第150話 夢見が良くなかったんだけど、なにか?
「きんにくつうううううううう」
「予想内ではあるが、つらいな……」
私が叫ぶと、しどー君も同意だとベッドに転がっている。
「姉ぇ、日ごろから運動してないから」
「いつも夜の運動はしてるんだけどね……?」
「それと使う筋肉違わない?」
「確かに」
一番納得できないのは、燦ちゃんがピンピンしていることだ。
しどー君とするようになってからだろうか、燦ちゃんはどんどん体力的な力をつけてきている気がする。
もしかしたら食べる量が増えたのは筋肉量が増えてるから……?
いや、まさかね?
そんなことを考えながら、頭を切り替えていく。
「今日の予定、温泉宿に移動というのは湯治目的?」
「そういうことだ……。
筋肉痛で酷い目にあうのは判ってたからな……。
僕はインドア派だ……」
予定通りという訳だ。
とはいえ、動けない。
元運動部としては情けない限りだ。
「チェックアウトの時間まではゆっくりしよう。
燦は余裕あるなら、時間まで外で遊んできても良いぞ?」
「うーん。
そう言う気分でも無いんですけど?」
言いながら身動きの取れないしどー君に近づき、
「エッチなことがしたいです」
豊満な胸元でにじり寄り、しどー君を挑発する。
とりあえず、ゲシゲシ。
悲鳴を上げる体を無視して、妹を蹴飛ばしておく。
「姉ぇ!」
「しどー君の負担を増やすのは止めなさいよ、全く……」
「うー」
発情犬が唸るように観てくる。
「燦、貸し切り温泉付きだから、そこで体力があったらな?」
「あ♡
判りました、我慢します♡」
「あ、ズルいズルい!
私もー!」
抜け駆けは許さぬ。
そんなかんなでいつも通りの私達である。
「そしたら私は、朝のビュッフェに行ってきます」
「ほどほどにな?」
「はーい」
と、燦ちゃんは部屋を出ていく。
すると、二人きりだ。
とはいえ、エロい気分にはなれない。
結論的には、しばらくゆっくりとしたい気分だ。
「これぐらいは許してね?」
っと、しどー君の胸元に顔を寄せる。
「……夏だから熱いんだが?」
「いや?」
「いやじゃない」
っと、抱きしめてくれる。
しどー君の温かみがほんのりと私を癒してくれる。
穏やかな時間が流れる。
「なんだかんだ、エッチしなくても幸せな感じよね」
「判る。
確かに初音と一体になるというのは凄く気持ちいいし、初音を喜ばすのが楽しいんだが」
ぎゅっと私を抱く力を強くするしどー君は続ける、
「こう、何もしなくても初音が胸の中で居てくれるだけで嬉しくなる。
暖かい感じが伝わってくるのもいい。
満たされてる感じが凄くいい」
「恥ずかしいセリフぅ……♡」
顔が火照ってしまうのを感じ、隠すように胸元に擦り付ける。
「はぁ……ごめんな、もう一回寝る」
「うん、私も」
大あくびをするしどー君に釣られるように私も大あくび。
そして意識が落ちた。
これは夢だ。
そう自認しながら私は起きれない。
目の前に居るのはしどー君。
けれども、私の方を振り向いてくれていない。
カツカツと前を歩いていく。
私のことを気にせずだ。
あぁ、それは好ましいことだと思う。
私は重荷になりたくない。
そう自分に言い聞かせてきた。
彼の成長の為に私が足かせになることはできない。
「あ……」
ふと、隣に風。
燦ちゃんが私を追い越してしどー君の後ろへかけていく。
「負けるか……!」
私は自身に力を入れようとする。
しかし、二人に離される一方だ。
もがいてももがいても、追いつけない。
涙が出てくる。
二人に置いて行かれるということにではない。
自分が追い付けないことにだ。
「くぅ!」
力を入れすぎたからか、ここで夢が覚めた。
筋肉痛の痛みはない。
「ZZZ」
隣を観れば私の大好きな人が呑気に寝息を立てている。
私の手の届くところに居る。
「……むぅ」
私は彼の頭に抱き着きながら複雑な感情を浮かべる。
幸せだと思う。
けれども同時に、今、私は自分を磨くことを怠っていないかと。
「多分、焦りかな……」
恐らく燦ちゃんが間接的な原因だ。
夢を観てはっきり自認したが、妹に対して焦りを覚えている。
一番は伸びしろの差だ。
私達姉妹は決めたら突っ走れるのはママを観ればわかることだ。私自身も良く判っている。
そんな燦ちゃんが目的を決めた。
多分、あの子はやりきる。
私が要領よく呑み込んで先行するタイプだとしたら、あの子はじりじりと詰めていく追い込みのタイプだ。
そして、一つ、私に無い武器を見出している。
人を魅了する力だ。
自覚した妹はそれをどんどん開花していけるだろう。
私には無い、強みだ。
「私はどうなのかな……」
私は勉強を進めることで燦ちゃんに追いつき始めている。
けれども、それ以外はどうだ?
女としての価値はどうだ?
燦ちゃんは料理が出来るようになった。
燦ちゃんはエッチな事をどんどん吸収している。
「……」
胸を観る。
大きい。
けれども、凄く大きくはない。
確かに太ってきているという燦ちゃんではあるが、遺伝なのかそれを感じさせない程、性的に魅力を増している。
腰つきなんか見ていても丸みを帯びて居て姉ながら涎が出そうになってしまう。
多分、あの子が食べているのも遺伝がさせているんじゃないかとも思う。
ママもよく食べた時期があったとかで、食べることの制限自体は苦言をしていない。
「醜い姉だなぁ……」
妹に嫉妬とはね……。
何だかんだ、あまり私は燦ちゃんの事を言えない気がする。
最近、女としての側面が出てきているのは判るが、その醜い部分は否定したい。
判っている、これは私が元来持っている性質だ。
だからこそ、ビッチに憧れた部分は自認している。
「もうらしくないなぁ……」
イライラしてしまう。
良くない。
「初音、何、ぶつぶつ言ってんだ」
っと、不意を突かれる形で抱きしめられる。
「しどー君……」
「珍し……くもないか、初音がネガティブに入るのは」
「ふーんだ、悪かったわね。
ネガティブ女で」
口を尖らせてしまう。
だめだ、本当にダメだ。
しどー君に対してこんな口をしてしまうということは相当、夢が堪えてる。
寝る前にはあれだけの充足感だったのに。
「初音」
きゅっと抱きしめる力を強くしてくれる。
「……ごめん」
「よしよし、初音はイイ子だ」
「えへへ……♡」
頭を撫でてくれるとイライラが収まってくる。
やっぱりしどー君はスゴイ人だ。
電話が鳴った。
映像電話に映るは燦ちゃんだ。
「あー!
姉ぇ、抜け駆け!」
「悪い?」
ニヤニヤと笑みを浮かべてみせつけてやる。
改めて思う。負ける訳にはいかないのだ。
しどー君の一番は私なのだから、自分も成長しないと、と心に誓うのであった。
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