第151話 ブーケと妹だけど、どうしよう。

「食べた食べた……」


 姉ぇが居ないのもあって羽目を外しすぎた気がする。

 最近、お腹が空くのだ。

 理由は判らない。

 ビュッヘにあるモノを大方食べ終えて満足した私はホテルの外へ。

 スマホで姉ぇ達に連絡した所、反応が無い。

 どうやら寝直したらしい。

 まだ時間もあると思い、私は外へと足を向けた。


「もう人が多い……」


 目的も決めずに歓声の上がる遊園地の横を歩いていく。

 何というか改めて感じる。

 都会だ。

 京都駅近辺も都会だが、高い建物が無いし、全体的に古めかしい感じがある。

 新しく背の有る建物が多いのだ、みなとみらいは。


「……ん?」


 しばらく行くと、人が多い場所に出る。

 何やらスーツとかを着ている人たちが居たり。普通の格好の人がワイワイと何やら建物前に並んでいる。

 何かあるのかと、気になって私も近くへ。


「結婚式があるんだって、観光客もにぎわいに入って欲しいって」

「へー」

「私達もいつかはだしみてこーよ。

 ブーケ狙えるかもしれないし」

「わかったわかった」


 っとカップルが会話しているのが聞こえる。

 結婚式かぁ……。

 一目見ようと釣られるように私も列の中へ。

 興味があるのだ。


「いいなぁ……」


 とはいえ、私は普通の恋をしていない。

 誠一さんはきっと式をしてくれるだろうが、二股だ。

 人を呼べるはずもないし、大々的にやることも難しいだろう。

 いや、どうにかしてくれそうな謎の信頼感はあるのだけど……。

 それに親戚である鳳凰寺の面々などは気にしそうにもない。

 そもそもに叔父さんが不貞だ。


「おめでとうございまーす!」「おめでとー!」「おめでとうございます!」


 新郎新婦が建物から出てくると歓声が沸く。

 一般の人たちも笑いあい、他人だというのに口々に祝いの言葉を述べる。

 誰もが笑いあう幸せな空間だ。

 そして何より、新婦のウェディングドレスの姿が白く、日光を反射し、眩しい。

 奇麗なのだ。


「いいなぁ……」


 口の中でお嫁さんという単語を転がしながら、羨ましさが零れてしまう。

 私もああいう風なウェディングドレスが着たい。

 皆に祝福されたい。

 そう自分を重ねてしまう。

 とはいえ、難しい話なのは分かっている。


「はぁ……」


 頭の中が、欲望と現実でループしてしまう私は溜息しか出ない。

 どうしたものやら。

 頭を抱えようと手を前にしたところに、花束がポスンと手元に出現する。


「……へ?」


 思考が追い付かない。

 周りをキョロキョロとみれば、女性の面々からは羨ましそうな目線が。

 新郎新婦を観れば、新婦が笑顔を向けてくれていて、


「ブーケをゲットした可愛らしいお嬢さんはおめでとうございます!」


 と、司会と思わしき人の言葉で、これが何なのかが理解出来る。

 つまり、ウェディングブーケだ。

 幸せのおすそ分け、つまり次結婚できると言われている。


「ありがとうございます!」


 ペコリと頭を下げてしまった。


 そんな形でゲットしてしまったブーケが手元に抱えながら私は歩いていく。

 ハンマーヘッドの先まで来てしまって、


「どうしよ……」


 悩みながら海を見、そして手元に眼を戻す。

 ブーケだ。

 白と緑の花で主に出来たそれは可愛らしい。

 ブリザードフラワーになっており、日持ちがすることも聞いた。

 それはいい、


「……」


 持っている手には指輪。

 後ろに見えている観覧車で貰った婚約指輪だ。

 私はこれだけでも十分だったはずだ。

 けれども、欲が出てきてしまったのだろうか。


「式もしたくなってきてる……」


 それをするには正妻の座を姉ぇから奪うのが手っ取り早い。

 流石にそれを認めるような誠一さんでも、姉ぇでも無い。

 一番は姉ぇ、これは曲げられない。


「はぁ……。

 私って強欲だったのかな……」


 溜息しか出ない。


「あれ、燦さん?」


 呼ばれてみれば、白い少女。

 可愛らしい顔、青紫色の不思議な眼、陶磁器のような白い肌、白い髪。

 着ているワンピースも白く凄く目立つ。

 あと、私よりも背が低いのに巨乳。


「あ……唯莉さんの娘さんの……」

「美怜で良いんだよ」


 っと、私の隣に近づいてくる。


「散歩してたんだよ。

 そしたら知ってる顔が見えたから」

「昨日は意地の張り合い、申し訳なかったです」

「いえいえ、私の食欲についてこられるのはスゴイと思うんだよ。

 舞鶴の人は大抵大食いだけどね?」


 そういえば、大食いタレントに舞鶴出身の人が居た気がする。

 土地柄なのかもしれない。


「燦さんは、何を黄昏ていたんですか?

