企画会議ー3
続いて二階堂が考えてきた案が話される事になった。
「えっと、私はクレーンゲーム対決が面白そうかなって考えました」
自分の案を出すのに緊張しているのか、二階堂は変に敬語となり話し始めた。
それにクレーンゲーム対決とは何だろう。言葉だけだと、ゲームセンターとかにあるクレーンゲームを使って対決するのだろうか。それだと野外配信になるし厳しい気がするのだが。
「愛莉、クレーンゲーム対決って、ゲームセンターとかじゃ配信は無理だと思うわよ」
俺と同じ疑問が浮かんな桜木が、説明を求めるように質問した。
そうすれば、どこか得意げな笑顔を浮かべ、桜木に返答した。
「ちっちっちっ、モモちゃん、クレーンゲームキングダム、略してクゲキンをご存知ないんですか?」
人差し指をピンと立て、左右に振りながら「ちっちっちっ」と言う二階堂。自信満々にそう話す彼女は、側から見れば子供っぽく愛らしい。
しかし二階堂よ、桜木の笑顔を見ろ、何か闇のオーラが出ているぞ。
「お、おう二階堂さん、クレーンゲームキングダムって何なんだ?」
俺は桜木の口から闇の咆哮ならぬ毒舌が炸裂する前に助け舟を出してやった。
俺としても、そのクレーンゲームキングダムは初耳だし、どのようなものか気になるところだ。
「ふふん、村瀬君も知らなかったんだね。なら、ちょっと待ってて、今見せるね」
小さく鼻を鳴らした二階堂は、そう言ってスマホを取り出し操作し始めた。インターネットで検索して、教えてくれるのかと思っていたが、見せられたのはゲームアプリだった。
「これ、スマホでクレーンゲームができるアプリなんだよ」
水戸黄門のようにスマホを見せてくる二階堂。スマホでクレーンゲームができるとは凄い時代になったものだ。
「これって、取った商品はどうなるんだ?」
「住所を入力しておけば、郵送で送ってくれるんだよ」
「おぉ、マジか、それは凄いな」
俺の言葉に、自分の事のように満足げな笑顔を見せる二階堂。まるで頭を撫でられて喜ぶ猫のようで、非常に可愛い。
「クレーンゲーム? 前にアイっち達と一回やった位だけど、面白そうだし、うちはやってみたい」
「だよねレイちゃん、ありがとう」
有泉はウキウキと目を輝かせながらそう言えば、賛同者が出来た事で、二階堂も嬉しそうに笑ってみせた。残るは桜木だが、彼女は訝しげに二階堂を眺めていた。
「愛莉、対決って事は、使えるお金には制限があるのよね?」
「うん、そうだよ。使える金額を決めて、誰が一番多く商品をゲットできるかって勝負。収益で資金も増えたし丁度良いかなって」
「ふーん、それなら良いけど、決まった金額以上は使っちゃダメだからね」
「えっ、も、もちろんだよー」
「そう、それなら面白そうだし、愛莉の案に賛成かな」
桜木の言葉に、何故か棒読み気味で答えた二階堂。どこか体をギクリと震わせた彼女だが、何か悪巧みでもしていたのだろうか。
それでも、桜木も賛同した事で、二階堂提案の「クレーンゲーム対決」は可決された。しかし、桜木から視線を逸らすように、目を泳がせている彼女は、非常に不審だ。
「どうしたんだ二階堂さん、目が泳いでないか?」
「ん? な、何でもないよ」
俺と二階堂のそのやり取りに、クスリと笑った桜木。
「ふふ、この前、ゲームセンターに麗奈も一緒に3人で遊びに行った時、かなりの額を使っちゃったもんね」
「ちょ、ちょっと、モモちゃん」
ネタばらしをされて、焦るように言葉を被せる二階堂だったが、残念ながら桜木の声はしっかりと俺の耳に届いた。
「あとちょっと、もう少しなんて言って、結局3000円くらい使ったんじゃない?」
「で、でも、取れたんだからプラマイゼロでしょ?」
クレーンゲームでお金を溶かすのは何となく理解できる。普通に買えば1000円位なのに、負けた気がしてお金を注ぎ込んでしまうのだ。
「まぁ、取れたから良いんじゃないか。俺もクレーンゲームでお金無駄にしちゃった事もあるしな」
桜木の言葉に俺の心にもチクリとダメージが与えられ、思わず二階堂を擁護するように言葉を発した。
「まぁ、それだけなら良いんだけどね」
どこか含みのある言い方をする桜木。まだ他にも散財エピソードがあるのだろうか。
「モモちゃん、ま、まだ何かあったっけ?」
心配げに桜木に声をかけた二階堂。他に心当たりが無いのか、それとも言わないでという意思表示なのだろうか。彼女は真剣な目で桜木に視線を送っているし、意味としては後半だろうか。
