企画会議ー1

「これ美味しいな」


 甘すぎず品のある優しい味わいの餡子菓子を一口頬張る。和菓子なんて生まれてこの方、食べたことはなかったが、結構美味しい。多分、どこぞの銘菓で、かなり値が張りそうだし、俺はちょびちょびと口に運んでいた。


「なんでこんなに甘じょっぱいのは美味しいんだろうね〜」

 

 そう言いながら左手でポテチをパリパリ食べている有泉。彼女の右手には和菓子を食べる用のフォークが握られている。慣れた手つきで交互に食べる彼女の姿に俺も触発される。


 二階堂も桜木も、お茶を挟みながらポテチと和菓子を食べているし、郷に入っては郷に従え、俺も真似して食べてみる。


 餡子のほのかな甘みが残る口の中に、ポテチのジャンキーなパリパリ感と塩っぱさが広がっていく。


 最初は抵抗感があったものの、相性は良い。

 有泉の言うように、甘じょっぱいは正義だった。


「マサッちどう? マジ合うっしょ?」


 期待の眼差しで見つめてくる有泉。二階堂と桜木も俺の反応が気になっているようだ。


「いや、結構合うんだな。勿体ない気はしちゃうけど」


「勿体ない? 考えたことなかったわ。私あんまり和菓子って好きじゃないからさ〜」


 確かに見た目ギャルの有泉が、和菓子好きというのは想像し難いし、ポテチ好きが合っている。


「美味しいけど、私も村瀬と同じで勿体ないって思っちゃうわね。絶対にこの和菓子って高級品な気がするし」


「え? そうなの? スーパーでもこんな和菓子売ってるし、そういうのじゃないの?」


 二階堂はスーパーで売ってる位の物だと勘違いしているようだが、有泉の家でそれはないだろう。

 そんな彼女は、大胆に和菓子を半分に切り、大きな一口でそれを頬張った。


「う〜ん、どうだろう? 考えたことなかったわ〜、値段とか気にしたことなかったし」


「どこのお店とかも聞いたことないの?」


 考えるように顎に手を当てる有泉に、桜木はそう質問した。二階堂もその答えが気になるようで、口をモグモグと動かしながら有泉に注目していた。


「え〜、確か銀座かな」


「うわ、絶対高いやつじゃん」


「やっぱりね」


 庶民の俺からしたら、銀座という言葉からは高級品というイメージしか湧かない。それは桜木も同じだったようで、切なそうな目で手元の和菓子を眺めていた。

 職人さんが丁寧に作ったお菓子が、こんなジャンキーな食べ方されていると知られたら、申し訳なくなってくる。


 そして二階堂も、リスのように膨らんだ口元を手で隠しながら、青ざめたように和菓子見つめていた。


 そしてゴクリと飲み込んだ彼女は、信じられないという様子で、弱々しく声を発した。


「も、もしかして、今の一口で1000円するとかないよね?」


「さ〜?」


 有泉はヘラヘラとそう答える。


「和菓子さん、職人さん、何かごめんなさい」


 二階堂はそう弱々しく呟いた。


 何だか雰囲気が暗くなってしまったが、目的は企画会議だ。ここは話題を変えるべきだろう。

 そしてそう考えたのは有泉も同じだったようだ。彼女は企画会議を始めるべく、声をかけてくれたのだ。


「ね〜、お菓子も良いけど、配信の企画考えるんでしょ?」


 その言葉に桜木も二階堂も「あっ」と小さく呟いた。2人はお菓子に夢中で本題を忘れていたようだ。

 二階堂に関しては、最初からお菓子に夢中だったから本題を忘れていたのは理解できる。

 しかし、桜木に関しては意外だった。もしかすると、「美味しすぎて止まらない」という言葉は本当だったのかもしれない。


「そうだな、何か企画考えるか」


「お菓子が美味しくてすっかり忘れてたよ」


「ゴホン、そうね、ちゃんと考えないとね」


 誤魔化すように咳払いをするあたり、桜木は確実にお菓子に夢中になっていたのだろう。


「じゃ、何か案考えてきた人〜?」


 早速始まった企画会議。有泉は楽しそうに右手を挙げながら俺達にそう質問してきた。


