九条凛花
試験は無事に終了した。手応えは十分。中々に好成績を狙えそうだ。本当に本当に二階堂のおかげだし、動画編集という形で恩返ししなければならないだろう。
いや、この前にチーズケーキをご馳走してくれたという一件もあるし、何か別でお礼をした方が良いだろうか。
試験最終日ということで、中止されていた部活動も再開されたようだ。だが、俺は真っ直ぐに家に帰る。動画編集もしたいが、流石に少し休みたい。試験後に部活できる奴って化物かよ。
俺は家に到着し、そのままベットに横になる。思わず寝てしまいそうになるが、桜木や二階堂の配信の有無は確認しなければならない。
こうしてPwitterを開き、DM欄を確認すれば、兎木ノア、言い換えれば二階堂からメッセージが届いていたのだ。
『お疲れ様!! 試験どうだった?』
送信されてきた時刻は15時55分。最後の試験が終了したのが15時50分。二階堂がどれほどまでに俺を気にかけてくれていたのかが理解できた。
お疲れ様の後の二個のビックリマークは、試験が終わったという解放感と、彼女自身の試験の出来栄えに関する自信の現れだろう。俺は彼女に成績の面で悪影響を与えてしまったらどうしようかと考えていたが、考えすぎだったようだ。
俺は彼女を安心させるためにも、自信満々という風でメッセージを返した。
『二階堂さんのおかげで良い点数がとれそうだよ。本当にありがとう』
俺がそうメッセージを送れば、待っていましたと言わんばかりに、1分も経たずに返信が返ってくる。
『それなら良かった!! モモちゃんも自信ありそうだったし、安心したよ』
桜木も自信があるのか。これは良い勝負ができそうだ。
ところで二階堂は今日は生配信を行うのだろうか。彼女は試験日の数日前まで配信を行っていたほどだ。それに送られてくる文章を見るだけで、今の彼女の元気の良さは理解できるし、多分やってくれるだろう。
『それで試験は今日で終わったけど、この後生配信する?』
『うん! もちろんする予定だよ。21時に配信開始する予定なので、よろしくね』
『了解。配信では何する予定?』
『今日は久しぶりにゲームやるつもりだよ。apox legend ね。』
おぉ、apoxか、それは俺も楽しみだ。apoxは人気のバトルロイヤルfpsゲーム。ちなみに俺もやっている。この前動画編集のために彼女のゲーム実況を見てみたが、俺よりも上手くてびっくりした。
俺はかなりの運動音痴。しかし噂では二階堂は運動神経が良いと聞いている。実際に彼女の体育の授業を見たことはないが、運動神経もゲームの上手さに関わってくるのかもしれない。
『あと、伝言なんだけど。モモちゃんは今日、予定あるみたいで配信はしないみたいだよ。よろしくね』
『分かった。じゃぁ、配信頑張ってね』
こうして二階堂との話も終わり、桜木の配信の有無も把握できた。
そうすれば今度は、天之川高校放送部に所属するもう1人のキャラクター、九条凛花に配信の有無を聞かなければならない。
九条とはかれこそ3週間近くメッセージでのやり取りを続けているが、彼女の堅苦しい言葉遣いは崩れない。今も形式ばったやり取りを繰り返している。
兎木ノアの動画を作り終えれば、次は九条の動画を作る予定になっているのだが、こんな感じで大丈夫なのだろうか。
まぁ、メッセージだけのやり取りでも特に困ることはないだろう。それに二階堂と桜木みたく、わざわざ俺の部屋に訪れ、動画鑑賞を行い、動画のコンセプト設計を行っていくという方が稀であろう。
今まで彼女の生配信のサムネをいくつか作ってきた時も、別に混乱も無かったし、大丈夫だろう。
『九条さん、お疲れ様です。今日は生配信の予定はありますか?』
彼女もここ1、2週間は忙しかったようで、配信頻度も落ちているし、桜木が配信しない今日、なるべく配信をしてほしい。
それともいうのも、天之川高校放送部の3人、今結構注目されているのだ。今がVtuber全盛期というのもある。それに俺がまだマネージャーになる前に、二階堂、兎木ノアがバズったらしく、この機を逃さずどんどんと売り出していきたいのだ。
だからこそ、急遽動画を作成し、兎木ノアの誕生日にも、記念の動画を配信する予定なのだ。また、誕生日には記念の生配信も予定されている。まだ誕生日生放送の企画は確定していないが、3人でコラボして放送するのは決定している。
カレンダーを見ながらそんなことを考えていると、九条から返信が返ってきた。
