第136話 水陸両用ですが、なにか?

「荷物は置かせてもらったし……」

「遊びに行くわよ!」


 というわけで朝御飯とランチを兼ねて食べたお弁当がお腹の中に残っている、十三時。

 まだ、ランドマークタワー内ホテルの受付時間には早いので、受付に荷物を置かせてもらった。

 腹ごなしも兼ねて何かをしようという話に当然なる。


「お腹が空いたので三時のおやつとかどうですか?」

「「却下」」


 湘南パンケーキを指さす妹に二人で却下する。

 いい加減にしろ、このデブ妹。

 例え三時になっても本気では食べれないだろうからの腹ごなしだ。


「僕にいい考えがある」

「全幅の信頼を置くしどー君なのに、その台詞だと何処か心配になりそうな言葉の力を持つわね。

 言ってみ?」

「船に乗ろう」

「いつも通りのぶっ飛んだ発想有難うだわ……」


 何というかトンデモマジメガネであった。

 なお、今日は長距離移動をしているのでメガネをしている。


「とはいえ、舞鶴でも遊覧船ってあるわよね。

 そもそも京都でもライン下りあるし……」


 とはいえ、考え直せば観光地あるあるだ。

 常識的な範囲だ。

 私だって乗ったことぐらいはある。


「んじゃ、海の上も行く車とどっちがいい?」

「……ん?」


 耳がおかしくなったかと思った。


「そんなのあるんですか?」

「あぁ、水陸両用車だな。

 琵琶湖にもあるんだが、僕は乗ったことが無い」

「へー、そうなんですか!

 行ってみたいです!」


 代わりに質問してくれた燦ちゃんが行く気満々と答える。

 ならば、私も拒否する理由はないし、ワクワクを抑えられない私もいる。

 早速三人で足を向けることにする。

 途中、係留されている日本丸を尻目に、チケット売り場に到着する。

 結構な人たちが並んでいたが、しどー君はすんなりとチケットを確保してくる。


「最初から乗るつもりだったのね?

 予約してたでしょ?」

「悪いか?」

「んにゃ、全然」


 ニコニコと少年のように笑うしどー君が可愛い。

 しばらく待つと、赤い色をベースにクジラの描かれたバスが後ろから乗り込んでくる。

 それは異様な形状をしていた。

 普通、車と言うのは、前と後ろにタイヤがあるモノだと思うが、後ろのタイヤが中央よりなのだ。

 また、前の顎が突き出ており、形状としては船に近い。


「水中での推進力を得るための装置が後ろ側についてるんだな……。

 あとは浮力を得るために箱型ではない形状をしているんだな」


 しどー君に釣られ後ろから見れば、確かにスクリューが付いている。

 あと、ご丁寧にクジラの尻尾も描かれている。


「あ、搭乗が始まりましたよ!」

「三人席は無かったからな、僕が離れよう」

「んー、こういう時、割り切れない数字は不便ね。

 もう一人恋人増やす?

 マツリとか」

「お前は何を言ってるんだ」


 冗談を交わしながら、乗り込んでいく。

 窓は無い。

 天井も触ってみるとオープンカーとかに使われるカバーと同じような感じだ。

 一番前の席を三つで以下の席順だ。


 〇、しどー君|通路|私、燦ちゃん。


 〇には知らない子供が座って、しどー君が挨拶するとキョトンとした反応を返す。


「不審者に思われてやんの」

「ぐぬ……」


 とりあえず、弄って置く。

 そんなこんなで、ツアーが開始される。

 皆がシートベルトを着けて、バスが動き始める。


「信号との距離が近いよ!」


 言われ見れば、確かに。

 隣を通る車も小さく見える。

 顔の位置が高いのはバスサイズだからだろう。

 ビル群を走っていく。

 しばらくは市内観光だが、歴史に興味の無い私はガイドさんの話を馬耳東風しておく。

 とはいえ、非日常感はあるので年甲斐もなく、ワクワクしながら周りを眺めてはいるのだが。

 ほら、知らない土地だしね?