 俺もいくつか案を考えてきた。しかし、やっぱり初めに意見するのは少し恥ずかしい。他の意見を様子見したいところだ。


 俺は二階堂と桜木をチラチラと見ながら出方を窺った。


 そうすれば、桜木が「はい」と言って挙手をしたのだ。一番手は桜木が担ってくれるらしい。やはり桜木パイセンは凄い。


「私としては料理配信をしたいと思ってるの」


 料理配信、Vtuberとして画面越しでやるとなるとかなり工夫が必要だろう。間違って顔など映してしまっては大惨事なのだ。

 だが、桜木自身、配信で料理が得意で自炊をしているという発言もしているし、個人のPwitterで自分で作った料理の写真を投稿した事もある。

 ファンの間でも料理上手としての認識が広がっているし、作っているところを見たいという意見も多かった。


「いいね、料理配信、私もしてみたい」


「うちも料理配信してみたいけど、料理した事なんて片手で数えられるくらいしかした事無いんだよね〜」


「じゃぁさ、モモちゃんに料理を教えてもらう配信とかは?」


「いいねそれ! モモモモに料理教えてもらえるし、配信もできるって、一石二鳥じゃん」


 二階堂も有泉も興味深々なようだ。有泉は料理下手な事を気にしているようだが、桜木に料理の手ほどきをしてもらう配信も、中々に需要がありそうだ。

 ていうか、九条凛花というあのお嬢様キャラと、有泉の料理できないキャラは、ある意味相性バッチリな気がする。


「確かにそれも面白そうね。けど、どうやって配信するのかが問題なのよね」


「うん、確かにそうだな。間違って顔が映ってしまったなんて笑い事にならないからな」


 桜木と俺の言葉に、2人も「確かに...」と深く考えていた。


 今回は生配信の企画という事だったが、動画として編集して投稿するのもアリな気がする。生配信でするとしても、工程の途中で写真を撮り、それを画面に映すくらいの方法しかとれなさそうだ。それならば最初は動画がアンパイな気がする。


「なら、最初は動画にするのはどうだ。ちゃんと編集した動画なら、顔バレの不安も払拭できるからな」


「うん、私は生配信に拘っていないから、動画でも全然大丈夫よ。編集に関しては、村瀬にお願いするわね」


「もちろんだ」


 桜木は動画も視野に入れていたようで、料理配信は料理動画として進めていく事になりそうだ。


「村瀬君は大変かもだけど、私もしてみたいな」


「別にそんな事気にしなくて大丈夫だぞ。まぁ、動画は順番になっちゃうけどな」


 二階堂も乗り気なようだが、俺の事を気遣ってくれているようで、不安そうにそう尋ねられた。勿論、ノーなど言うわけがない、動画編集は俺の大切な仕事なのだから。


「それでさ〜、モモモモは何作ろうとか決まってるの?」


「この前、カレー作る約束したと思うけど、そのカレーにしようかなって」


 確かに妹の美憂にカレーを作ってあげると約束をしていた気がする。美憂にVtuberの事がバレないかは心配だが、カレー作りは最初の料理動画としてはピッタリだと思う。


「最初の料理動画にはピッタリな料理だな、良いと思うぞ」


 俺がそう話せば桜木も嬉しそうに笑顔を返した。


「それで、もし良かったら、愛莉も麗奈もカレー作り手伝ってくれない? その方が動画も盛り上がりそうだし」


「え!? 良いの? 私は参加したい」


「うちは手伝いになるか分からないけど、モモモモが良いなら手伝うよ〜」


 複数人分のカレーを作るようだし、確かに1人だと大変そうだ。二階堂と有泉の手伝いがあれば作業も楽だろうし、動画も盛り上がりそうだ。

 動画編集の兼ね合いから、順番が後になってしまう二階堂の料理動画に配慮して、提案してくれたのだろう、俺としても非常に有難い。


 こうして話は盛り上がり、初の料理動画作成が決定したのだった。


 


 

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