カレー作り─6
鍋に入れられた油の中で、パチパチと弾ける香辛料達。四角いカレー粉しか知らない俺からすれば未知の存在である。
緑色の葉っぱやら、茶色い種に、細長い枝みたいなもの。そんな見慣れない香辛料達が油の敷かれた鍋の上でタップダンスを踊っている。
俺からすれば食べ物に使われるような食材には見えないのだが、それでも鍋からは甘く香ばしい匂いが漂ってくるのだ。
「今、油で炒めてるのは、ホールスパイスって言って、これがローリエ、ゲッケイジュの葉っぱね。それでこれがクミンシード。こっちがシナモンで、これがクローブね。それで最後にこれがカルダモンですね」
桜木は作り慣れているからか、雑談を加えながら流暢に説明していく。
「それでこの油の中に、玉ねぎのみじん切りを入れますっと。これ切るの結構大変だったけど、炒めるのも大変なのよね。焦がさないようにゆっくり弱火で炒めながら、飴色にしていかないといけないから」
こうして油の中に、美憂が泣きながらみじん切りにした玉ねぎが投入される。
これを飴色になるまで炒めるらしい。
結構大変だよな。俺も小学生の家庭科の時間で苦労した記憶がある。
またキッチンの入り口で桜木の様子を眺めている二階堂達も、俺同様、甘く香ばしいエスニックな香りに期待を膨らませているようだ。
美憂にいたってはメモまで取っている。
そして10分以上炒められた玉ねぎは美味しそうな飴色に変化した。だが、そこにすかさず投入されたのはトマトである。
ジュージューと良い音を立てながら、玉ねぎと混ざり合っていく。
だが桜木の手はまだまだ止まらない。
チューブに入ったニンニクと生姜を入れ、ブラックペッパーを振る。
そしてそして、色とりどりの香辛料がさらにそこへ加わる。
何かよく分からない名前だったけど、確かコリアンダーとかクミンとか、ターメリックとか色々だ。
とりあえず、そのカラフルな香辛料達が一緒に煮込まれた瞬間、あの絶妙に食欲を誘う独特なカレーの匂いがフワリと漂ってきた。
思わずお腹が鳴りそうになるが、俺はお腹を凹ませる事で耐えた。
だが、そんな俺の腹の虫へさらなる追撃を加えるが如く、ニンジンやら鶏肉やら、じゃがいも達が次々と投入されていくのだ。
そしてトドメと言わんばかりにヨーグルトとカシューナッツ、最後に水が注がれ、濃厚なカレールーが出来上がっていく。
お世辞抜きでマジで美味そうである。
レトルトのカレーなど比較にならない、美しい黄金色をしたカレーだ。
「はい、後もう少し煮込んだから完成かな」
その桜木の合図で、鍋に蓋がされ、火は弱火に変えられた。
「マネージャー、後は特に画も代わり映えしないし、撮影はここで終了で大丈夫よ、ありがとう」
「そうか、なら終わりにするな」
「うん、あっ、でも後で完成して盛りつけたやつの動画と写真を撮りたいから、その時はよろしくね」
「あぁ、了解だ」
そうして撮影も終わり、煮込み終わるまでの数十分、皆んなでリビングに戻り感想会となった。
まず声をあげたのは美憂である。
美憂はメモ帳を大事に握りしめながら、興奮した様子で桜木に声をかけたのだ。
「桜木先輩すごかったです。まさかこんなに本格的なカレーだったなんて思ってませんでした。それに、あんなたくさんのスパイスを揃えているなんて尊敬します」
「ふふ、全然凄くないわよ。あのスパイスだってアマソンでスパイスセットっていう2000円くらいの商品を買っただけだしね。美憂ちゃんだって包丁を使うのがとても上手だったわよ」
美憂と桜木の一連のやり取りを見ていると、まるで本当に仲の良い部活の先輩後輩という関係に見えてくる。
面白いのは、そんな2人のやり取りを二階堂がちょっと羨ましそうに眺めているところだ。
けれど、そんな二階堂の心を射抜くように、美憂は二階堂へキラキラとした視線を向けた。
「あと、二階堂先輩も料理お上手だったんですね。まさかあんなに料理し慣れてるなんてビックリしました」
羨ましいなと、若干嫉妬していたところへのまさかの不意打ちに、二階堂は自分自身を指さしながら、「わ、私?」と美憂へ問い返した。
そうすれば、美憂は再び二階堂を称賛する言葉を放つ。
「はい、料理お上手だったんですね、二階堂先輩」
「そ、そんなお上手だなんて。ありがとね、美憂ちゃん」
照れながらハニカム二階堂。
美憂の後輩力、年下力に骨抜きにされてしまったようだ。
昔から美憂は近所のおばさんとかおじさんから非常に好かれていた。
美憂をお使いに行かせた時は、たいていの店員さんがおまけしてくれるし、近所を歩く度に飴やらチョコなどを貰っていた。
多分、美憂には年上や先輩に好かれる、後輩力や年下力ってやつがエゲツないんだと思う。
その代わり、よく後輩に舐められると嘆いていたが。
「ね〜ね〜、美憂ちゃん。私は?私は?」
自分も褒めて欲しいのか、自ら地雷を踏み抜きにいく有泉。
美憂も返答に困っているのか、頬を掻きながら「えーと」っと言葉を詰まらせていた。
だが、そこはやはり先輩の桜木である。
言葉が出てこない美憂に、上手く助け舟を出した。
「もぉ、麗奈はもっと練習が必要ね。手を切るんじゃないかってずっとヒヤヒヤしたわ」
「え〜、マジ? 結構上手くいった気がしたけどな〜」
「何言ってるの、マジよ、マジ」
「なるほど、マジっすか」
そんな風に他愛もない話をしていれば、30分ほどが経過した。
そして桜木は一旦キッチンに戻り、カレーの味見をした。
するとどうやら満足できる出来だったようで、リビングにいる俺らへ向け、自信満々な笑顔を浮かべながら「完成ね」と報告してきた。
「それで、ご飯も炊いたけど、ナンも買ってあったわよね。皆んなはどっちにする?」
食材の買い出しの際、ご飯で食べると思い込んでいた俺らを他所に、ナンをカゴに入れたのは桜木であった。
ちなみに、俺はナンは食べた事がない。初体験だ。
ここは欲張りにご飯とナンのダブルコンボにしよう。
そうして各々ナンとご飯を選び、盛り付けに入る。
そして1番綺麗によそわれた皿を物撮りし、撮影も終わった事でリビングのテーブルに料理が次々と並べられていく。
まぁ、5人分がテーブルに集結すると手狭に感じるが、パーティみたいでワクワクするな。
そしてやっと、皆が席に着いた事で、ようやく我らがカレーの実食会に移ったのであった。
隣人まねーじめんと〜騒音を注意しに行ったら、隣人は学校1の美少女で、配信者(Vtuber)だった。注意しに行ったはずが、マネージャーになって欲しいと頼んできた件について〜 高田良真 @takadatakada
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。隣人まねーじめんと〜騒音を注意しに行ったら、隣人は学校1の美少女で、配信者(Vtuber)だった。注意しに行ったはずが、マネージャーになって欲しいと頼んできた件について〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます