第154話 問詰め妹ですが、どうしよう。

「誠一さん、姉ぇが変じゃないですか?」


 後ろに視線をチラリ。

 マリさん……もとい、マツリさんと姉ぇが何やら会話している。

 視線が私と合った姉ぇは、


「……」


 なんとも、複雑な表情で私を観てきた。

 年子の姉妹ですら判らない感情を向けられてきて、何ともな感じだ。


「いつものネガティブだろうなぁ……。

 あとは、燦への嫉妬だろうな」


 誠一さんが呆れ顔になる。

 

「姉ぇがネガティブ……?

 嫉妬……?」


 あんまりイメージが無い。

 私にとっての姉ぇは基本的にポジティブで、行動的だ。

 悩むぐらいなら行動する、そして何だかんだ壁をぶち破る。


「初音は、僕のために常日頃、向上心をもってくれているのは判るな?」

「はい、姉ぇはいつだって自分への努力を怠ってません。

 それが高い行動力と、打開力に繋がっています」


 特に体重……というわけではないが、肌の手入れも奇麗だし、同じ遺伝子から生まれたとは思えないこともあった。

 華があるのだ姉ぇには。

 今は、私だってと自信をつけてきて……それでも姉ぇの経験や知恵に舌を巻くことがある。

 いかんせん、家事万能、美人、床上手……っと妹である私からすれば、劣等感を覚えてしまう。


「自分を追い込みすぎるのが初音なんだよなぁ……。

 燦が特技や方向性を見つけたから、悩んでるんだろうな」

「あはは……それは私もでしたね」

「そうだったな」


 恥ずかしい過去の話だ。

 とはいえ、


「それはそれ」


 と、切り離せられるようになってきた私が居る。

 指輪を観る。

 そんな姉ぇに比べて多々劣る私でも誠一さんは好いてくれるようになってくれた証で、努力を続ける自信が付いた。

 私だって出来るのだ。


「えへへ」


 笑みが浮かんできてしまう。

 そんな私を観て、しどーさんが眼を見開いてきている。

 何だろう。


「どうしました?」

「いや、見惚れてた」


 頬を赤らめて、そう素直にいってくれるので、嬉しくなってしまう。

 姉ぇの言っていた通り、誠一さんは女の喜ばせ方をよく知っている。

 ちゃんと気持ちを現してくれるのだ。


「誠一さん、あんまり私を喜ばせると、襲いたくなっちゃいますよ?」


 攻めていい。

 姉ぇから学んだことを実践へと移し、ズズイと私は身体を使って誠一さんを喜ばせようと持っている腕に胸を押し付ける。


「初音と同じことを言うな……」

「年子姉妹ですから。

 棒姉妹と言った方が良いですか?」


 とはいえ、姉ぇで慣れている誠一さんだ。

 困った笑顔を浮かべるだけで、落ち着いている。

 だから、ズルい二択だ。


「イヤですか?」

「嫌ではない」


 ではない。

 この言葉の裏は、場を弁えてくれたら良いというニュアンスだろう。


「判ってますよ」


 と言いつつ、今は良いのだろうと、押し付けておく。

 誠一さんは私たちの胸が大好きだ。


「燦ちゃーん……?」


 鬼ではなく、姉ぇがやりすぎだと声を掛けてくる。

 顏が怖い。

 隣のマツリさんもニャハハと笑顔を浮かべながら、


「そろそろ墓地だからお兄様は三駆みつかとバケツに水入れてきてくださいな?」

「判った」


 と、マツリさんがおしとやかな口調で言うと、私から誠一さんが離れていく。

 うーん、やりすぎたかな?

