第130話 面会日ですが、なにか?
次の日。
「元気そうね、マリちん……というか、マツリの方が良い?」
私は病室で暇そうにしていたマツリにそう声を掛けた。
「お見舞いありありー、ひまひまでさー。
お、その袋。
土産は551ね、助かるー!」
「病室が一人と聞いてたから、有りかと思ってね?」
「まぁ、匂いがつよいよねー」
こんな感じで嬉しそうにブンブンと手を振って迎えてくれる。
そしてベッドの横に椅子を用意してくれたので座る。
「名前はマツリでおねがいー。
自覚して統一していけと、専門の人が言ってるからねー」
口調軽く、マリで話してくれる。
顏は塗っていないせいもあるか、何処か幼さを感じる。
とはいえ、顔立ち自体はスッとして整っている大人な感じを覚えるのにあやふやな感じだ。
見た目的な違和感と言えば、黒く艶と清潔感のある短い髪の毛には特に戸惑いがある。ちなみに白いボサボサにした長い毛はウィッグだったらしい。
とはいえ、こればかしは慣れだ。
「精神科の先生は親父に過保護にすんなって怒ってたけどねー?
笑えるわー」
「そりゃそうよ……。
だからこそ、昨日の今日で私が来れた訳でね?」
「今まで放置してたのに手の平を返す様はー、面白いけどねー?」
「あはは……。
で、実際、マツリ自体は今の自分自身はどんな感じなのよ?」
んーっと、無邪気な少女のように口元に手を当てて悩み。
「変な感じ。
うーん、自覚したからか判らないけど、話している人格をその間は他二人が観ているような?
前まではこれはこれって感じで分けてて、お互いに干渉しないようにしてたんだけど、今はいつでも切り替えられるようになった感じ?
例えば、茉莉に切り替えると、こんな感じですね」
硬さがある口調で雰囲気が変わった。
マジメガネなしどー君に近い感じを覚える。
「こっちではあんまり話したこと無いですが……観てはいましたね、今思うと。
何というか、出来の悪い妹が出来たみたいで凄く不安を覚えてましたね」
「……しどー君と結婚したら、私が姉よ?」
「出来たらですけど?」
凄くトゲがある言い方をされてるんですけど……。
私の好感度低い?
挨拶に行った時も薄々感じてたけど、なんでだろう。
「……なにそれ、茉莉としては私が気に喰わない訳?」
「はい、そうです。
私の方が先輩ですよ?
色々と。
それに出自の件はちょっと、マリは許しても私はすぐに言って欲しかったと、そう恨みがましく思っているので。
信用できないな、こいつと」
「本人目の前にして言えるのは凄いわよね……それ」
正直な茉莉である。
こういう点はしどー君に似ていると思うし、マリも基本的に素直だし、血筋なのかもしれない。
さておき、あくまでも立場的なモノでイヤなのだと聞こえたが、昨日考えていた件もあり、しどー君を盗られるのが嫌なのかとも気になるので、
「ねぇ、茉莉。
もしかして貴方……」
「初音、マツリ、待たせた」
私の言葉を遮るように、しどー君が病室に入ってくる。
マジメガネスタイルだ。
「あ、しどー君、おかえり」
「親父にあれやこれや注意しろと言われてだな……。
今まで放任主義だった癖に、笑ってしまった。
この点に関しては、初音パパの方が上手だなと正直感じざる得なかった」
「ははは……パパはまぁ、あれであれで心配性なんだけどね?」
さておき、茉莉が気まずそうに黙ってしまうので何だろうな。
多分だけど思い至ったので言ってみる。
「……マリで殴った件?」
「それもありますね……ごめんなさい」
「いいさ、あれぐらいなら」
しどー君が私の隣に座りながら、茉莉へと笑いかける。
すると気を楽にした茉莉がつられて笑む。
「助かります。
後……どう呼べばいいか……」
「なるほど。
確か、茉莉の時にお兄様で、マリの時は兄貴か……全然、イントネーション感が違うわね」
「どっちでも良いんだが?」
しどー君が心底どうでも良さそうに、呆れてくる。
「良くないわよ。
呼び方と言うのは、相手との親密さや関係を測るモノなんだから。
むしろ、婚約してるのに苗字同士な私達が異端なの」
「それは確かにな。
「やだ、照れて……誠一君の顔が観れなくなるから」
名前を呼ばれただけで顔を背けてしまう乙女な私である。
「はぁ、熱い熱い……クーラーが効いてないー。
で、どうしたら良いのー?
糞兄貴って呼ばれたい?
流石にダメだって脳内で怒られたけど」
「普通に名前でいいだろ。
双子なんだし、僕はいつも茉莉と呼んでるし、これからはマツリと呼ぶわけだし」
っと、しどー君が言うと、
「ぇっとー」
口をモゴモゴさせて戸惑いを見せるマツリは、
「せ、誠一?」
詰まらせながら言った。
すると、しどー君は満足したように微笑む。
「それでいい。
それならマリでも茉莉でもマツリでも呼びやすいだろ?」
「うん……ありがとー、誠一」
えへへ、っと顔を綻ばすマツリは今にもベッドから出て抱き着かんばかりに見える。
何というか、そういう反応をされると私としては違和感しかない訳なのだが。
いやまあ、援助交際してた時は割りと身体的なスキンシップする方ではあったからマリらしいと言えば、マリらしい部分なのだが。
「うーん……」
「何悩んでるんだ、初音」
「いや、ちょっとね」
やっぱり、あれだ。
どの人格か判らないが、しどー君へ好意的な奴が居ると女の勘が言っている。
こういう時に私より、女という観点で鋭い燦ちゃんが居れば良かったかもしれない。
「とはいえ……」
あの妹の場合は敵対とみなすとちょっと危ない所がある。
居なくて正解かもしれない、うん。
思考を切り替えよう。
何でもかんでも恋愛に紐づけるのは良くない。恋愛脳とか、私らしくない。
姉妹愛とか兄妹愛とかあるじゃないか。
なお、私の周りのそれらは異常なヤツしかいない訳だが。
私と燦ちゃんしかり、委員長兄妹しかりだ。
「そういえば、私の呼び方どうするの?
はつねんのまま?
それとも?」
「んー、はつねん……みつかん……「それは何処かの企業名だからやめなさい」」
流石にポン酢を作り出しそうなそれは始めて言われた気がする。
なお、ミクと呼ばれてたことを思い出すが、それも否定しておく。
苗字と組み合わせるとまんま、あの歌うキャラクターだ。
「もう特別に
呼ばれ慣れてないけど。
マリとは短く無い付き合いだし、有りかと思うし」
「了解、改めてよろしく、
ニコニコと心底に嬉しそうに私へと手を伸ばしてくる。
私はそれを右手で掴み、硬く握り、
「うん、よろしくね。
マツリ」
笑みで返してあげた。
そして、これからは私が貰った恩を返していければと思った。
何だかんだ、私の大切な友達なのだから。
――――
l´・ω・`)第四部完!
l´・ω・`)マツリ編でした、いかがでしたでしょうか。
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l´・ω・`)やらしくおねがいします!
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