サバミソさん
「サバミソちゃんがマサッちと話すのをめちゃくちゃ楽しみにしてるみたいで、明々後日の日曜日に打ち合わせできないかってメッセ来たんだけど」
サバミソさんは3人が担当するキャラクターのデザインを行なってくれたイラストレーターさんだ。俺はまだ直接話したことはないが、有泉は特に面識が深い。
話ではサバミソさんは女性の方のようで、3人は打ち合わせついでに食事会も行ったこともあったようだ。
しかし食事会をしただけの二階堂と桜木は、サバミソさんは普通の人だと感じていたようだが、有泉は違った。
それというのも、有泉はサバミソさんと多く連絡を取っており、かつ有泉のフレンドリーさも相まって、個人的に遊ぶ程には仲良くなったようだ。
有泉曰くサバミソさんは、良い人だけど、ある意味突き抜けてる、という感じの人らしい。
「えっと、サバミソさんって誰ですか?」
料理名が名前の人物を疑問に思った美憂は、有泉を見ながらそう質問した。
「うんとね〜」
3人がVtuberをしていることを美憂は知らないため、有泉はどう説明すれば良いか悩んでいるようだった。
そんな彼女を見た桜木は、優しい笑顔を浮かべ美憂に話しかけた。
「もうお菓子パーティーも終わったことだし、ごめんね美憂ちゃん。これから4人で話したいことがあるから、少し外で待っててくれるかな?」
桜木は助け舟を出してくれたようだ。
そんな彼女の言葉を聞いて、どこか寂しそうな表情を見せた美憂だったが、素直に受け入れてくれた。
「はい、大丈夫です。本当にご馳走様でした、美味しかったです」
そう言って立ち上がる美憂。
「今度、美味しいカレーを食べさせてあげるから、また今度ね」
「はい! 桜木先輩のカレー楽しみに待ってます。それじゃ、ありがとうございました」
美憂を気遣いながら見送る桜木に、美憂も嬉しそうに顔を緩め、部屋から退出していった。
その姿を見届けた桜木は、首を傾げながら有泉に事情を尋ねた。
「それで麗奈、何でそんなに神妙な顔してるの? 別にただの打ち合わせなんだし。逆にサバミソさんが村瀬と話すのを楽しみにしてくれてるのは良いことだと思うんだけど」
桜木の感じた疑問に俺も同感する。
有泉は、少し変な人だとサバミソさんのことを評価していたが、何か事情があるのだろうか。
「えっと〜、まぁそうなんだけどね」
歯切れの悪い口調で話す有泉。彼女は自身のスマホをチラリと眺めながら、どこかバツが悪そうな顔をしていた。何か後ろめたいことでもあるのだろうか。
「どうした、何かあったのか?」
俺が思わず有泉にそう質問してみれば、彼女はスマホをジッと見つめ、申し訳なさそうに話し始めた。
「あ〜とね、サバミソちゃんって声フェチなんよね」
頓珍漢にも聞こえる彼女の答え。俺も桜木も二階堂も、「へ?」という間抜けな呟きとともに有泉を見つめた。
そうすれば、有泉は辿々しく言葉を続ける。
「結構ガチめな声優ファンだったりするんだよね〜」
その答えに対し桜木は、有泉の言いたいことが全く理解できなかったようで、急かすように説明を促す。
「ねぇ麗奈? どういうこと?」
「いや〜、サバミソちゃんから、マサッちってどんな声してるのって聞かれたんだよね」
「もぉ、それがどうしたのよ?」
歯切れの悪い有泉に、呆れたように話す桜木。二階堂もコテリと首を傾げている。
だが、俺は有泉の言いたいことが理解できてしまった。その理由は数日前の出来事が原因だ。
俺は数日前、有泉に声を録音したいとお願いされた。そしてお願いされた時に、サバミソさんに送る音声を録音したいと言われたのだ。
メッセージではなく、わざわざ音声を録音して送信するのは不自然な気がしたが、サバミソさんがそれを望んでいるのならと、快く了承したのだ。
サバミソさんは少し変わっている人だと聞いた後だったからか、特に抵抗もなく、有泉に声を録音してもらったのだった。
「なぁ有泉、それって俺の声を録音したのが原因か?」
「そ、そうだね〜。一目惚れ? いや一耳惚れ的な? あははは」
一耳惚れなど聞いたことがない。それに棒読みで、不自然に笑う有泉に、嫌な予感がしてならない。
「声フェチなサバミソさんが、村瀬の声がお気に入りになったって事か。だから楽しみにしてるのね」
「まぁ、そういうこと〜、かな」
別に自分の声が良い声だと思ったこともないし、声フェチなサバミソさんに刺さるとも思わなかった。有泉は申し訳なさそうな顔をしているが、俺は結構嬉しかったりする。
「でも、前にサバミソさんと会った時、そんな変な人には見えなかったけどな。村瀬君の声を録音して欲しいって、サバミソさんに言われたの?」
「まぁ、見た目はお洒落な大学生って感じなんだけどね〜。好きなことには一直線的な? それに、まぁ、サバミソちゃんがマサッちの声を聞きたがったのは、私のせい的な感じだからさ〜」
「麗奈、何か変なこと言ったの?」
「私も別に狙って言った訳じゃないんだよ。マサッちの声ってどんな感じって聞かれたから、普通に答えただけだよ」
俺の声をどのように表現したのだろうか。俺は気になって彼女に質問してみれば、思わぬ答えが返ってきた。
「なんかマサッちの声って、大人びててどこかぶっきらぼうにも聞こえるけど、声変わり前の子供っぽさも残ってる感じ、みたいな?」
「うん、確かにそうね」
「そう、そうだね、分かる」
有泉のその答えに、桜木も二階堂も納得していた。
俺の声はそんな風に思われていたのか。てか、俺の声をレビューされるの、普通に恥ずかしいんだが。
「そう伝えたら、サバミソちゃんも興味持っちゃってさ。それでお願いされて、声を録音させてもらって送信したの。そしたら一耳惚れ的な?」
「いや、サバミソさんと話すの不安になってきたよ」
「いや〜、サバミソちゃんの家に行ったんだけどさ、昔好きだった声優さんを祀る? 祭壇? 的なのあったし、気をつけてね〜」
気をつけてね〜、じゃねぇよ。なんだよ祭壇って、俺に神にでもなれってか。
「あ〜、写真がいっぱい貼ってある部屋もあった〜」
待て待て、怖すぎるだろ。写真がいっぱい貼ってあるって、ホラー映画のワンシーンかよ。
「はぁ、そう言っても私達の大切なイラストレーターさんだしね。村瀬、明々後日の日曜日って空いてるの?」
桜木は呆れた顔で俺に質問してくる。
明々後日、予定などある訳がない。だが、これは先延ばしにしたい。心の準備が欲しい。
だが、嘘を吐くのは申し訳なさすぎる。サバミソさんは楽しみにしてくれているみたいだし、無碍にするのは良くないだろう。
「まぁ、予定はないかな」
「じゃぁ、日曜日に打ち合わせってことで良き?」
「あぁ、そうしてくれ」
俺の言葉を聞いた有泉は、ポチポチとスマホをいじり始める。
こうして俺は、日曜日にイラストレーターさんのサバミソさんと、打ち合わせを行うことが決定したのだった。
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