関東へ行こう。

第131話 旅行前ですが、なにか?

「んじゃ、かんとーお土産よろしくー。

 薄い本でもいいわよー」


 っと、病室を後にする私たちの背中にマツリはそう声を掛けてくれた。

 話題の中に同人誌即売会や関東にいく話が出たからだ。

 マツリじたいも行きたいと意思を表示したが、流石に私や家族、医師等の全会一致で却下された。

 当たり前だ。

 夏休み終わるまでは自分と対話してろ。


「とはいえ、お土産ねぇ……。

 しどー君は関東行ったことは?」

「無い」

「私も無い訳よねー」


 っと、二人で帰り道だ。

 晩御飯の買い出しにスーパーによりながら、二人で並んでいる。

 燦ちゃんは、今日がプールの当番が最後なので引き継いでいるとのことだ。


「マリって何が好きだった?」

「基本的に何でも。

 いつもあのイタリアンファミレス居るから好きなんだろうけど。

 茉莉は?」


 しどー君が悩む。

 無理もない、お互いに不干渉が長かったわけでしてね?


「小さい頃はハンバーグが好きだった」

「間違いなくそれは三つの人格ともね……」


 某チェーンはドリアに劣らず、ハンバーグも人気だ。

 さておき、私の援助交際の師匠筋の人格がマリ、しどー君の双子の妹の現在人格が茉莉で、トラウマや放置主義前の元人格であるマツリ、それぞれ趣味や嗜好が若干異なるのは会話から理解出来ている。

 マリは派手さを好み、茉莉は堅実さを好み、マツリは何処となく子供っぽい感じのが好きなのだ。

 よくもまあ、一人にそれだけ詰め込んでいる。


「お土産一つ買うにも、何を買うかで同時に喜び、拗ね、怒る可能性があるのは……何というかややこしい義妹様であり、友達だわ」


 私がため息混じりに言うと、しどー君は真面目な顔をして、


「買ってきたもので、最終的に統合された性格に影響が出る可能性があるな……なんというか、犬と同じ扱いで考えると、好きなモノを与えられるからやるし、覚えるわけで」

「つまり、お土産の方向でいい思いをした人格面が強く主張してきて統合される?」

「だな」


 お土産一つで大層な話だ。

 妹を育てるゲームとかそんなのじゃあるまいし。

 とはいえ、


「有り得なくもないのが……はあ……」

「僕は正直、大きく影響すると考えてる」


 マジメガネ顔で言われるので、何ともである。

 何処か確信めいたモノを感じている時、大抵はそれが成っているのでこれもそうなる可能性が高い。

 私のしどー君への信頼度はそれぐらい高い。


「んじゃ、マリの好きなモノをあげて……それはそれで複雑ね?

 友達とはいえ、あの性格は難があると思うし……」

「茉莉も同文だ。

 何というか極端に成りすぎるから、昔の僕を思い出すようだ」

「そう言った面ではまさしく兄妹よね……」


 何ともである。


「まぁ、逆に言えば、よほどの変なモノではない限りは三人の誰かが喜ぶだろうし、気楽に考えるのもありかも。

 あんまり、人格云々で選んでも、それはお土産の目的からは外れてない?」

「確かに。

 そもそもお土産とは、近隣への話題づくりだったりの側面もあるからな」


 そんな話をしながら、私たちは燦ちゃんの待つタバコ屋へデートしていく。

 京都市内の夏は相変わらず熱い。

 というか、年々気温が上昇してる気がしないでもない。

 西院で降りて、西大路を北に見れば遥か彼方には陽炎が立ち込めて、ゆらゆらと車の姿を歪めている。

 暑い……。

 西大路より小さい佐井通へと入るが日中は遮るものが少ない。

 何というか、市内で年数人倒れるのも無理はない気がする。

 そして小学校を左手に見ながら行くと最近よく来るタバコ屋だ。


「やっほー、ノノちゃん」

「はつあねぇさん、いらっしゃい」


 タバコ屋のカウンターには小さい姿が座っている。


「たばこかうの?」

「私まだ高一だからね?」

「じょうだんです、はい、ビンコーラにほん」


 っと、手渡してくれるので、二本分のお金を渡す。

 旨い事商売されている気もするが、暑さの中で飲むこれは最高なのでヨシ。


「はつねーさんのぶんもはらって?

 さいふわすれてたから……」

「あの子は……」


 言われるのでもう一本分を渡す。

 朝、慌ててたのでそのせいだろう。

 他人のことになるとしっかりと覚えてるのに、自分のことには無頓着というか、隙が多くなる燦ちゃんである。


「姉ぇ、ごめん」


 とはいえ、ベンチに座った妹が開口一番、ペコリと頭を下げてくれるのでヨシ。

 その隣に私としどー君は座りながら一息である。


「で昨日、しどー君と遅くまで何してたのよ……」


 エロい事をしていないのは確かだ。

 リビングで何やら二人でやっていた。

 私はマツリの件で神経を使いすぎたのか、疲労を覚えて寝てしまったが。

 流石の私でも疲れたのだ。


「少し勉強を詰めてたよ。

 色々あって遅れてたし、これから数日は旅行でバタバタしそうだもん」

「まぁ、確かに。

 とはいえ、そんなに慌てるようなレベルでも無いでしょ?」


 いつか抜くとは言え、まだ燦ちゃんの方が学力が高いのは確かだ。


「私はあんまり姉ぇみたいに要領がよくないから。

 毎日の積み重ねで勝負しないと……」

「まぁ、そこは得意不得意あるわね」


 なお、私は全体像の大まかな把握から入るタイプである為、細かい所を後で埋めていくタイプなので、初動での成績の伸びが速いらしい。

 対して燦ちゃんは足元から安全に積み重ねていくタイプであり、少しずつ着実に伸びていくタイプである。


「後は、コスプレのルール確認してた」

「あー……着てみたいの?」


 コクリと縦に頷かれる。

 有明で行われる某イベントのことである。


「二人で何か着てみようよ、姉ぇ」

「良いけど」


 大抵、しり込みをして私が提案する側だが珍しく積極的な妹様である。

 オタク気が若干あるので、非日常に憧れがあるのかもしれない。

 十分、私達が非日常的ではあるのだけど、と脳内で突っ込みを入れながら続ける。


「私達、ある程度、タッパがあるから似合わないかもよ?」

「それはそれで楽しめればいいんじゃないかな?」

「まぁ、確かに。

 衣装は叔父さんに頼めば、ホテルだろうと何処へだろうと送ってくれそうだし……」


 便利な六道叔父さんである。

 とはいえ、彼の趣味を満足させつつの部分があるのでWINWINだろう。


「燦ちゃんは興味あったの?」

「やっぱりテレビであんだけニュースで観たりすると、少しは……。

 物見遊山で行くようなところではない気もするけど」

「三日で五十五万人以上だもんね……」


 よくそんな人が一か所に集まって問題が起きないモノである。

 感心してしまう。


「衣装は僕に任せてくれないか?

 僕にいいアイディアがある」

「しどー君に?」


 ニコニコと笑顔を向けてくるので何かを企んでいるようにも見える。

 少しだけ嫌な予感がしたが、悪い事にはならないだろう。


「このキャラをやってみないか?

 燦はこっちで」

「うーん、しどー君、殺されたい?」


 スマホで見せられたのは良く知っているキャラクター。

 確かにそのキャラクターだったら、私はよく知っている。

 髪が緑色だったり、桜色だったり、雪色だったり、バージョンが色々あるものの大抵はツインテールだ。

 そもそもに知らなくてもそのキャラクターには性格設定というモノが自由なので、私みたいなニワカでも怒られることはないだろう。

 何故かネギを振り回すこともあり、たまにテレビにも出てくる。

 つまり、私の名前、三駆みつかを別読みするあのキャラクターである。

 ちなみに燦ちゃんに見せられたのは、ピンクの髪の毛の巨乳。


「ダメか……」


 残念そうに項垂れるしどー君。

 うぬぬ、そんな捨てられた子犬みたいな反応しないで欲しい。

 揺れそうになってしまう。


「ダメじゃないけど、色々あってね。

 いやまぁ、やってみるのも悪くないか……。

 私もいつまでも引きずるのはビッチらしくないし。

 とはいえ、一旦、検討ね。

 突っ走らないでよ?」

「判った、ありがとう。

 六道さんに言って準備だけはしておく」


 しどー君がニコニコとしてくれるので、悪い気分はしない。

 とはいえ、大したことではないのだが自分の中で整理が必要な案件だ。

 

「はつあねぇさん達、りょこう?」

「うん、関東にね」


 ノノちゃんがカウンターが暇だったのか、私たちの元へ。


「おみやげー」

「いいわよ」

「えへー」


 催促されるが悪い気分はしない。

 何だかんだ、マツリの件では深くかかわっているし、無下にできる仲でも無いのだ。

 何より、この幼女がしてくれる笑顔は腹黒いのを知りつつも、嬉しくなってしまう可愛らしさがある。


「何がいい?」

「えっとー……おとなのおもちゃ? うすい本?」

「ちょっと待て、マツリ……いや、マリだな?」


 しどー君の言葉にコクリと頷く小学二年生。

 はぁ、っとしどー君が一息を漏らし、スマホを操作し始める。


「ノノちゃん、その単語は人の前ではダメだよ?

 プライベートな会話だし、不審者に襲われるかもしれないよ?」


 燦ちゃんも流石にと幼女を嗜める側だ。

 何というか、マツリ事件の尾はまだいろいろな所に残ってそうだと、改めて思うのであった。

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