収益とコラボ配信と新衣装と

「では、皆さんお待ちかねの、初収益を配りましょうかね」


 この桜木の掛け声で、収益金が皆んなに配られることになった。


「はい、これが愛莉の分。これが麗奈の分。これが村瀬で、これが私ね」


 そうして4人の手にはそれぞれ1つずつ、封筒が渡された。小銭も多く、ずっしりと重い。


「これが1ヶ月間頑張ってきた重みだね」


「自分で稼いだのって初めてだからワクワクする〜」


 受け取った二階堂と有泉は、顔を綻ばせながらそう呟いた。だがこうして収益を貰ってみると、嬉しい反面、何だか申し訳なくなってしまう。


 俺も頑張ったと言い切れる自信はあるが、表に立っているのは3人だし、もう少し割合が低くても良い気がしてくる。それに今まで3人が培った土台の上に、楽して置いてもらった気がしてならないのだ。

 そう少し卑屈に感じてしまうほど、封筒は重く感じられる。


「何か悪いな。俺は裏方だし。等分だと貰いすぎじゃないか?」


 喜んでいるところに水を差すような発言だが、俺は気がかりでならなかったのだ。


「何言ってるの? 村瀬も頑張ってきたでしょう。村瀬のおかげで私達の時間も増えたし、登録者も増えてるんだから文句ないわよ」


「ん〜、なんか平等じゃないと上下関係できそうで面倒そうだしね〜」


「私は村瀬君が頑張ってるの知ってるし、当然だと思うよ」


 3人は至極当たり前だろうという様子で、そう言ってくれた。

 3人に頑張りを認められたのは嬉しいし、俄然やる気が出てくるというものだ。


「ありがとう、嬉しいよ。ならもっとマネージャーとして頑張らないとな」


 俺は首の後ろを照れ臭そうに触りながらそう話す。


「でも頑張りすぎないでよね。倒れられても困るし」


 桜木は自身のグラスに入った氷をストローでいじりながらそう語った。


 確かに体調を崩すのは最悪だ。皆んなにも迷惑をかけることになる。前みたいに、遅刻するまで夜更かしして作業するのは控えなければ。


 その後も皆んなで話を続けていれば、コラボ関係の話になった。何故なら明後日、二階堂にコラボの予定があるのだ。外部の、個人で活動している方とのコラボだ。


 俺がマネージャーをする前から交友があり、以前に一度だけコラボ配信もした仲のようだ。そうして1ヶ月ぶりくらいに、再びコラボをする流れになったらしい。


「久しぶりだから、ちゃんと喋れるか心配だなぁ」


「魔界マオウさんとは一回コラボしたんだし大丈夫でしょ。結構相性良かったし」


「そうだと良いんだけど」


「大丈夫っしょ、アイっちは画面越しだとコミュ力高いし」


「そ、それだと普段がコミュ障みたいじゃん」


 ......えっ。


 まぁ、コミュ障とは言わないけど、かなり人見知りは強いように見える。


 なんせ俺達以外と話す時は、良い意味でクールで凛々しく、悪い意味で怖いし無愛想に見えるのだ。それが蠱惑的というか、妖艶な雰囲気を普段の彼女に纏わせている。

 

 まぁ、今、目の前にいる彼女は、おっちょこちょいで、残念可愛い天然系という風にしか見えないのだが。


 そして桜木も有泉も、俺と似たようなことを思ったようで、『えっ?』という顔で、微妙な間が生まれてしまった。


「何? 何で静かなの? ねぇ? 違うよね?」


 オロオロと俺や桜木達を見回す二階堂を哀れに思ったのか、有泉はわざと話題を逸らすように話しかけた。


「そ、それよりさ〜、マオウちゃん可愛いよね〜。うちもファンなんだよ。ねぇ、アイっち今度紹介してよ」


「えっ!? 良いよ良いよ! なんなら3人でコラボもしてみたいし」


「お〜、良いじゃん。うちさ、この前の寝落ち配信でファンになっちゃってさ〜。あれ見た? 配信中に寝落ちしちゃったやつ。めっちゃ笑ったわ」


「そう! 本当にあれはヒヤヒヤしたよ。私、起きてって何回も連絡しちゃったもん」


 俺もコラボの話を聞いて、魔界マオウさんの動画は見た。結構元気というか自由というか、アグレッシブな方のようだった。これは桜木が、2人の相性が良いと評価するのも頷ける。


 既にPwitterでコラボの告知は済んでいるし、かなり注目されていた。サムネ作りも含め、しっかりサポートしなくては。


「確かに面白かったけど、ヒヤヒヤもしたわ。てか、何もなくて良かったよね〜。炎上とかしたら大変だし」


「炎上は怖いね、気をつけないと」


 俺も炎上は一番と言っていいほど注意してる。誹謗中傷はやっぱり辛いだろうしな。

 そしてやはり3人も同じように炎上は怖かったようで、他のVtuberの炎上例を挙げるなどして、話は盛り上がっていた。




 そして時刻は21時30分。あれからデザートも食べたし、そろそろお開きだろう。


 俺達は帰り支度を進めながら、キャラクターデザインをしてくれたイラストレーターさんについて話をしていた。


「サバミソちゃん時間あるかな? ちょっと変わってる人だから、ちゃんとマサっちに引き継ぎしとかないとだよね〜」


 サバミソさんとは、3人のキャラクターデザインをしてくれたイラストレーターさんである。


 前までは有泉が連絡をしてくれていた。しかし、俺がマネージャーとなった今、俺が連絡役となるべきだろう。だからこそ、今度俺の紹介と、連絡事項の引き継ぎを行おうという話になったのだ。


「来月の収益で新衣装作るんだから、依頼は来月以降になるだろうし、まだ良いんじゃない?」


 実は、有泉が収益の使い方で、新衣装を作りたいと話したのだ。

 それならば3人揃って新衣装を発表した方が良いだろうという話になり、資金的にも、来月の収益を使って、依頼することになったのだ。


 しかし、有泉曰く、サバミソさんは少し変わった人らしいのだ。だからこそ、早く打ち合わせをした方が良いだろうという話になったのだ。


「まぁ、いきなり3人分の衣装を作って欲しいと依頼されても、時間を確保できないかもしれないし、俺も、なるべく早く言っといた方が良いと思うぞ」


「だよね〜。じゃぁ、サバミソちゃんに今度私から連絡しとくから、打ち合わせの日にちが決まったら、マサっちに連絡する感じで良い?」


「あぁ、それで頼む」


 サバミソさんとはまだ連絡してないが、変わった人という評価が気になる。まぁ、最初は有泉も話しに加わってくれるだろうし、しっかりと引き継ぎを行わなくてはな。


「ねぇ、そろそろ閉店だよ。話もまとまったみたいだし、そろそろ帰る?」


 そして話が一旦まとまったところを確認した二階堂は、閉店時間に近いということもあり、帰ろうと俺達に提案してきた。


 そんな二階堂の言葉で、俺達は荷物を持ってレジに向かう。


 とりあえず今日の焼肉はめちゃくちゃ美味かった。


 そして明後日の二階堂のコラボ配信。成功させてやるためにも、俺も頑張らなくてはな。


 そうして初収益での焼肉パーティーは、大満足のもと、終了したのだった。


 


 

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