他者との出会い。この10日間持て余していた感情の正体を漸く自覚した。

 人が集まれば多数が勝者になり、その勝敗の繰り返しで組織が出来る。組織が出来れば必ず権力者は欲をかき、その欲の犠牲に誰かがなる。だからここにいるのは俺だけで良い。

 今もその考えは変わらない。だが、だから孤独でいいというわけではないのだ。


 自身の生と直接関わり合いのない人達と、ときどき程よく付き合いが出来たらそれは嬉しいことだ。

 そんな期待を胸に秘め、俺と愛車は本当に久方ぶりとなるシェルターの外へと出発した。

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