 姉ぇの表情に怖さを感じた。


「サンチャも大胆ねー。

 彼氏の妹が居る前で」

「気にする必要ありますか?」

「茉莉としては、ふしだらだと言及したいぐらいには。

 マリとしては暑いのによくやると、呆れる感じよねー」


 なら、マツリとしてはと聞く前に、


「燦ちゃんは、誠一の事、ホントに大好きよねー」

「そりゃそうですよ」


 聞かれるので、当たり前だと返す。


「ちなみになんで?」

「運命というのがきっかけですが、誠一さん、本当にマジメなんです。

 確かに二人を選ぶという選択は普通では無いと思いますが、それを悩んで悩みぬいて、マジメに回答してくれたんです。

 ちゃんと、振り向いてくれた。

 そして示してくれている。

 惚れ直してますよ。

 それだけじゃないですけどね」


 えへへと笑顔が綻んでしまう。


「こんなにも好いてくれる女の子が居る誠一は果報者ねー。

 でも、あまり三駆みつかから、誠一を盗って欲しくないかなとは思うかなー」


 何が言いたいのか良く判らない。

 というか、姉妹ではあるが、お互いに体を交わした関係でもある。

 仲の良すぎる姉妹だと思う。

 それにだ、


「盗ろうと思っても盗られるような姉ぇじゃありませんよ。

 だって姉ぇは凄いんですよ?」


 私は姉ぇに勝つビジョンが浮かんでいない。

 勝とうとはしているが、想像が出来ないのだ。


「まぁ、うん、三駆みつかが凄いのは認める。

 運も器量も度胸もある。

 誠一と居る時は弱弱しいというか、悩みすぎている感はあるけど……オジサン達からも三駆みつかは人気だったから」

「その一人がリアル叔父さんだったのはどうかと思いましたがね」

「ハハハ……それは私も驚いたわー」

「ちなみに事前に知ってたり?」

「勿論。

 鳳凰寺さんの希望で教えなかったけどね」


 笑みを浮かべながら、


「所で突然、なんでそんな話を私に?」

「親友としてね、お節介。

 燦ちゃんに釘を刺しておこうかと思いましてね?」

「ふーん」


 私はそれが本当の理由では無いと直感し、


「……てっきり、お兄さんを私に盗られて、その腹いせかと」 


 言ってやった。


「ん……なんでそんなこと思うのん?」

「勘なんですけど……誠一さんに向ける眼が、日野君相手に向ける眼と同じに観えましてですね?」

「……へ?」

 

 誠一さんに似た眼が見開く。


「――あはは」


 次に変な声が漏れてきて。


「何をいってんのー、誠一とは双子の兄妹。

 ひのきゅんと誠一は似ている所はあると思うけどー?

 少なからず、小さいときの影響はあるんじゃないかニャー」

「ならいいんですけど……。

 少なくとも、誠一さんは姉ぇと私のなんですから」


 釘を刺し、同時に私は自身の女にも抑えを入れる。

 敏感になりすぎているような気がするし、言わなくても良い事を言った気もする。

 とはいえ、ちゃんと意思を示すことは重要だ。

 後悔が無い為にだ。


「「……」」


 お互いに笑みを張り付けたまま


「マツリ、どうした?

 深刻な顔して」

「あ……」


 誠一さんの顔を観た、マツリさんの顔が止まる。


「熱中症か?

 ちゃんと水分とってるのか?」

「……ひゃっ!」


 と、額に手を乗せると、バチンと手を振りほどくマツリさんである。


「あー、すまない。

 手が冷たかったか?

 水汲んできた時、冷やしてたんだ」

「いや、そうじゃなくてねー、お兄様?」


 マツリさんは顔を真っ赤にさせながら続ける。


「女の子にするのはセクハラですよ?

 驚いてしまったんです」

「初音、これはセクハラか?」

「別に?

 スキンシップよね」

「なら、問題ないな」

「問題あるわー!

 この糞兄貴ー!」

 

 と、マツリさんは言葉を荒げながら言う。

 怒りを向けられている誠一さんのに笑みが浮かぶ。


「うん、それだけ叫べれば大丈夫だな。

 判ってるさ、マツリは僕のこと、苦手なのに歩み寄ってくれている。

 それに乗じる様に僕が初音や燦にするみたいにスキンシップをしてしまった。

 歩み方を誤った。

 すまない」


 そして、頭を下げる。

 こういう所が真面目な誠一さんだ。


「……ううん、驚いただけだからー。

 お兄様も、うん、そんなに気にしなくていいですよ?

 今後はそういうのも、うん、してくれていいです」

「良かった。

 僕もマツリとは仲良くしたいからな」

「仲良く……」


 口の中で飴玉をころがすように反芻するマツリさん。


「うん、そうだねー。

 おにーと、仲いい方がお母さんも安心するしねー」


 マリ、茉莉、どっちの口調でも有り、どっちでもない口調で締めたマツリさんは笑顔だった。

 しかし、私から観れば、その笑顔はどこか嬉しそうな反面、心残りのようなモノが透けていたのであった。




――――

l´・ω・`)最新話です。仕事で死んでます。お楽しみの方には大変申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。ちょい、リアルにリソースとられてます、申し訳ないです。


l´・ω・`)応援してもいい、続きが気になる、初音がもっとみたい方、★★★やフォロー、感想を頂くとやる気があがってきばります!

 

 







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