第147話 撮影ですが、なにか?
「委員長がねぇ……ふふふ、楽しくなってきた」
もしかしてとは思っていたが、妹ちゃんのことが好きだとは……!
双子での相思相愛、良いスクープが拾えたモノだ。
しかも、委員長、本人は意識していないようにも見えた。
妹ちゃんに性知識の教え甲斐がますます増してきたというモノである。
「げひひ」
「ダメだ、この姉ぇ、何とかしないと」
「にゃにをー!」
一度唯莉さんのブースに戻り、燦ちゃんと合流し、企業ブースに向かっている。
じゃれ合いすぎると邪魔なので最低限、燦ちゃんの柔らか頬っぺたを軽く引っ張るだけだ。
「同人誌即売会って、つまり趣味の人たちの集まりなんでしょ?」
「そうだな。
突然どうした、初音」
「なんで利益を目的とする企業が来てるの?」
そんな訳で企業ブース到着。
私の言葉にギョッとした視線を向ける周りの知らない人たち。
とはいえ、混雑に合わせてスグに視線が散っていく。
「……ちょっとまずいことを話題にした?」
「デリケートな話題ではあるな。
確かに初音のいう事も正論だし、一部の人には言われるところである」
声を潜める私にしどー君がそう説明を始めてくれる。
「極論では企業ブースなんか要らない。
混雑を招くのみだという人も居る。
確かにイベント限定グッズを作成し、それを求めて長蛇の列が出来る。
少数しか作成せずに射幸心を煽ったり、転売ヤーが
「ほむ」
「原則的に、売り手・作り手と買い手の両方があるだけでお互いに協力して作り上げるモノだ。
そこでお客様という発想はちょっと違うんじゃないかともな。
実際企業も、ここが大きなPRの場であって稼ぎ場でもある。
長蛇の列を争っている気配すら有り、スタッフにも負担がかかるとな」
「難しい話ですね……」
燦ちゃんが悩みを見せながら、
「企業によってのスタンスの違いもあると思うんです。
鳥取なんかは市であって、目的がまた違いますし」
「確かに一つの例、反対意見だけを挙げてを全体に適用するという話は詭弁の一つだ」
「それに規制という言葉で、企業を縛るのも違うと思います」
「っと、燦の言う論調もある。
これもまた正しい訳だ。
あとはイメージ戦略というのも言われるところだ。
企業が入ることでメディアの好意的に露出されやすくなるというのもあるだろう。
ほら、あの企業とか」
しどー君が指で示すのは、大河ドラマで同じみな国民チャンネルだ。
今やってるドラマの冊子を配っている様だ。
「なるほど」
色々な思惑が絡んで今があるようだ。
とはいえ、混んでいるのは事実だ。
会場の比ではなく、歩くのも大変は私たちは人の流れの少ない、場所に退避しているわけだ。
「何か観たいものとかあるか?」
っとしどー君に言われるが悩む。
パンフレットを観ても、正直、私がこれまで人生に関わってこなかった企業が多いのだ。
燦ちゃんも観ているが正直悩んでいる。
「正直な話、ここから脱出したい。
熱気は伝わったし、何となく雰囲気も理解出来たから」
「同感です」
「そうだな、僕としてもモノを集めるタイプのオタクでも無いし構わない」
っと、三人一致したので西館の屋上、外へ。
そして次に来たのは、思い思いのコスチュームの人が溢れ、それを思い思いにカメラに収めていく場所。
「これがコスプレ広場か……」
しどー君が感慨深そうに言う。
声色が嬉しそうだ。
「コスプレ好きなしどー君としてはどう?」
「初音が一番」
「えへへへ」
顏がにやけてしまう。
こういう不意打ちをしてくる所が大好きだ。
「誠一さん、私は……」
「燦のはコスプレというか制服だからな」
燦ちゃんの言葉に申し訳なさそうなしどー君。
そりゃウチの制服なんざ見慣れている訳でしてね?
