第135話 横浜線ですが、なにか?
「ごめん、誠一さん、姉ぇ」
燦ちゃんが新幹線から降りてきたのを迎えて、私たちは一安心だ。
私もしどー君も抱きついてしまう。
ホームで人前だが気にするもんか。
「なんというか、無事で良かった」
「で、何があったの?
女の子とか、そんな話だったけど」
私もしどー君も口々に言いあう。
なお、あの後、私たちは新横浜駅のホームでずっと待っていたのだ。
これぐらいは許される。
「人を助けたの。
その人は東京までに行くらしいけど」
本人、良い事をしたのだと笑顔だったのでちょっとイラっと来た。
だから脅すような口調で、
「なら良いけど。
全く、痴漢か何かに拉致られたのかと……」
「さすがに……ないよ?」
「連れ込まれそうだった事案があるから言うのよ。
心配させないでよ」
人の心、妹知らずである。
とはいえ、流石に私の表情を観て妹は気づいて、
「うん、ごめん……」
「ばか」
コツンと頭を軽く叩いておく。
これぐらいは許される。
「初音」
「ん、ありがと」
しどー君に手渡されたハンカチで目じりを拭い、笑う。
「さて、行こっか。
何処だっけ、向かうの?」
「横浜線だな。
桜木町駅まで向かってそこからスグだ。
こんなことも有ろうかと、スケジュールは全体的に余裕を持たせている」
「抜かりなしね、しどー君。
昔だったら秒単位で決めてそうだけど。
あ、燦ちゃんは荷物持ちね」
っと、罰として私の分は渡してしまう。
当然だ。
とはいえ、しどー君のはそのままだ。
さて、新横浜駅の中を歩くが京都駅に比べて狭い感じがある。
人の数も少ないし、接続している線路も少ないのがあるのだろう。
市営の地下鉄と横浜線、あと私鉄が繋がっている……つまり、新幹線を入れて四本だけだ。
「何というか、路線の数だけ見れば地方のハブ駅みたいね。
新幹線フォームから見たビル群は立派だけど、横浜線のホームからは何というか田舎よね……」
なんというか、肩透かしだ。
マンションすら駅構内から見れば隣接している。
「新とつくだけあって、郊外に作られてるからな。
市内にはムリだったそうだし」
「ほーん」
新横浜駅のそれが悪いという訳では無いのだが……京都駅の方が何というか人の往来が多く、生きているという感覚があり、私個人の好みに合うのと感じる。
そんなことを言っていれば緑色の線がお腹にされた電車が入ってくる。
横浜線の桜木町行きだ。
私達と同じようにキャスター付きカバンを持っていたりと旅してますよと示している人たちが多く乗り込んでいく。
外国人の姿も多い。
「今から行く、桜木町が昔は横浜駅だったんだ。
しかも一番最初に出来た日本の鉄道のな」
「ほむ?
そういえば何かで聞いた覚えがあるけど、品川、横浜が最初だったんだっけ?」
「惜しい新橋、横浜だな」
しどー君が知識をひけらかしたくなってくれるので、興味深いと示す。
旅のガイド役として、しどー君は役に立つ。
「東海道本線を作る際に、つまり新幹線が出来る前の主要路線の位置とその旧横浜駅とでは都合が悪くてな。
二度移っているんだ。
だからその名残で桜木町駅までが横浜線。
それ以降を根岸駅からとって根岸線と言うらしい」
「なるほど」
と言っていると、多くの線路が横に並んでいる場所に入っていく。
線路の立体交差を抜けて横浜線はその一番左に入っていく。
東神奈川を抜ければさらにもう一線路が左に追加される。
赤い電車が並走し、横浜駅に入る。
「あれ、乗ってこない人もいるのね?」
「さっき言ってた、桜木町駅以降に行くのを待っているんじゃないかな?
関内とか中華街とかはそっちだし」
「中華街……お腹減った……」
燦ちゃんが食べ物に反応しておる。
この子、どれだけ食べるのだろうか……さっき、弁当を二つと半分食べていたはずなのだが……自分の妹ながら恐ろしい……。
「色気より食い気という訳でも無い癖に」
一つ嫌味を言っておくが、妹はどこ吹く風で、
「どっちもだから、健康的だと思うよ、姉ぇ」
「いや、どっちも過ぎたるは毒よ……」
いつもの燦ちゃんである。
何というか平和ではあるが、高校に入ってスポーツを止めたんだから少しは自重が必要だ。
「ついたな」
そんな話をしている最中に高層ビルの林を抜けると桜木町駅だ。
ホームを降りて、駅から出れば、一番最初に目につくのは観覧車だ。
真ん中にデジタル時計が目立つ。
そして、次に目が行くのはそれに負けじと存在感を誇示する白い巨塔。
横浜ランドマークタワーだ。
「すっごく大きいです……」
零れる燦ちゃんの言葉に同意だ。
京都に居ると大きな建物というモノが無い。
建物に高度制限があるため、京都タワー以上にはならないのだ。
「約二九六メートル、大阪あべのハルカスが出来るまでは超高層ビルとしては一番だっあ。
建造物としても未だに五番目に大きい」
「あれ、壁に何か張り付いてない?
横に動いてるけど……」
上層部、かなり高い所に違和感を覚え、指で示す。
角には何かエル字型の箱が張り付いている。
そこから少し離れた所、ビルの真ん中辺りのガラス窓に箱状の何かが動いている。
「あれは窓ふき清掃用のゴンドラだな、調べてた時にも観たが、実物は更に面白いな」
「……上からロープ張られてないけど、どうなってるの?」
「それに人が入ってるよ、姉ぇ?」
「あ、ホントだ」
私と燦ちゃんの視力は1.5だ。
ママ譲りである。
「壁にレールがあって、それで壁に張り付いて動いているらしい。
ちなみに人が入っているタイプと自動タイプがあるそうだが、僕には中まで見えないな」
しどー君はメガネをしても1程度である。
「……話を聞いてるだけで怖いわね……」
「私はムリ……」
高所恐怖症という訳では無いが、妹と震えあがってしまう。
好んで命綱も無く、高所を楽しめる性分ではないのだ。
「とはいえ、ああいう機構があるから、安全に清掃出来るんだがな。
逆に従来のゴンドラ型、ほら手前のビルでやっているように、吊るしている形だと上層部ではここみたいな湾岸部だと風に煽られるらしい。
海外の高層ビルだとあわやゴンドラが事故にとかな」
「なるほど……。
とはいえ、窓ふきは人力なのね。
今ならハイテクで何とかなりそうだけど」
「設計が二十年以上前だしな。
ああいった技術や人のお陰で、ああいったビルが保たれてるわけだな」
「ん?
そう言えば、今日、泊まる所、聞いてなかったんだけど?
なんで、そんなに詳しく調べてるの?
まさか……」
っと、私はしどー君を観る。
彼には意地悪そうな笑みが浮かんでおり、
「あぁ、言ってなかったな。
今、見上げてるランドマークタワーが今日の宿だ」
そう
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