第133話 ヤバい妹達ですが、なにか?

「燦ちゃんが行方不明なう」


 飲み物が欲しいと販売カートを探しに行ったきり戻ってこない妹である。

 新幹線の中で迷子になるやつがいるとは思わなかった。

 痴漢の件もあるし、個室に連れ込まれたかと一瞬浮かぶが、今の新幹線に個室はないらしい。

 聞き耳を立てたがトイレでも無さそうだ。


「……んー?」


 端から端まで行くが何処にも居ない。

 こういう時に(棒)年子姉妹の謎パワーとか発動できればと思うが、世の中そんなに甘くない。

 何だか嫌な予感がする。


『~♪』


 スマホが鳴るので、デッキへと出て受ける。


「もしもし! 燦ちゃん何処!

 は?

 ちょっと待て、静岡って……」


 観れば、今、三島を通過した所だ。

 何をしているんだろうか、あの妹は……。

 とりあえず、しどー君の居る席まで戻り報告する。


「……何やってるんだ、燦は……」

「特に事故とかでは無いみたいだけどね?

 現状が事故みたいなモノだけど……」


 燦ちゃん曰く、


「子供を助けてあげてねぇ……らしいと言えば、らしいわね。

 何だかんだ燦は子供好きだし、何だかんだ、子供に好かれるし」

「……ノノちゃん辺りは子供カウントしていいかは謎だが」

「確かに……」


 隙だらけという所で、大人に観られていないというのもあるかもしれない。

 女の面だけは私より上だが。

 正直な話、マツリが三重人格と発覚して思うことだが、妹も二重人格に近いかもしれない。

 環境や周りの人で人格や行動を合わせるモノだと、だからこそ人間だという話もなんとなく納得できる。

 さておき、


「とりあえず、次の電車に乗ったみたいだけど」

「……今度は乗り過ごさなきゃいいけどな」

「ハハハ、流石に無いわよ。

 ナイナイ……あり得るわね」


 改めてスマホを操作し、新横浜で降りるんだぞと、忠告しておく。

 既読は着いたので大丈夫だろう。

 反応も返ってくる。


「あー、やっぱり初音さんだ」


 突然、声を掛けられたので見上げる。

 そこには白い姿が印象的で、まるで雪女みたいな人間離れした少女。

 そうアルビノであるクラスの委員長妹。


「あれ、平沼さん?

 お久しぶり。

 委員長も同じ電車か」

「はい。

 マジメガネさんは久しぶりだよ」


 ニコニコと笑う笑顔は白い無垢、そのもの。

 穢れがないようにも思えるが、極度のブラコンであり、兄に対して欲情してしまうと相談を受けている相手でもある。

 けしかけている私も居るが、私の中で一番ヤバイ妹属性だ。


「さっき車内を小走りしてのが見えたので」

「あー、妹が静岡で降りちゃってね。

 わざわざありがとねー」

「あはは……うちのお母さんもだよ……」


 おっちょこちょいはウチの妹だけではなさそうだ。

 何というかお互いにため息してしまう。


「……あれ、お母さんは……」


 そういえば死んでいるのではと、思いついたままに言いそうになり、口をつぐむが遅いと脳裏に浮かぶ。

 この白い少女の観察力は、鏡写しを思わせるほど常軌を逸脱している。

 私が作ったお弁当の中身の良いところは、翌日には真似されていたことからも判っている。


「死んでるよ?」


 しかし、当然と言わんばかりにあっけらかんと言い放った。

 しかも、笑顔で。

 私は当然、あっけにとられてしまう。


「育て親がお母さんになってくれたんです。

 正式に」

「なるほど」


 複雑な家庭なのは聞いている。

 だから、小学生の時に虐められたり、アルビノを嫌ったりしたらしい。

 それを直したのが生き別れていた名字違いの双子の兄、委員長という話だ。


「あと、ソラさんやリクちゃんも後から関東に来るよ?」

「……もしかして妹ちゃんもコミケ?」

「も、ですか。

 はい」


 私の言葉を確認して、コクリと白い頭が上下に動く。


「私、初めてなのよねー。

 教えて?」

「私も初めてだよ……のぞむは何回かあるそうだけど」


 望、委員長の下の名前だ。


「……なにかしどー君と企んでるのは聞いたけど、何回もは意外ね。

 何というか、委員長何でもするし、できるわね」

「望は何でも出来るので」


 兄が誉められて嬉しそうな妹ちゃんである。


「妹ちゃんも何でも出来るでしょ?」

「スポーツを除けば何でも真似れますが、まだまだです」


 変な言い回しだ。

 とはいえ、彼女からは嫌味を感じないし、悪い印象もない。


「あ、小田原過ぎたから、戻らないと……」

「ん?

 妹ちゃんも新横?」

「リクちゃんの別荘が横浜にあるので」

「別荘……」


 金持ち単語である。

 叔父さんに頼めば貸してくれるだろうが、流石にだ。


「じゃあ、またあっちで会えたりするかもだから、時間あったら連絡頂戴な」

「あ、僕からは委員長に当日、よろしくと伝えていてくれ」

「判ったんだよ」


 っと、ペコリと頭を下げて去っていく。

 何というか可愛らしく、白兎を思い起こさせる。


「うーん、やっぱりあの子、可愛いわよね」

「……初音?

 最近、燦ともやってるも好きなのは知ってるが、流石に止めるぞ?

 委員長に殺されかねん」

「マジメガネー。

 とはいえ、そんな気は無いわよ。

 単純に、可愛らしいというのはああいう子のことをいうんだろうな、とね?

 ……身長百五十足らずなのに私より巨乳なのにロリフェイス。

 うん」


 ニヤニヤと意地悪い私が出てきて続ける。


「しどー君、巨乳好きだけど、あの子のはどうなのよ。

 燦ちゃんより胸、大きいわよ?」


 確か、Jカップだ。

 サッカーのリーグの話では無く、サッカーボール並みの胸の話だ。

 

「無いな。

 僕はある程度身長も欲しい。

 それこそ、初音がベストだ」

「……く、ビッチ喜ばせてどうすんのよ……」


 全くこの彼氏は私を喜ばせる天才である。


「で、委員長と何企んでるの?」

「コミケ話はしてるって言ったろ?

 それのお話だ。

 ちょっと初音にも協力して貰いたいんだがな?」

「?」


 疑問を顔に浮かべてしどー君を観る。


「売り子頼まれてるんだ。

 色々な貸しの代わりにな」

「売り子……?」


 聞きなれない単語だ。


「委員長の知り合いがサークル参加しててな、それの店番と言う話だ。

 列整理も頼まれるらしいが……」

「なーる」


 つまりアルバイトみたいなモノだ。


「もし、嫌だったら僕だけでもいいが」

「良いわよ、別に」

「ありがとう、初音」


 感謝を言われるので良い気分になった所に、新横浜駅まで後少しという車内アナウンスが鳴りはじめた。


「僕らも準備しようか」


 そう言い、しどー君は主が居なくなったキャスター付きカバンを引く用意をするのであった。

 何というか波乱から始まった関東入りであった。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る