焼肉パーティー

 誕生日記念配信の翌々日。


 俺達は学校から少し離れた場所にある焼肉店に集合になった。今回も有泉のボディーガードの方々が送り迎えをしてくれた。


 しかし今回は普通の自動車でのお出迎え。あまりに目立ちすぎるという理由で、桜木が有泉にそうお願いしたのだ。俺も変な噂が立つのは困るし、無論普通の自動車で構わない。送ってもらえるだけで有り難いのだ。


 そして到着したのは、極々普通のファミリー向け焼肉店。日曜日だということでかなり混んでいる。だが俺達は昨日予約したおかげでスムーズに入店し、席に着くことができた。


「いや〜、やっぱ安い肉の方が好きなんだよね〜」


 お水を持ってきた店員さんがそこにいるんだから自重してください有泉さん。ギョッとした目で見られてますよ。


「牛タンッ、牛タンッ、フンフンフンッ」


 牛タン讃美の謎の歌を小声で口ずさむ二階堂。メニューの牛タン欄に釘付けなのか、俺達に聞こえているのに気がついていない。


「愛莉は本当に牛タンが好きね」


 そう言ってメニューを開く桜木に、驚いた様子で彼女に顔を向ける二階堂。そして彼女はそのまま俺と有泉にちらりと目線を向けてくる。


「可愛い歌じゃ〜ん」


「あぁ」


 少しはオブラートに包んで欲しかったのだが、有泉は歌の感想まで言いやがった。


 そうすればメニューを軽く開きテーブルに立てる二階堂。その陰に隠れるようにして顔を手で塞いでいた。

 本当に昨日から残念可愛い。天然というか何というか。役得としか言いようがない。


「じゃぁ、いつも通り愛莉は牛タンを頼むとして、とりあえずハラミとカルビを2人前ずつとか?」


「あっと、ホルモン食べたいで〜す」


「じゃぁ、プラスホルモンと、村瀬は何かある?」


「野菜盛りが欲しいな」


「おぉ、マサッち健康思考!」


 有泉がそう言うと、何故か2人は体をピクリと揺らした。自分達が健康を気にしていないと勘違いされて傷ついたとか? いや、桜木に関してそれはないか。


 メニューも決まり、注文も終え、料理が届くまでしばし待つ。


「久しぶりに外食した気がするわね」


「モモちゃんも? 私も久しぶりかな。節約のためにずっと自炊だったし」


「私は実家住みだけど、2人は大変だもんね〜」

 

 俺も有泉も実家住みだし、黙っていても無料でご飯が提供される環境にいる。しかし2人は下宿だ。無駄遣いはできないのだろう。


「やっぱ下宿は大変か?」


「んっと、仕送りも多いし、家賃はお父さんに払ってもらってるから大丈夫だけど。やっぱり機材が高かったんだよね」


「私も愛莉と同じね。デスクトップとかモニターとかやたら高いからね。だから収益が通って本当に良かったわ」


「あはは〜、そう言われると何か申し訳ないな〜」


「別にレイちゃんが気にすることじゃないよ。私達が好きでやってることだし」


「愛莉の言う通りね」


 ゲームして同時に配信するんだから、それなりに良いパソコンが必要だろう。それを自腹で買い揃えるんだったら、かなりの額を使ったに違いない。


「2人とも、パソコンとか全部自腹で買ったのか?」


「私はお父さんに少しお金貸してもらったよ。返さなくて良いとか言ってくるけど、申し訳ないからね」


「同じね。私の場合はバイトのお金から少しずつ返してるところ」


 2人ともやっぱり大変なんだな。北海道からこちらの高校を受験して、わざわざ下宿してるのだから、肉体的にも精神的にも疲れるだろう。


 そう話していれば、料理が続々と運ばれてきた。


 最初に運ばれてきたのはハラミとカルビ、少し二階堂は残念そうだ。


「いちば〜ん」


 そう言った有泉はトングを握りしめハラミを一枚網に乗せた。


 そうすれば肉の焼ける美味しそうな匂いと、ジュ〜ジュ〜と心地良い音が聞こえてくる。俺と桜木も誘われるようにトングを持ち肉を焼いていく。


 二階堂も牛タン以外食べられない訳ではなかったようで、お肉を1枚網に乗せた。


「んふぅ〜〜、ヤバァ、美味すぎ」


 程良い焼き加減のハラミ。適度に脂が乗り、非常に美味しそうだ。それを豪快に1口で食べる有泉。その美味そうな食べっぷりに、俺はゴクリと唾を飲み込む。


 そして俺と桜木はほぼ同時に、焼けた肉を一気に頬張った。


「美味いわね」


「うめぇ」


 肉からは肉汁が溢れ出し、桜木と俺の口からは同時に弾んだ声が溢れ出た。


「2人とも息ピッタリじゃんか」


 微笑ましそうに頬杖をついてこちらを見てくる有泉。どこか照れ臭くて、誤魔化すようにして肉をさらに網に乗せる。


「いやぁ、マジで美味いな。もう一枚乗せよっと」


「ねぇ〜、息ピッタリじゃん。何〜? 照れ隠し〜?」


 くっ、有泉、そこはスルーしてくれ。隣の桜木も呆れているのか、網を見つめ無言で肉を焼いていた。


「こちら、牛タンになります。えっと、どちらに置きましょうか?」


「ありがとうございま〜す。あっ、受け取りますよ〜」


 店員さんが二階堂待望の牛タンを運んできてくれたのだ。グッジョブ店員さん。有泉が皿を受け取ったことで、彼女の注意が俺らから逸れました。


「良かったね、アイっち」


「うんっ」


 嬉しそうな声で返事をした二階堂は、牛タンを4枚も網に乗せた。牛タンが本当に大好物なようだ。裏返す時期を見逃さないと、真剣に牛タンを眺めている。


「ここっ」


 その掛け声と同時にパパッと4枚の牛タンを裏返した。丁度良い焼き加減に二階堂も満足そうだ。


 そして焼けた4枚を皿に移せば、これまた豪快な食べ方をしたのだ。なんと2枚1組にして、大きな口を開け、一口で食べてしまったのだ。


 リスのようにパンパンなほっぺ。嬉しそうに細められる目。桜木も有泉も、俺と同じように彼女を見て口もとを緩めていた。


「な、なな、何!? 何か変だった??」


 う〜ん、変ではないが、見事な食いっぷりだった。


 二階堂は見つめられていたことに気がつき、他の2枚の牛タンをレモン汁につけながら、驚いたように言葉を発した。


「何でもないわよ。牛タン美味しそうね」


「牛タン1枚食べようっと」


「俺も1枚もらおうかな」


 こうして楽しいひと時が過ぎていったのだった。




 そうして食べ終わった後。皆んなは満足そうに背もたれに寄りかかっていた。だが、大事なことを思い出したであろう桜木は、大事そうに1枚のファイルをバックから取り出した。


 そのファイルの中には、4個の封筒が入っている。


 それぞれには名前が書かれており、今日の目的を考えれば、それが初収益が入った封筒だと理解できた。


 俺以外の皆んなもそれが何か理解できたようで、目を輝かせながら封筒を眺めている。


「では、皆さんお待ちかねの、初収益を配りましょうかね」


 桜木のその号令とともに、待ちに待った収益金が配られるのであった。






 


 


 

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