色々気にするお年頃
サバミソさんはその後、二階堂や桜木とも通話を行った。有泉も含め3人とも、楽しそうに会話をしていた。
しかし途中、二階堂が「そんな事したら死んじゃうよ。え? あ、冗談か、良かった」などと口にしていたのだ。何やら不穏な事をサバミソさんが口走ったのだろうが、怖いし聞かなかったことにしよう。
そうして一通り皆んなと話したサバミソさんに別れの挨拶を述べ、彼女との打ち合わせは終了した。
まだ時間としては14時前。前倒しで始まった打ち合わせだったので、思っていたよりも早く終わってしまった。
しかし一応この後の予定は用意されている。予定といっても企画会議とは名ばかりの、オヤツタイムみたいなものだが。
そうしてまずはお茶とお菓子を用意しようと、有泉が執事の近衛さんを呼ぶ事になった。
彼女はいつものギャル風の態度ではなく、お嬢様然とした畏った口調になり、近衛さんを呼んだ。呼ぶといっても電話をかけるだけ。なんと有泉の部屋にはホテルのように内線電話が用意されているのだ。
「爺、お茶の用意をしてもらえるかしら」
爺と言う有泉の姿からは、先程とは打って変わって高貴さが滲み出ているようだ。
「はい、4人分でお願いしますね」
そう話して電話を切った彼女は、疲れたように欠伸をしながら俺達の方へ戻ってくる。
「もう少ししたらお茶くるから待っててね〜」
人格が変わったように気怠そうに語る有泉。俺には上流階級というか、お金持ちの苦労は分からないが、確かにこうも裏表を使い分けて生活しなければならないのは、精神的にくるものがあるのだろう。
「ありがとう有泉さん。でも大変だな。近衛さんや両親と話す時はああやってお嬢様というか、堅苦しく喋らないといけなくて」
「まぁ、慣れっしょ慣れ。爺は別に気にしてなかったんだけどね〜、うちの親がうるさくてさ」
「まぁ、ご両親も有泉さんの事を思って言ってくれているだろうし、複雑だな」
「そうだと良いんだけどね〜」
俺はなるべく角が立たないように慰めたつもりだったが、どこか有泉の表情が暗くなってしまった。何か不味い事を言ってしまったのではと不安になった俺は、何か言葉を付け加えようと頭を回す。
すると、そんな俺をチラリと見た有泉は、ニシシと子供っぽい悪戯な笑顔を俺達に向け、近くにあったタンスへと近づいていったのだ。
俺は何だろうと疑問に思い、話すのはやめ、有泉の背中を見やった。
「これ〜、私の秘密のタンス。マサッち、何が入ってるか分かる?」
そう言って有泉はタンスをポンと叩いた。
二階堂は、彼女のその姿を見てパァと顔を明るくし、何やら期待しているような眼差しを送っている。
対して桜木は、どこか呆れたように小さなため息を吐いた。
しかし、俺は秘密のタンスという意味も、2人の反応の理由も理解できず、ゆっくりと首を横に振った。
そんな俺を見て、さらに上機嫌に笑顔を深くした有泉は、勢いよくタンスの扉を開け放った。
「じゃじゃ〜ん、お菓子でした〜」
お菓子?
俺的には金塊とか札束が入っているのではと、少しワクワクしていたのだが、流石にそんな事はなかったようだ。そんな俺の中の変なお金持ちイメージは見事に打ち砕かれ、現れたのはポテチをメインとしたお菓子の山。
「えっと、す、すげぇな」
コンビニですら簡単に買えるそれらを秘密と題して紹介されたせいで、肩透かしを喰らった俺は、少し返答に困ってしまう。
「まぁ、このお菓子の意味も後で分かるよ〜」
ニヤリと笑った有泉は、ソッとタンスの扉を閉じ、再び席に着いた。
「ありがとう、レイちゃん。お菓子パーティーみたい」
「ふふん、準備良いっしょ」
確かに、大量のお菓子がタンスには眠っていた。しかし、お菓子パーティーは先日行ったばかりだ。別に嫌ではないが、流石に何度も続けていれば太ってしまいそうだ。
「全く、お菓子ばかり食べてたら太るわよ。この前、お菓子パーティーして、いっぱい食べたばかりでしょ?」
俺の言いたいことを一字一句伝えてくれた桜木。だが女子的に太るは禁句じゃないのだろうか。
太るという単語を聞いて、二階堂は少し顔を青くして、口角をピクピクと痙攣させている。自覚があったようだ。
「で、でも、ちょっとくらいは...」
お菓子の妖力に魅了されてしまった二階堂は、どうにかしてお菓子を食べようと反論をみせる。
しかし、桜木には勝てなかった。
不意打ちのように突然二階堂のお腹に手を伸ばした桜木。そのままプニプニとお腹を摘みながら、ニッコリと二階堂に笑いかけたのだ。
