二階堂とファンクラブ
放課後、いつものように動画や、サムネ作りを進めると共に、最近購入したペンタブレットでイラストの練習をしていた。
そして、今日の配信予定をまとめて投稿するにあたり、二階堂と連絡を取る機会があった。
そのため、昼休みの一件で知った二階堂ファンクラブについて、やんわりと二階堂自身に尋ねる事にした。
『今日の昼休み、先輩に絡まれちゃって大変だったな』
『うん、何の用事か分からなかったけど、怖かったから直ぐに断って教室に戻ろうとしたのに、急に壁ドンされてビックリしちゃった』
教室の扉に向かおうとした二階堂を、手で壁を突き、行手を塞いだ田所の行動は、正に壁ドンと言えよう。奴は顔が良いだけに、その姿が様になっていたし、野次馬からも黄色い悲鳴が聞こえてきた。
しかし、当の二階堂は、表情だけみれば顔を赤くして後退った事から、照れているのではと思われるかもしれないが、完全にドン引きというか、恐怖心が勝っていただろう。
『でも、三ツ橋さんと大和田さんがいて良かったな。特に三ツ橋さんのお陰で、あの先輩を撃退できたしさ』
『うん、三ツ橋さんがあそこにいなかったらって思うとゾッとするよ』
『そうだね、俺も助けるべきか迷ってたところだったから、三ツ橋さんがいて良かったよ』
『え? もしかして村瀬君もあの時、私達の事見てたの?』
『そうだよ、だから三ツ橋さんが撃退してくれたのも知ってるし』
『もぉ、見てないで直ぐに助けてくれても良いじゃんか』
『いや、先輩イケメンだったし、止めるのも有り難迷惑かなって』
『有り難迷惑とか全然ないから、今度見かけたら絶対助けてね』
二階堂は、俺が助けに入らず、野次馬として見物していた事にややご立腹の様子だ。彼女は田所にしつこく話しかけられてかなり精神的に疲弊した様子だったし、確かに助けに行くべきだったかもしれない。
しかしだ、あんなカースト最上位に位置するイケメンが、カースト上位に位置する二階堂に告白だか何だかをしようとしているのを、このオタク陰キャが止めに入れる訳がないだろう。
そんな事をすれば、場違いの勘違い野郎として、ブーイングの嵐に合い、学校での居場所が消えるのだ。
だからこそ、二階堂の同性の友人である三ツ橋には感謝しかない。
だが、彼女は少しオーバーキルが過ぎたような気がする。死体蹴りも甚だしい。てか、浮気なんていう暴露話は、威力が高すぎる。あんなもん、未武装の人間同士の喧嘩に、戦車に乗って駆けつけるようなもんだ。
『あぁ、次見かけたら助けるよ。でもさ、三ツ橋さんって何者なんだ? 何であの先輩が浮気してた事なんて知ってたんだろうな』
『私も分からない。三ツ橋さんと大和田さんとは、入学してから仲良くしてもらってるけど、まさか三ツ橋さんがあんな事を知ってるなんてね』
『へえ、そうなんだ。三ツ橋さんって部活とかしてるの?』
『確か、新聞部だった気がするよ』
ゴシップネタと新聞部というワードに、明らかに因果関係を感じる。存外、田所が浮気していたという事実が嘘ではない気がしてくる。
『あの先輩と三ツ橋さんは仲良かったりしたのか?』
『うーん、2人が話してる所は見たことないな。ていうか、もしかして、三ツ橋さんってあの先輩の事が好きだったりして。だからあの先輩の事を調べてたりとか?』
『うん、絶対違うと思うぞ』
『えー、そうかな。良い線いってると思うんだけど』
二階堂の鈍感スキル、天然スキルには脱帽する。あんな敵意剥き出しの三ツ橋が、恋心を抱いている乙女に見える筈がないだろうに。
『それでさ、三ツ橋さんと大和田さんって、二階堂さん達がVtuberをしてる事を知ってるのか?』
『私達がVtuberをしてる事を2人には言ってないし、知らないと思うよ。2人ともVtuberすら知らなそうだし』
『まぁ、2人だったらVtuberしてる事がバレても、応援してくれるだろうから、そこまで気を張る必要もないかもしれないな』
『うん、そうだね。他の友達も多分、私がVtuberしてるのを知ったら応援してくれるだろうし、何か機会があったら打ち明けてみようかな』
二階堂は彼女達の事をかなり信頼しているようだ。二階堂が絡まれている時、2人とも心底心配そうな顔をしていたし、俺が横から口を出す事でもないだろう。
二階堂が信に置けると判断し、打ち明けるというなら、賛同しよう。
『俺も良いと思うぞ。それより、桜木さんや有泉さん以外にも結構友達多いんだな』
彼女は人見知りで、特に異性相手には、他称鉄の女の冷たい視線が相手に突き刺さるのだが、同性相手であれば、まだマシになるのだろう。
前回遅刻した時、二階堂が三ツ橋に介抱されていた場面を目にして、彼女とは友人関係にあるのだろうと感じていたが、案外友人は多いようだ。
『もお、私にだって友達くらいいるよ。まぁ、最初は誰にも話しかけられなくてボッチだったけど、三ツ橋さんと大和田さんのお陰で、こう見えても友達多いんだよ』
やはり新学期の初動には失敗してしまったらしい。かく言う俺も、話しかける相手がおらずボッチになりかけたが、たまたま趣味の合った中谷を中心に、オタク友達を作る事ができた。
二階堂も同じだったようで、三ツ橋と大和田という友人ができた事で、交友関係が広がったようだ。
『ごめんごめん、別のクラスだし、教室でどんな風にしているのか分からなくてさ。桜木さんと有泉さんと一緒にいる所くらいしか見てこなかったから』
『まぁ、確かにそうだね。でも、ちゃんとクラスにも6人くらい友達いるから、安心してね』
『いや、俺より友達いるじゃん』
『ふふーん、村瀬君の方がボッチだね』
酷い言われようだが、二階堂がクラスに複数の友達がいるようで安心した。
なんせ、鉄の女や雪女も含め、学校での彼女のあだ名。そして廊下でナンパや話しかけてきた男子生徒に対して、冷たくあしらっている場面しか見てこなかった。もしかして、クラスでは寂しい思いをしているのではと以前から心配していたのだ。
しかし、その6人の友人は気になる。
その6人も多分女子生徒なのだろうが、もしかして二階堂ファンクラブだったりするのだろうか。
まぁ、二階堂ファンクラブ自体が正式な物でなく、単なる他称でしかないので、その6名が人知れず、ファンクラブの一員に数えられている可能性は高いように感じる。
二階堂ファンクラブなのだから、彼女達が勘違いして俺に害を加えようとしてきても、二階堂が仲裁してくれれば済むだろう。それでも背筋に悪寒が走るように錯覚する。
今後、ファンクラブの存在が俺や二階堂にとってどのような影響を与えてくるか分からない以上、情報収集も含めて、上手く立ち回っていくべきだろう。
こうして秘密結社『二階堂ファンクラブ』の謎がさらに深まりつつ、今日の業務は終了したのだった。
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