表の顔
動画編集やイラスト作成の基礎を教える事を約束した後は、何気ない談笑を重ねた。桜木の最初のあの毒舌ぶりはかなり和らぎ、俺が動画編集などのやり方を教える事を約束したお陰もあってか、今はかなりフランクだ。
二階堂も桜木と一緒にいることで安心しているのか、黒髪長身のクールな美女という見た目とは反して、言動がかなり可愛らしい。うん、何時間でも見てられそうだ。
しかし、何で二階堂は普段、他人に対して無関心というか、冷たく感じられるような言葉や行動をするのだろうか。今の方がかなり好感を持たれると思うのだが。
「そういえば二階堂さんって、なんでいつもはクールというか、変な言い方だけど冷たい感じで接してるんだ? 今の感じで話した方が、絶対みんなも話しやすくなると思うんだけどな」
何度も言うが、今の二階堂は本当に可愛らしい。こういう感じで他のクラスメイトにも接していれば、絶対にもっとみんなから好かれると思う。『雪女』や『鉄の女』なんて呼ばれて、少し遠い存在に思われて敬遠されるよりは、よっぽど良いと思う。
だが冷たいという表現の仕方は、かなり言い過ぎてしまったかもしれない。もう少しオブラートに包んで伝えてあげれば良かったと、言った後に後悔する。
二階堂も俺の発言を聞いて少し悲しそうに下を向いている。その姿を見て、俺は早く言い直さなければと、焦りとともに大量の冷や汗が噴き出そうになる。だが、そんな俺の冷や汗より先に、桜木が耐えきれないと、「ぷぷっ」と盛大に吹き出し笑い出した。
「ははははは、クール、冷たいだって愛莉。ぷぷっ、はははっ」
そう言って桜木は、面白いものを見るような目で二階堂を見つめている。二階堂は下を向いてプルプルと震えているし、耳まで赤くなっている。流石の二階堂でもかなり怒っているに違いない。
それなのに桜木はさらに追い討ちを加える。二階堂の小刻みに震える肩をポンポンと楽しそうに軽く叩き始めたのだ。
これはやり過ぎだ。二階堂の堪忍袋にも限界があるのだ。元々は俺の発言に原因がある。俺がしっかりフォローしなくては。
しかし、黒い髪をなびかせながら、バサリと顔を上げた二階堂は、俺が思っていた反応とは違う動きを見せた。
「もぉ〜、ひどい、ひどいよ、2人とも。特にモモちゃん。私の性格だって知ってるのに。この毒舌女っ!!」
二階堂は涙目で、恥ずかしいのか耳まで赤くして、少し頬を膨らませている。腕をピョコピョコと振るわせて怒りを表現している姿は、申し訳ないが只々可愛らしい。
そして最後に抵抗するように、頑張って言い放った『毒舌女』という言葉も、可愛らしさに拍車をかけている。
「今日のモモちゃん嫌いっ」
そして二階堂はプイッと桜木から顔を逸らした。怒り方まで可愛らしく、その綺麗系の容姿とのギャップもあり、俺は思わずニヤケてしまいそうになる。
「ははは、ごめんごめん。ふふ、本当にごめんて」
「村瀬君、モモちゃんひどいよね?」
二階堂は少し目蓋を赤くしながらそう尋ねてくる。二階堂の怒りの矛先が完全に桜木に向かってくれたのは嬉しい。
俺はちらりと桜木を見る。するといつも以上に深い笑顔を浮かべた彼女がそこにいた。そして俺と目が合うと、その圧を感じる笑みのまま、首をこてりと傾けた。『ひどくないよなぁ?? なんか文句あっか??』、そう言われているように感じてならない。
「さ、桜木さんも悪気があって言ってるわけじゃないと思うよ。そ、それに、理由があるんだったら知りたいなー、なんて」
俺は話を逸らすようにして、二階堂の問いをうやむやにして逃げた。
俺の答えに満足したのか、桜木は深く頷いた。満足そうな彼女の顔を見れば、俺も何故か得も言われぬ安心感が湧いてくる。待て、なんかさっそく調教されている気分になる。
「いやいや、本当にごめんね愛莉。人見知りだから仕方ないもんね」
「そうだよ。私が人見知りだって知ってるんだから、そんなに笑わなくても良いのに」
「へぇ、人見知りなんだ。だからクラスメイトとちょっと距離をとって話しちゃうって感じか?」
「そ、そうだね。あと、Vtuberを始めてから、私が兎木ノアだってバレないように、あんまり素を見せないようにって」
「まぁ、愛莉は色々あったからしょうがないっちゃしょうがないんだよね。だから私がお世話してあげてるの」
「お、お世話って、私はモモちゃんのペットじゃないんだから」
人見知り、そしてVtuberをしているとバレないために、他のクラスメイトには冷たく当たってしまっているのか。
「ほ、本当はクラスのみんなとも普通に接してみたいんだけど、なんか怖くて」
結構重度の人見知りなのかな。それなら俺と今こうして普通に話せてるのは奇跡みたいなものなのだろうか。てか、こうやって素を見せてくれるのは非常に嬉しい。
「俺には普通に接してくれてるし、他のクラスメイトとも頑張れば普通に話せるんじゃない?」
「いや、村瀬君は私がVtuberをしてることを知ってるし、それに今はモモちゃんもいるから......」
「村瀬、トイレ借りるね、さよならー」
二階堂の発言の後、桜木は悪戯な笑顔を浮かべながら、そそくさと部屋から出て行こうとする。
「あっ、待って、私も行く、私も行くから、モモちゃん待ってよ」
安心しろ二階堂。桜木は別に本当にトイレに行きたい訳じゃない。俺の家のトイレの場所を知らない桜木が、俺の案内もなく部屋から逃げるように出て行こうとしているのだ。二階堂の反応を見て楽しもうとしているだけだぞ。
「桜木さん、トイレの場所知らないでしょ? 案内するよ」
俺は二階堂の悲痛な顔が見ていられず、助けようと桜木に声をかける。
「うん? 案内? あー、やっぱトイレ良いや」
やっぱり桜木は、二階堂と俺を2人きりにして、二階堂の反応を楽しみたいだけだったようだ。
桜木がいないと、二階堂は俺と普通に話せないという事実は少し悲しいが、それが現実なのだろう。しかし、桜木と数名の生徒以外で、二階堂が普通に接せられるのは俺くらいのものなので、それはかなり嬉しい。
こうして二階堂が俺に素で接することができる理由を知ることができた。その後は、動画編集などの勉強会の日程、2人への学校での接し方などを話し合い、今日はお開きとなったのだった。
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