「ん〜、お腹のお肉増えてない?」
「ヒャンッ!! ち、ちょちょ、ちょっと、モモちゃん!!」
可愛らしい鳴き声とともに、お腹を摘んでいる桜木の手を勢いよく引っ張る二階堂。恥ずかしいのか怒っているのか、顔を赤くして桜木を睨んでいる。
「も、モモちゃん、む、村瀬君もいるんだから!!」
俺をチラリと見た二階堂は、さらに顔を上気させながらそう叫ぶ。そうすれば流石の桜木も手を離し、笑いながら謝っていた。
「ふふ、ごめんごめん」
「もぉ、ごめんじゃないよ、モモちゃん」
息を荒くしながらそう話す二階堂は、まるで怒った子猫のようで可愛らしい。
そして俺の方にも目を向けた二階堂だったが、すぐに顔を背けてしまう。そして続け様に桜木に言葉を発した。
「太ってない、太ってないからね」
「そうかしら?」
「そうかしらじゃなくて、そうなの!」
太ってないと確かめる二階堂に対し、桜木はあっけらかんとした態度で言葉を返す。
それに納得できない二階堂は、今度はキッと俺の方を見つめてくる。
「村瀬君、別に太ってないからね」
「え? あぁ、そうだな」
俺の答えを聞き、鼻を鳴らし得意げな笑顔を浮かべた二階堂は、ふたたび桜木を見やる。
「ほら、村瀬君もそう言ってるでしょ?」
「そうなの? じゃぁ、村瀬も愛莉のお腹摘んでみれば」
「な、何言ってるんだ桜木さん!?」
「な、何言ってるのモモちゃん!?」
いきなり口撃を加えられた俺は、咄嗟に口から声が飛び出していった。そしてそれは二階堂も同じだったようだ。俺と二階堂は同じタイミングで桜木に声を発したのだ。
その姿に有泉もニコニコと笑っていた。
「息ピッタリじゃ〜ん、うける〜」
「うけないよ!」
不意打ちを受け鼓動を激しくする心臓。有泉も俺達をからかう気満々のようだ。桜木と有泉に挟まれては勝ち目がない。このまま奴らの玩具になってしまうのか。
精神的に絶体絶命だったのだが、執事の近衛さんの登場で助けられることになった。
近衛さんだろう、ふいに扉がノックされたのだ。
そして続け様に扉の向こうから、紳士的な落ち着いた声が響いてきた。
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
その声と同時に、部屋の喧騒も治った。
身内でワイワイする分には良かったが、それが誰かの両親や、それに連なる人に聞かれると妙に恥ずかしくなってくる。
それは二階堂も桜木も同じだったようで、誤魔化すように咳払いをした後、やけに静かになった。
「爺、ありがとう、お部屋に入ってきて大丈夫ですよ」
見事な変身を終えた有泉は、ゆったりと品のある口調で近衛さんに返せば、ゆっくりと扉が開かれ、彼が入ってきた。
お茶やお菓子を乗せた台車を押しながら入ってくる近衛さん。彼の美しく優雅な身の運びは、正に執事そのもの。まるで高級レストランにでも来たかのような丁重なもてなしに、思わず背筋が伸びる。
少しして4人分の配膳も終わり、特に何も話すことなく近衛さんは退出していった。
目の前に並ぶ高級そうな茶器。そして品の良い和菓子。馬鹿舌の俺には勿体ない品々に感じる。
「マサッち。この、あんこがメチャ甘い和菓子と、しょっぱいポテチが合うんだな〜。ねぇ、試してみてよ。ちょっと待ってて」
そう言ってタンスに向かった有泉は、ポテチを2袋取り出して、ウキウキとこちらに戻ってくる。
「和菓子とポテチなんて合うのか?」
俺は半信半疑だ。和菓子なんて食べ慣れてない俺的には、普通に食べてみたいし、邪道としか思えない。
「村瀬君、百聞は一口に如かず、だよ」
ドヤッとした表情でそう口にした二階堂。上手い事が言えたと上機嫌なようだ。まぁ、二階堂の舌は真面な気はするが少し不安だ。俺は再度確かめるように桜木に目線を送る。
「私も嫌いじゃないわよ」
「またまた〜、美味しすぎて止まらないとか言ってなかった〜?」
「い、言ってないわよ」
美味しすぎて止まらないと言ったかの審議は置いといて、桜木の口にも合うようだ。てか、あの桜木が「美味しすぎて止まらない」なんて言いながら、ポテチと和菓子を食べてる姿は結構面白い。
俺は想像して思わず口角が上がりそうになったが、桜木の視線を感じ、必死に抑えた。
こうして俺達は、ポテチと和菓子という奇妙な組み合わせを味わいながら、生放送の企画会議を行うことになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます