第132話 京都駅発ですが、なにか?
「京都駅は何度も何度も来るけど、新幹線関係のエリアに入ることはほぼ無いわね……」
見渡せば、いくつもの階段やエスカレーターがある区画でお店に並んでいるモノもお土産品が多く、また長距離移動用にと本屋などがあり、何というか昭和なレトロ風味が残っている。
私たちにとって入る必要も無ければ、特急券で隔離されているエリアだ。
私は何度か、同伴の送りでここまでは来ることはあったが、まぁ、そんなもんだ。
援助交際とはいえ、一緒に旅行とかは行かなかった私が居る。
マツリあたりは行ってたらしいが。
さておき、
「そんなにお弁当買ってどうするの、燦ちゃん」
「姉ぇや誠一さんの分も頼まれてたし……だって、珍しいんだもん。
食べるよ」
観れば、いつの間にか燦ちゃんの手元にはいくつものお弁当の袋が。
笹の葉寿司やら、京風弁当やら様々で私たち二人分を抜いても明らかに多い。
「だから太るのよ」
「ふぐっ」
言ってあげておく。
姉としての気遣いだ。
「そういえば最近、また胸がきつくなってる……」
「ちょっと待て、燦ちゃん、あんた今、何カップだっけ……?」
確かに言われてみれば、私よりも一回り分ほどに大きくなっている気がするし、来ているワイシャツの上からも自己主張が激しい。
チラチラと男の視線を釘付けにしている。
しどー君が巨乳好きで良かった。
ジーパンの腰つきラインもむっちりしていて、何というか揉みしだきたくなる欲望が涌き出そうだ。
夜、虐めよう。そうしよう。
「姉ぇ、目付きがいやらしいよ?」
「ゲヒヒ、いいじゃないか、姉妹なんだし。
ジーパンスタイルで腰のラインを強調するのは誘ってるんでしょ?
ええではないかええではないか」
「よくないだろ、初音」
突っ込んでくるのは、マジメガネなしどー君だ。チノパン、シャツに赤系のチェックな服装で、荷物も黒皮の手持ち鞄一つと少ない。
曰く、必要があればあっちで買えばいい。
確かにと同意した私も荷物が少なく、燦ちゃんの引いているキャスターつき鞄に収まっている。
「それにだ、その理論だと初音も誘ってることになるぞ?
燦と同じ格好なんだから」
「うん、誘ってるわよ?
あなたをね?」
マジメガネなしどー君の胸元にポフッと入り、上目使い。
とりあえず、いつでもウェルカムな私である。
燦ちゃんと比べてスラリとしてはいるが、巨乳ではあるし、バランスよい私の肉つきに恥じるところ無しである。
私も目線が来ているのも事実だし、なんだあの眼鏡と嫉妬な感情を沸かせているのも楽しんでいる。
「覚えてろよ……」
「うん♪」
それを受けながらも、私を隠すように優しく抱き締めてくれるしどー君である。
いい彼氏さんだ。
往来の場であるが構うものか。
「とはいえ、旅路に支障が出ない程度かなー」
「だな」
しどー君に私の香りをすり付け終えて離れる。
私もしどー君も本気出すと一日が潰れかねない。燦ちゃんも燦ちゃんで貪欲だし……。
「コミケなフルマラソン並みにきついらしいし……」
「なにそれ……」
「ひえ……」
元陸上部な私達としては具体的な疲労感を思い出しそうになる。種目としてはマラソンだったので尚更だ。
「さて、そろそろ行こうか。
燦、キャスター付きを持つぞ?
流石に両手が塞がったら歩きにくいだろう」
「あ、ありがとうございます」
「んじゃ、私は弁当半分、持つわ」
「ありがと……」
妹が一気に身軽になる。
何だかんだ、私たち二人は燦ちゃんに甘い気がする。
体は大人になったとはいえ、眼を離せない危なさがある。
さて、燦ちゃんの先導でエレベーターに乗り、開くと閉鎖空間から一気に開放され、明るくなる。
「まぶし……」
外に目を向ければ、下階に見える在来線。
とはいえ、高校生活で使う舞鶴行きは見えない。
京都駅の中央通路の向こう側で、端から端で完全に反対側である。
「ちなみに京都駅には一番線が無いんだ」
「そういえば、言われてみれば見たこと無いわね……。
ここかと思ったけど、十一から十四だし……」
「無いわけではないのだが、貨物や回送列車の通過専用になっているため、ホームとしては無くなったのだ。
代わりにゼロ番線ホームがあるんだけどな。
「あー……。
あそこゼロ番だったんだ……」
ちなみに妹が原因で電車を乗り間違えて、酷い目にあったことがある。
電車によって琵琶湖を時計回り、反時計回りするのだ。
「京都人でもあまり意識しない豆知識みたいなモノだな。
ちなみにいつも使う
乗り場の数字だけなら日本一だ。
現存しない番号も多いから、実在で言えば東京だが」
「ほーん。
そういう知識話してるところ、オタクっぽいわね。
メガネだし」
しどー君が自慢そうに話すので、そう言っておく。
まぁ、元々しどー君の所属するグループはオタクグループなのでらしいと言えばらしい。
「悪いか?」
意地悪い笑みを浮かべながら聞かれるので、
「んや、しどー君らしくて良いと思う」
だからと言って、私の好きなしどー君が変わる訳でも無い。
「何というか主人公というより、メガネの物知りキャラとかそっちですし。
データとか叩いてて、堅物で融通が聞きそうにない感じとか」
「燦ちゃん、かなりストレートに言うわね……」
「事実だし、初見の感想は隠そうにも誠一さんは知ってるし……。
中身は熱血主人公で、そのギャップがまた格好いいんですけどね」
えへへ、と燦ちゃんが思い出すように笑顔を浮かべる。
恋する少女のように、とても嬉しそうだ。
「それは私も思うわね。
しどー君、どんなことでも何とかしてくれるし。
思い切りや行動力が高くて頼れるし、安心だし……」
「ちょっと照れるな」
言われ、はにかむように笑う彼を可愛く感じてしまう。
そういう所が惚れ直す理由の一つだ。
実際、私の件、燦ちゃんの件、んでマツリの件ーーこれらはしどー君だからこそ何とかなった側面が強い。
結局、しどー君が動かなければどうなっていたのだろう。
「しどー君に比べれば、他の人ーー日野兄弟やノノちゃん達が私たち姉妹やマツリに与えた影響は少ないのよね……」
「運命に対して干渉する力が強いと言うとオカルトっぽいけど」
「確かに」
妹の言葉に同意しながら思考を回す。
前から述べている通り、私は間違いなくここに居ないーー退学して、何をするでもなく退廃的に性を貪っていただろう。処女を好きな人に捧げられないし、私の核が変質していただろう。
燦ちゃんと仲直り以上もしていないーー痴漢に犯されて性がコントロール出来なくなったり、あの虐め事件で壊れていたかもしれない。
そして今回だ。
マリを失っていた可能性があるーーマツリも出てこないし、茉莉としても壊れてしまったことを想像するのは容易だ。
これらはしどー君が居ないだけで起こり得た怖い話だ。
「初音?
またネガティブか?」
「そうよ、今が幸せだから」
顔に出ていたのだろう、心配させてしまう。
いかんいかん。
だから、頭を切り替えようと、
「しどー君」
「なんだ?」
「ありがと」
言ってやった。
鳩が豆鉄砲なマジメガネだ。
「なんだ藪から棒に」
「ちゃんと伝えたかったの。
そういう気分だったわけ」
新幹線のアナウンスが鳴り、青と白の流線形の機体が入ってくる。
しどー君は笑顔になり、
「僕からもありがとうだ。
初音、一緒に居てくれて」
新幹線の騒音で聞こえない筈のその言葉は、何故だが私には良く解った。
恋するパワーかもしれない。
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