『いつもお世話になっております、九条凛花でございます。本日の配信開始時間が決まりましたので、ご連絡を差し上げました。本日は19時から配信したいと考えています。内容はホラーゲームの影牢になります。お忙しいところ恐縮ですが、ご確認よろしくお願いします』
文章から彼女の真面目さが滲み出ている。こんな丁寧な文を毎回のように送ってくるし、中の人は大学生か社会人のどちらかだろう。
『了解です。19時までまだ時間があるので、ササっとサムネ作りますが、大丈夫ですか?』
彼女がホラーゲームの影牢をプレイするのは初めてだし、使い回しのできるサムネイラストは持っていないだろう。多少の勉強疲れはあるものの、やはり仕事はキッチリこなしたい。
『ありがとうございます。お忙しいところ恐縮ではございますが、サムネを作っていただければ幸いでございます。格別なお取り計らい、恐悦至極にございます』
『それでしたら、素材をもらいたいので、眉を上げて怖がっている感じの顔を送ってもらえますか?』
『かしこまりました。それでは後程送らせていただきます。失礼いたします』
ここまでカッチリとした敬語を使われると、何だが体が痒くなる。別に敬語を使うのは悪いことではない。けれど何か慣れないのだ。
しかし、やはりこういう場合、俺も形式的な敬語の文章を使うべきなのだろうか。後でビジネスマナーにおけるメール作成も学んでおこう。
その後すぐ、指示されたとおり、眉を上げ怖がっている表情の九条の顔が送られてきた。黒髪の長髪、それも姫カット。美しさと格好良さを兼ね備えた、凛とした顔つき。品と知性を表すような、端正な顔立ち。
生徒会長ということだが、この役職がこれほどまでに似合うキャラもそうそういないだろう。
俺はその後すぐに配信の予定表を作り投稿し、急いでサムネを作り、九条に送った。送ってもらった九条の顔の目元に影をつけたり、冷や汗をつけたり加工し、ホラーっぽい、雰囲気のあるサムネになった。
九条も満足したようで、感謝のメッセージが送られてくる。
そして九条の配信開始時間の19時となった。
サムネはしっかりと表示されている。
『皆さまご機嫌よう、九条凛花ですわ。お久しぶりです。今日はホラーゲームの影牢をプレイしていきたいと思います』
俺は3人の配信を、時間がある時はなるべく見るようにしている。これから行う動画編集の役に立つだろうし、マネージャーとして把握しておかなければならないこともあるだろう。
『あ、あまりホラーゲームはしたことがありませんが、プ、プレイしていきたいと思いますわ』
そう言ってゲームを開始した九条だが、少し声が震えている気がする。俺だってホラー系は苦手だ。今も少し目を細めながら、音量も控えめにして配信を見ているのだ。
『きゃ!! な、何なんですか? 驚きますでしょっ!?』
いつもの礼儀正しいお嬢様口調は顕在だが、かなり焦っているようだ。彼女の乱れた雰囲気にコメント欄も盛り上がっている。
『もぉ、何なのよこいつ〜。って、な、何でもないですわよ』
おぉ、口調が崩れた。ナイス幽霊。俺も思わず声を出し驚きそうになったが、許してやろう。いつもは凛々しい生徒会長キャラの九条が、ところどころ驚く度に口調が荒っぽくなるのは、俺も見ていて面白い。
コメント欄も同じようで、『地声地声ww』、『素がでちゃってて草』、『普通に可愛い』などなど、かなり好意的に受け止められているようだ。今までよりも視聴者が多いし、これはかなりの成功だろう。
『きゃぁ!! っこいつ〜、もぉ許さない。マジで許さないかんなぁ。 って、言うのは嘘ですわよ。あら、皆さん、幻聴でも聞いていたんですか?』
崩れた語尾。だがまだ終わらない。
『ちょ、ヤバっ、びっくりした〜。こいつやばすぎ。えっ、はい? こいつ? こいつなんて、私はそんなこと言ってないですよ。私は生徒会長ですよ? 言うわけないじゃないですか?』
驚いて口調が崩れて、それに対してとぼけるように反論する九条が中々に面白い。それにコメントで『地声出てますよ笑』とか、『生徒会長もヤバイって言うんですね』なんてのが来ても、元のお嬢様口調で、すっとぼける感じがなお良い。
そんなこんなで盛り上がったまま配信は進み。最後は元の清廉とした落ち着いた声で締めた九条だったが、コメント欄はツッコミと草の嵐だった。
初のホラーゲームでどうなるかと思ったが、杞憂どころか、大成功に終わった。
その後の二階堂の配信は21時から24時近くまで行われた。そんな彼女の配信も、九条から流れてきたであろう新規のリスナーで賑わい、全体として確かな手応えが得られたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます