お菓子パーティー
「なんだ、お菓子の話だったんだ」
今俺の部屋では、妹の美憂も含めて5人でお菓子パーティーが再スタートしている。
「当たり前だろ? 何を勘違いしたんだよ、全く」
「何か、二階堂先輩を襲ってるのかなって」
「ゲフッゲフッ、み、美憂!? 変なこと言うから咽せただろ」
美憂のまさかの問題発言に、俺は思わず咽せこんでしまった。
二階堂は何となく自分の言動と「襲う」という言葉で、意味が理解できたようで、恥ずかしそうに下を向いた。
また有泉に関しては面白かったのか声を出して笑っているし、桜木は笑いを必死に堪えていた。
「でも二階堂さん、何か変な事とかされなかった?」
「え!? わ、私!? 何もされてないよ、大丈夫だよ。いや、大丈夫かな? 村瀬君、大丈夫だよね?」
「大丈夫だよ! 何もしてないだろ?」
何でそこで不安になるんだよ。何もしてないんだから、胸を張って否定してくれ。
俺と二階堂のそのやり取りに、他の2人はさらに愉快そうに笑みを深めた。
「良かった。お兄ちゃんが何かしちゃったのなら、私が責任を持って東京湾に沈めないとって思ってたから」
「良いこと言うわね美憂ちゃん。私なら富士山の樹海に埋めるかな」
「桜木、美憂に変なこと吹き込むなよ」
美憂と桜木は最近、かなり仲が良い。俺の家に桜木が訪れた際は、必ずと言っていいほど、2人で楽しそうに話をしていた。
美憂も桜木も料理が好きなようで、気が合うようだ。
しかし、そのせいか美憂の言動が桜木に似てきている気がする。あんなヤクザ映画みたいなセリフを言う子じゃなかったのに、お兄ちゃん悲しいぞ。
まぁ、美憂はお姉ちゃんのように桜木を慕っているみたいだし、こんなものなのだろうか。
こうして美憂も入れて再スタートしたお菓子パーティーは、先程よりも盛り上がっている。有泉も美憂のことを可愛がっているようだし、美憂も楽しそうで何よりだ。
しかし、二階堂の動きは少しぎこちない。まだ美憂相手に緊張しているのだろう。
「二階堂先輩? その、キノコの時とは雰囲気変わっちゃいましたね」
美憂は、子供のように「キノコほしい」とねだる二階堂の姿を見ていたので、今のクールで落ち着いた彼女を疑問に感じたようだ。
だがな妹よ、もうキノコの件は忘れてくれ。
「別に普通だよ」
美憂から目を逸らし、率直にそう答える二階堂は、やはり凛々しく見える。まぁ、ただの人見知りだが。
「あぁ、愛莉は人見知りだからね。愛莉は可愛いもの好きだし、美憂ちゃんのことも好きだと思うよ」
キノコのお菓子を食べながら、何でもないように話す桜木。それに美憂もなるほどと相槌を打った。
「ちょっ、ちゃっとモモちゃん」
桜木には普通に接することができる彼女は、その言葉を聞いて恥ずかしそうに手をバタバタと振っていた。
流石に何度も話したことのある美憂相手に、学校の同級生よりかは距離が縮まっていたようで、一瞬だけ素の彼女が現れた。
「二階堂先輩、そっちの方が可愛いですよ!」
美憂は悪気もなく、ただ褒めたくてそう話したが、二階堂は恥ずかしくて手で顔を覆ってしまう。
「み、美憂ちゃん、あんまり可愛いって言わないで」
「でも可愛いですよ。クールな二階堂先輩もカッコよくて好きですが、やっぱり可愛いです」
「愛莉は可愛い、可愛い」
「ね〜、マジで可愛いよね」
無意識でダメ押しの「可愛い」を発した美憂に対し、桜木と有泉の2人は確信犯だろう。恥ずかしがっている二階堂を、微笑ましく眺めている。
「ちょっと、別に私は可愛くないって」
「もぉ、愛莉はもっと自信を待つべきだと思うわよ。昔みたいに、もっと素の自分を見せていった方が良いと思う」
「でも、バレちゃうかもしれないし」