夏に上着を着用とか死ぬ気かとは思うが、燦ちゃんは大丈夫なようだ。
マジメな側面で耐えているのかもしれないが。
「とはいえ、それを当たり前にして欲しいしな」
「はい♪」
とはいえ、こういうフォローが出来るようになったのが私のしどー君だ。
燦ちゃんが嬉しそうに顔にレンゲツツジのような花を咲かせて抱き着きはじめる。
「暑苦しいからほどほどにね?」
「えー」
とりあえず、邪魔になりそうので引きはがしておく。
「あ、そこのミクのコスプレの人、写真撮っていいですか?」
「えっと……」
突然、言われ、悪い気分ではないのだが悩みながら、しどー君へ視線を向ける。
観れば、カメラを持った男性が期待の眼差しで私を観ている。
「良いんじゃないか。
何事も経験だ」
っと言ってくれるので、「わかりました」と答えて、端の方に陣取り、ポーズを撮り始める。
時間にしては二、三分、ポーズを切り替えながら取り終わる。
「ありがとうございます!」
お礼を言われるので悪い気分はしない。
すると、人が集まってきてね……。
「あ、次良いですか?」「こっちも」「これは良い」
っと、人だかりを構成し始める。
悪い気分はしない。
というか、燦ちゃんとは真反対で目立つのも基本好きな私だ、高揚してくるのが判る。
「列をお願いします」
っと、しどー君が誘導し始める。
先ほどの唯莉さんの経験が生きている様だ。
「ツイッターとかされてないんですか?」
「無いですね、今後は判らないですけど」
「どこ住みですか?」
「ノーコメントでお願いします」
「胸を寄せて貰う感じで、少し胸元はだけたのとかいけません?」
「お断りします」
こんな感じで対応していく。
流石に疲れを覚えてきたので、しどー君へ列を切るようにお願いする。
最後の人まで終わらせて、一息だ。
「初音、モデルとか、仕事してたのか?
ポーズとか迷いが無いし、慣れているように見えた」
「叔父さんの撮影に延々と突き合わされてたからだと思う」
「あー……」
私達の脳裏に浮かぶのは、六道叔父さんだ。
何というか、人生、何が役に立つか判らない。
「こういうのって良いわよね。
自分の自己顕示欲が高まるというか?
承認欲求が満たされるというか?」
「ちょっとそれは彼氏としては複雑だな」
「ふーん」
私はニヤニヤとしどー君を観る。
「独占欲は高い方だし、僕だけで初音を満たせないと思うとな」
「大丈夫よ、私はしどー君さえいれば、私は満たされるから。
それに」
お腹をさすりながら、
「たっぷり満たしてくれるし」
セクハラしておく。
顔を真っ赤にしてくれるので、こういう初心な所が残っているのもしどー君の良い所だ。
最近、攻め気が強いとはいえね?
「姉ぇ、飲み物」
燦ちゃんが帰ってきて手渡してくれる。
コーラだ。
良く判っている妹だ。
「ぷはっ、生き返るわ!
燦ちゃんも一緒に映る?」
「学校編入したら、コスプレじゃなくなるからやめとく」
「そっか」
カシャ。
何処かでカメラの音がした気がした。
観れば、許可を得ていない知らない人が私達にカメラを向けており、
「盗撮……!」
「あ、さっき、唯莉さんに止められてた人!」
私達の言葉に後ろを向いて逃げようとするので、
「そのデータ、消して貰っていいですか?」
肩を捕まえてしどー君が引きとめる。
「何を消すって言うんだ!」
「今、写しましたよね、許可なく。
先ずは見せて貰っていいですよね?」
間合いをじりじりと詰めながら、燦ちゃんにしどー君が目線を送る。
合点がいったのか、燦ちゃんは頷き、席を外す。
「う、写してない!」
「なら、見せれますよね」
「つ、プライバシーの侵害だ!」
「プライバシーというのは、貴方個人の情報の秘密を守る権利。
自己の情報をコントロール出来る権利であって、この場合は該当しないんですが、なにか?」
「良く判らないこと言ってんじゃない!
私物だろ!
その中身の秘匿は自由だろ!」
「ならスタッフさん立ち合いの元、確認しましょうか?」
「っ」
「スタッフが確認、これなら問題ないですよね?」
「それはちょっと」
「スタッフに見せるのも問題があるんですか?」
「く、ぐぬ。
判った見せるから、スタッフは呼ばないでくれぇ!」
「判りました、僕は呼びません」
口だけの正義ではどうにもならないというのはクラスの中で重々承知しているしどー君。力を持つ第三者を絡める手並みも慣れたモノだ。
結果、カメラの内容を確認させることを了承させる。
「初音、カメラみてくれ」
「どれどれ、あるわね……」
私に渡されたデータを確認。
何というか、微妙な気分になる。
「スタッフ呼んできましたよ!」
「でかした」
「な!」
丁度いいタイミングで燦ちゃんがスタッフを二人連れてきて、戻ってきた。
退路を塞がれた状態になった男は暴れだしそうになるが、もう既に時は遅い。
取り押さえられた。
南無南無。
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