「か...」
桜木は確かめるようにゆっくりと、ただ1文字を声に出した。
だが、それだけで意味が伝わったのか、二階堂の焦りの表情が濃くなった。どこか汗ばんでいるようにも見える。
「か? か、かがどうしたの? ねぇ、モモちゃん?」
「か」という言葉だけで、二階堂はかなり焦っている様子だ。何だが凄い気になってくる。
「き...」
「き? ちょっとモモちゃん、モモちゃん」
次に発されたのは「き」という言葉。この2文字と散財エピソードから連想されるワード。俺もなんとなく理解できた。
「ん...」
か、き、ん。やはり、なるほど課金か。
「そう、課金ね」
「モモちゃ〜ん!!」
ニッコリと笑ってトドメの口撃を加えた桜木に対して、二階堂はこれ以上喋られせてたまるかと、彼女の口元に手を伸ばした。
しかし、桜木は二階堂の手を掴み、口を塞がれるのを阻止してしまった。だが二階堂に押し倒される形で、2人とも床に倒れる。
そして床に仰向けになる桜木に対し、二階堂はその上に覆いかぶさるようにして、口を塞がんと手を動かしている。
恥ずかしいのか怒っているのか、二階堂は耳まで赤くなっている。
身長も二階堂の方が大きいし、上にいる二階堂の方が圧倒的に有利だろう。
止めた方が良いのかと考えたが、別に本気で喧嘩している訳ではないようだ。戯れ合いに近いため、俺は傍観する事に決めた。
いつも二階堂がやられっぱなしだし、今日位は良いだろう。
「モモちゃ〜ん、それは言わない約束でしょ〜?」
「ご、ごめん、ごめんね愛莉。課金、課金の話はもうしないから、ね?」
「課金じゃないから、あれは無課金だから」
そんなやり取りをしているが、二階堂の手がジリジリと桜木の口へ伸びている。有泉は事情を知っているのか、微笑ましく2人を眺めていた。
「無課金って、またあの無理のない課金のこと? あれは無理あったでしょ?」
「いや、無理してなかったから。欲しいキャラに比べたら、あれは無理じゃなかったから」
「あれが無理じゃないって、もやしばっか食べてたでしょ? あんな3ま──」
その瞬間、二階堂の手が桜木の口を塞いだ。最後に聞こえた「3ま」が、3万じゃない事を祈ろう。
「モモちゃん?」
ニッコリと笑う二階堂。優越感に浸っているのか、とても満足そうだ。後々が怖い気もするが。
「んーー、んーー、んー、んん」
モゴモゴと喋る桜木。別に怒っている様子もなく、楽しんでいるように見える。まぁ、喧嘩するほど仲が良いと言うことだろう。
「アイっち、それくらいにしとけば〜」
流石に止めに入った有泉。
「ま、まぁ、そうだね。 ねぇ、モモちゃん反省した?」
二階堂も納得できたようで、桜木にそう声をかける。そうすれば桜木もコクコクと首を縦に振って返した。
その姿に満足したであろう二階堂は、ソッと口元から手を離した。
「ご、ごめんね、愛莉、悪かった悪かった」
「もぉ、その話は絶対に封印してね」
そのやり取りと共に、二階堂は桜木の上から退いた。すると2人とも、何事も無かったかのようにテーブルの前に座り直すと、疲れたようにお茶を飲んだ。
「マジで昔と変わらないね〜」
「ふふ、もう何回こんなやり取りしたかしらね」
「もぉ、モモちゃんが悪いんだからね」
2人は幼馴染と言っていたし、昔からこんな感じで仲が良かったのだろう。
しかし、有泉の発言に俺は疑問を感じた。昔からと彼女は言ったが、有泉と2人が出会ったのは高校からだと思っていたからだ。
「あれ? 有泉さんと2人が初めて会ったのって、高校からじゃなかったっけ?」
「んー、あー、そう言えばマサッちには言ってなかったね。私、幼稚園と小学校までは北海道にいたんだよね。だから幼稚園からの幼馴染なんだよ〜」
「へ〜、じゃぁ、中学からこっちに来た感じなのか」
「そうだよ〜。2人がうちの高校に来たのも、私がいるからだもんね〜。ほんと、2人がうちと同じ高校に来てくれたのマジで嬉しかったわ〜」
有泉は嬉しそうに2人を見ながらそう話せば、2人も照れ臭そうにハニカんだ。
こうして二階堂と桜木の戯れ合いを挟み、有泉と2人の関係を知るともに、二階堂提案の「クレーンゲーム対決」も無事に可決された。
次に案を出すのは俺だ。
ははは、とっておきの企画を考えているのだ。
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