企画会議ー2

 料理動画の作成は決定し、他の企画も考えるため、会議は進んだ。


 次に案を出してくれたのは有泉。


「私的には歌枠はどうかなって思ってるんだよね〜。カラオケとか行って生配信するみたいな」


「私も歌枠してみたいと思ってたけど、私あんまり歌上手くないし」


「え〜、大丈夫っしょ、アイっち結構上手いじゃん」


 歌枠もかなり需要がある。生配信でなくても歌ってみた動画が欲しいとのコメントを何度も目にしてきた。

 それにカラオケに行って生配信というのも良いと思う。しかし歌系は結構面倒くさいと考えている。それは主に著作権的な部分だ。


「歌枠は良いとは思うんだけど、著作権とかの法律的に難しいんだよな」


「うん、カラオケとかCDの音楽を使うのもダメだったわよね」


 俺が法的に難しいと指摘すれば、桜木は言葉を付け加えてくれた。彼女も歌枠に興味があったのか、色々と調べた事があるようだ。


「マジ? カラオケもダメなんだ〜」


「じゃ、歌枠は無理って事か...」


 俺達の意見を聞いて2人とも落胆していた。二階堂は無理だと言っていたが、諦めるのは早い。彼女達の希望に沿えるかは分からないが、歌枠をする方法もあるにはあるのだ。


「まぁ、無理ではないぞ。アカペラか弾き語りみたいな感じなら大丈夫だったと思う」


 「無理ではないぞ」という言葉に一瞬表情を明るくした2人だったが、最後まで聞けば再び落ち込んだように表情は暗くなってしまった。


「アカペラも良いけど、やっぱり音楽は欲しいよね〜。イマイチ盛り上がりに欠けそうだし」


「うん、それに弾き語りもしてみたいけど、楽器で演奏できるのなんて、リコーダーくらいしかないよ」


「頑張ってリコーダー吹きながら歌えるように練習してみるとか?」


「確かにそうかも... え? でもモモちゃん、吹きながら歌うって無理じゃない?」


「ふふ、無理に決まってるでしょ」


「もぉ〜、モモちゃん」


 桜木の冗談に納得しかけた二階堂に、俺も思わず笑ってしまいそうになる。リコーダー吹きながら歌えば良いんだと納得しかけるのは、流石に天然を通り越している気がする。


「ふふ、愛莉ごめんって、でもさ、確か麗奈はピアノ弾けなかったっけ?」


「あっ、そう言えばそうだった」


「あ〜、忘れてた〜」


 桜木の冗談に頬を膨らませていた二階堂だったが、桜木は上手く話を逸らすことで、注目は有泉に移った。


 有泉はお嬢様らしくピアノを弾けるようだ。彼女自身その事を忘れていたようだが、弾き語りをするならばピアノはピッタリな気がする。


 有泉は大変かもしれないが、彼女が弾きながら二階堂が歌うというコラボ配信もできるかもしれない。


「それに、レイちゃんってヴァイオリンも弾けたよね?」


「弾けるちゃ弾けるけど、歌いながらならピアノかな〜」


 まさかヴァイオリンまで弾けるとは、流石お嬢様。今もパリパリと美味しそうパテチを食べている彼女が、ヴァイオリンを弾く姿など想像はできないのだが。


「有泉さんは大変かもだけど、有泉さんのピアノに合わせて二階堂さんが歌うとかも良いんじゃないか?」


「えっ、良い事考えんじゃ〜ん。私は全然良いよ」


「レイちゃんが良いならやってみたい」


 2人は先程までの暗い雰囲気とは一転、楽しげに話し始めた。それを羨ましそうに眺める桜木。桜木は歌配信に加わらないのだろうかと、俺は疑問を投げかけた。


「桜木さんは歌枠とかは興味ないのか?」


 俺の問いに驚いたようにこちらに振り向く桜木。少しだけ頬を赤くしているように見える。


「別に私は良いかな」


「そうか? 桜木さんの歌を聞いてみたいってコメントも多かったと思うぞ」


「いや、うん、でも私は良いかな」


「そうか、勿体無い気もするが」


 一瞬悩んだように見えたが、それでも歌枠をする気がないようだ。これ以上聞いてもしつこいだろうし、俺はそう答えて再び2人の会話に耳を傾けた。


「なら今度、練習ついでにカラオケ行かない?」


「いいね! 最近マジで歌いたい欲ヤバかったんだよね」


 既に歌枠をする事は決定したようで、今は練習と題してカラオケに行く約束をしていた。


「ねぇ、モモちゃんはどうする?」


「私は別に...」


「良いじゃん、ジュースも飲めるし、うちの歌を聞きに来ると思ってさ〜」


 桜木はあまり行く気がなかったようだが、2人は寂しそうな表情で、桜木を再度カラオケに誘った。


「もぉ、分かったわよ。歌わなくても文句言わないでね」


 そんな2人の表情を見て、ヤレヤレという様子でカラオケを承諾した桜木。その答えに満足したようで、2人も喜びを露わにしていた。


「じゃぁ、歌枠も決定で、カラオケに行く事も決定ね〜。マサッちも行くっしょ?」


「うぇ!? お、俺もか?」


 有泉の予想だにしていなかった発言に、俺はたじろぎながら言葉を返した。


「村瀬君も来るなら緊張しちゃうな」


「大丈夫大丈夫、アイっち歌上手いんだから」


「何か初めての人とカラオケ行くと、最初歌う時すごい緊張しちゃわない?」


「分かる! てか、うちらも初めてカラオケ行った時、先に歌って良いよって押し付け合ったよね〜」


 俺も彼女達とカラオケに行くとなれば、歌わないといけなくなるだろう。俺は特段歌が上手い訳じゃないし、アニソンくらいしか覚えていない。

 それに俺も同じで、初めての人の前だとクソ緊張するから結構辛い。


「なぁ、俺は大丈夫だけど、皆んなは良いのか?」


 これで断ってくれれば、行かない理由ができるのだが、誘った有泉は無理だとして、2人はどう答えるだろうか。


「うちはウェルカムだよ」


「緊張するけど、私は大丈夫だよ」


 有泉と二階堂は来ても大丈夫なようだ。後は桜木だけ。


「私も大丈夫よ。それに、別にそんな事気にしなくても大丈夫よ」


 俺の質問に対して、フォローするように答えてくれた桜木だったが、今の俺は嬉しさが半分、緊張が半分。まだいつ行くかも決まっていないが、もう緊張してきた。


 こうして歌枠とカラオケに行く事が決定し、次に二階堂の案へ移ったのだった。



 

 

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