 京都と比べると狭い路地が少ない気がする。

 さておき、


「ぉ、海に入るぞ」


 ようやくメインディッシュだ。

 ワクワクが止まらないしどー君が声をあげる。

 そしてザパーン! という音と共に、着水する。

 水自体は大きなしぶきをあげないし、衝動も余りなく、肩透かしだ。

 運転手さんが慣れているのだろう。

 ガイドさん(バスガイド? シップガイド?)に促されるまま、運転手さんに拍手を行う。

 曰く、バスと船の操作を同時に行うので難しいらしい。


「シートベルトを外してください」


 言われ、「え」っと声を漏らしてしまう。


「事故があったら逃げれませんので」


 成程、っと感想が浮かぶ。

 先ずは救命道具の説明だ。

 そりゃそうだ、水の上で万が一があれば慣れない人はキッチリ死ねてしまう。

 陸が近いとはいえ油断してはいけない。

 キチンと話を私達は聞き、装着していく。

 そして水上を動き出すバス? 船?

 陸上に比べ、遅い感じだが、周りの見え方が新鮮だ。


「観覧車、真下から観ると大きいわね」


 燦ちゃんがスマホで写真を撮りまくっているのを尻目に外を眺めていく。

 左側に曲線型の建物を観ながら、橋の下を抜けると、海に出る。


「涼しい……」


 夏の暑さが和らぐ感じがする。

 何というか優雅である。

 しばらく行くと、大きな船が見える。


「あれ、飛鳥Ⅱかな」


 燦ちゃんが声をあげると、そうだと、ガイドさんに言われる。

 声を掛けられた燦ちゃんが顔を赤らめる。

 豪華客船でかなりデカい。

 とはいえ、私はこの船を知っている。


「別の場所で見ると感慨深いものがあるな」

「判るわ。

 自然が豊かすぎる舞鶴と比べて、周りがビルだしね」


 そう、この飛鳥Ⅱ、舞鶴港にも泊まるのだ。感慨深いモノを感じる。

 しどー君と放課後デートをしているときに東舞鶴で見たことがあるのだ。

 一応、舞鶴は田舎な訳だが、港としては良好な場所で大型船が留まれるのだ。

 昔海軍基地があり、今も海上自衛隊、保安隊の基地があるぐらいだ。


「確か、横浜から博多をまわって日本海、舞鶴経由で北海道で太平洋側だな。

 ぐるりと回ると、十一日だったか」

「老後とかの旅には良さそうね」

「まだ、私達高校生なのに、ババくさいよ、姉ぇ?」

「なにをー!」


 一言多い燦ちゃんをウリウリと羽交い絞めにして虐めておくが、暴れないようにと注意されてしまう。

 反省。

 さておき、その反対側にも見たことのある建物。


「赤レンガ倉庫って、舞鶴にもあるわよね。

 観光地化もしてるし」

「耐震面で不安があるから作られなくなったから、珍しいと言うのもあるな。

 あとは何より、目立つ」


 自然な赤い色は他の建物と違う感じを与えてくる。

 何というか古めかしいというよりはノスタルジックな不思議な感じだ。


「確かに」

「それに舞鶴は軍港で、横浜は貿易港だし、そこらへんを加味して観ると面白い」

「そこらへんは任せるわ……」


 私にはついていけない話である。

 ムリに彼氏の話についていく必要も無いし、その方がお互いに気楽である。

 世の中のカップルは相手のためと、我慢をしすぎではないだろうか、とは私の最近の考えである。

 とはいえ、変わっていく自身と彼のことをみているのも楽しいんだけどね?

 何事も極端すぎるのは良くない。

 なので、言われて見れば、何となく違う感じは解る。

 何となくだが。

 そこから内海に入っていく。


「をーい」


 桜木町駅からの空中ゴンドラに乗っている人から手を振られるので、手を振り返している燦ちゃんだ。

 何というか、満喫全開している妹様である。

 そんなこんなで一周が終わったのであった。

 素直に面白かった。

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