「声だって結構違うし、大丈夫だと思うんだけどね」
バレちゃうというのは、兎木ノアが自分だと、声でバレないかということだろう。
確か、表で素を見せられないのも、人見知りだけでなく、バレないようにする意味合いもあると言っていた。
まぁ、マネージャーとして長く接していたので分かるが、配信の声と素の声が同じという訳でもないし、桜木の言うように大丈夫な気もする。
俺もどこか卑屈気味になってしまう二階堂には、自信を持って欲しい。それ程に二階堂は綺麗だし、学校の皆んなも話したがっているのだから。
俺や有泉は2人のその会話の意図を理解できたようで、ウンウンと頷いているが、美憂は勿論分からなかったようで、2人の会話に首を傾げていた。
「えーと、何の話ですか?」
「ん? 別に何でもないわよ。それと、あぁ、そう言えば、話変わるけど、美憂ちゃんってカレー作ったことある?」
美憂の疑問を逸らすため、わざと話題を変える桜木。そうすれば、美憂も話したかった話題であったようで、美憂の顔も楽しそうに綻んだ。
「固形のルーを使っちゃいましたが、作ったことはありますよ」
うん、美憂は前、カレーを作ってくれたことがあった。固形のルーと謙遜しているが、色々と隠し味を入れて工夫していたのを、お兄ちゃんは知ってるぞ。本当に美味かった。
「私ね、最近スパイスからカレー作るのハマってるのよね」
「スパイスからですか? 凄いですね。スパイスって色々種類多そうですけど、揃えたんですか?」
「通販でスパイスキットってのを見つけてね。それからカレー作るのにハマっちゃってさ」
桜木は料理上手だし、スパイスからのこだわりカレーとは、美味いに違いない。想像しただけで、何故かカレーの良い匂いがしてくる。
「モモモモの作ったカレー食べたい。うちもカレー大好きなんだよね〜。今もカレーせんべい食べてるし。これマジ美味しいよ、アイっちにもあげる」
カレーの匂いがしたのは勘違いじゃなくて、有泉のせいだったのか。
「私も桜木先輩の作ったカレー食べてみたいです」
「もぐもぐ、わ、私も食べたい。もぐもぐ」
これは良い流れだ。俺もカレーが食べたい。ぜひ桜木には、自身の作ったカレーを皆んなに振る舞って欲しい。
てか二階堂、食べたいのは分かるが、ちゃんと飲み込んでから喋りなさい。
「そ、そんなに言うなら作ってあげなくもないけどね」
照れたように腕を組んだ桜木は、ちらりと俺にも目を向けてくる。
「村瀬はどう?」
そう質問して、すぐに目線を逸らしてしまった桜木。勿論、俺の答えは決まっている。食いたい、マジで食ってみたい。
「俺も食べてみたいな」
俺のその答えに桜木は、「ふ〜ん」とだけ呟いた。対して有泉と美憂は、心底楽しみなのか、声を上げて喜んでいた。
「やったね〜、マジ楽しみ」
「ありがとうございます、桜木先輩」
2人の喜色ばんだ声に、桜木はドヤッとした表情でハニカんだのだった。
こうしてお菓子パーティーは大いに盛り上がった。美憂と二階堂も最初よりは普通に話せるようになったし、良い兆しと言えよう。
そんなお菓子パーティーは2時間近く続き、終始笑顔の絶えない素敵な時間となった。
こうして楽しい雰囲気のまま終わるかと思えたパーティーだったが、スマホを見つめ、神妙そうな面持ちで話しかけてきた有泉によって、様子がガラリと変わってしまう。
「サバミソちゃんがマサッちと話すのをめちゃくちゃ楽しみにしてるみたいで、明々後日の日曜日に打ち合わせできないかってメッセ来たんだけど」
その有泉の言葉で、シンと静まった室内に、「サバミソちゃん?」と呟く美憂の声だけが響いていた。
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