第7話 カーテンコール

 藤川、道隆のいる客席はなにが起こったのかわからない感じだった。突然の太陽の光で目潰しをくらい。瞑ったまま終わってしまった。

 水を打った静けさにつつまれる。

 暫くするとパラパラと拍手が始まり、幕が開いていくと歓声に沸く。

 今の自分の状況に戸惑いながらリベランスをする白の出演者たち。もちろん白のクラシックチュチュではなく。髪をおろしてのドレス姿だ。ロマンティックチュチュとは違い本当にドレスだ。

 オデットとジークフリードが現れる。大歓声。どういうわけか、ジークフリードだけがびしょ濡れだ。少し笑いがおきる。ロットバルトが2人より後なのと思っていると、

 湖の中から怪人姿に戻った彼が這い上がってくる。当然、びしょ濡れだ。犬が水を払うように身震いするように彼が身体をブルブルすると水しぶきがとび、しぶきが客席まで届く。迷惑がる人は誰もいない。笑いと大歓声だ。

 明子は王子とロットバルトとリベランスをする。

 彼女が客席を見渡すとやはり今日もきていた。グリーンのスーツ姿のノルマーのキツイバレエ団の団長だ。原色のどこで売っているのだろうかと思ってしまうスーツを着て1階席中央に座っている。いつもクリスマス会の服の彼女は舞台からでもすぐにみつけられる。

 明子とノルマーのキツイバレエ団の団長は一緒のバレエ学校の時代が少しあった。お互いに切磋琢磨していたのだが、ノルマーのキツイバレエ団の団長は若いときに現役を退き今のバレエ団を作り、演出、振付と経営の道に進んでしまう。明子には敵わない。いつも目立ちたい彼女は1番にはなれないなら他の方法でと思ったのだ。バレリーナでは無理でもバレエが好きなので裏方に徹した。しかし出演者よりも目立つことになる。

 突然もの凄い疲れと全身の痛みに襲われる。折角、自分も心地よい達成感をあじわい、感動していたのにだいなしだ。

「明子さん、大丈夫だよ。」

と道が手を差し出し助ける。

明子はやはり今日で終わりなんだなと最後のリベランスを楽しもうと切り替える。

「明子さん」

また、道が話しかける。

「僕の次の役はドロッセルマイヤーだよ。明子さんが踊っている限り僕は魔法をかけ続ける」

 明子の意識があやしくなる。

 客席の道隆は道が誰なのかましてや、ありえないのだが人なのか。考えてもしょうがないのだが不思議な親しみを覚える。自分の親戚に彼がいるかどうかを確かめよう。

彼の魔法が誰も怖がらず、驚きはあるがそれを以外と素直に受け入れている客たちがまた不思議でこのことも彼のわざなんじゃないかと感じてしまう。とにかくなんともいえない心地の良い空間になっている。

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