 ……んー、ブーケ。

 結婚に悩んでるとかかな?」


 ズバリ言い当ててきて、答えに窮する。


「当たりかな」


 なんだろう、見透かされている気がする。

 姉ぇから誠一さんや鳳凰寺さんを抜いて、成績一位ということは聞いている。

 姉ぇ曰く、超えるべき壁とあげていた理由が、今ようやく理解出来た気がした。


「あ、ごめんなさい。

 つっこみすぎたかな?」

「いえ、ちょっと、図星で。

 その通りなんです。

 私、結婚式出来ないのに、ブーケが舞い込んできてどうしようかと」

「なんで、出来ないの?」


 切り口が鋭いナイフのようだ。


「ぇっと……姉ぇから、私たちの関係とか聞いてたりします?」

「うん、聞いてるよ。

 マジメガネさんからも望経由で」


 望……確か、委員長さんの名前で、誠一さんと最近絡むことが多いのは知っている。


「その上で、何でって聞いてるんだよ?」

「ぇっと……?」

「他人の事なんか気にしても仕方ないんじゃないかなと、結局、自分の境遇を受け入れてどうするかは自分なんだよ。

 私もこの身体に散々悩まされてきたし。

 アルビノ。

 虐められたし、散々、普通に産んでくれなかったことを恨んだりもしたもんだよ」


 えへへとネモフィラのような笑顔が愛らしい。

 女性相手の欲情は姉ぇとしているが、純粋に抱きしめたくなるような感情が沸き上がりそうになる。

 落ち着け。


「その……ですね。

 結婚式したら、誠一さんに迷惑がかかるんじゃないかと。

 したいと言えば、しようと言ってくれるという確信があるだけに余計」

「そこまで燦さんは背負わなくていいと思うんだよ?

 結局、私も家族になった望とは、遠慮の無い関係を望んで、望まれてだから。

 遠慮する方が相手を苦しめることもあるんだよ。

 だから、普通に甘えてあげた方が良いと思うんだよ?」


 うんうんと実感を持って首を縦に振る。


「なるほど……」


 言われ、ストンと来た感じだ。

 私の中で意思が固まる。


「ただ、それで喧嘩もするんだけどね。

 ……今がそうなんだけど」


 何かあったらしい。

 聞いて欲しそうな感じがするので、


「お聞きしても?」

「朝、望のが珍しく大きくなってたから、弄ったら、珍しく起きて怒られた」

「それは流石に怒ると思いますし、悪いとも思ってるんですよね?」

「うう……家族だからってのは納得できないんだよ……」


 白い頬を紅くしながら膨らむ。


「家族だからこそしていいと思うんだよ」


 何を言っているのだろうか、この人。

 ちょっと思考が追い付かない。


「ぇっと、家族って兄妹きょうだいって意味ですよね?」

「私が姉だもん!」


 言葉の漢字を読まれて言い返されるが否定は来なかった。

 つまり、姉弟きょうだいなのだろうし、この人の思考が異常なのが理解出来る。


「こんにちは、身内の恥を晒して済まない」


 っと、声を掛けられる。

 みれば、アルビノの鋭い目つきの男性。

 委員長さんだ。


「うー!

 恥って何!」

「僕も疲れていたのだろう、寝ている間の自制が聞かなかったのは悪いと思う。

 とはいえだ、平行線だ。

 この件は譲歩しないからな?」

「うー!

 今日こそ、認めさせるんだよ!」


 首根っこを掴まれ引っ張られていく美怜さん。

 遠目になっていく二人の姿は何というか楽しそうではあるし、素直に言いあっているであろうことは容易に想像が付いた。

 だから、私は、


「燦、大丈夫だったか」


 恐らくGPSで心配してくれたのであろう誠一さんが入れ替わりで私の所に来てくれるたのを観て、


「誠一さん」


 胸元のブーケに力を入れて真剣な眼差しを向ける。

 そして、


「私と結婚式してください」

「判った」


 正直に述べると即答が飛んできた。

 誠一さんの顔は真剣そのものだ。

 かっこいい、私が惚れた誠一さんだ。


「人を呼んで、大々的にですよ?」

「勿論だ。

 隠す必要なんかあるモノか。

 燦は僕のだろう?」


 っと、ブーケごと、抱きしめてくれる。


「はい……♡

 私は誠一さんのです♡」


 体が熱くなってきてしまう。

 女の私が嬉しいと感情を露わにし、身体が火照ってきてしまう。

 抱かれたい。

 求められたい。

 彼のモノにもっともっとなりたい。

 抑える。

 けれども、抱きしめ返しを強くし、私の武器爆乳を押し当てることは許されるだろう。

 だから、そうした。

 夏の日差しをより熱く感じた。


 


 

 


 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る