第128話 しどー君のヤ◯ザ的説得方法ですが、なにか?
「確かに、マリ『は』って言ってた……」
私は弟君の言葉に思い返し、マリちんへと視線を強くする。
「弟君のいう事は図星?」
「だろうな、僕もスマホで聞いてた感じ間違いない」
しどー君がスマホをしまいながら、私の隣に来てくれる。
「……バレちゃったかー」
悪戯がバレた少女のように、ペロりと舌を出す仕草はマリちんのモノだ。
いや、何処か違和感がある。
幼い子供のような感じを覚えたのだ。
「……マリさん、いや、茉莉さん。
さっき僕は茉莉さんとも会話しました。
事の顛末も聞かせて貰えました」
「うん、メンドクサイおんなよねー、私ってー。
ノノちゃんみたいに、素直じゃないし、ひねくれてるしー」
「ノノはノノで真っ黒ですが……」
「「「確かに」」」
あの腹黒幼女は将来が怖い。
四人全員で同じことを思ったろう、私たちの脳裏に浮かぶあどけない顔。
さておき、
「そんなあなたでも、僕を笑わせてくれたお返しがしたいんです!
ちゃんと茉莉さんにもしてあげたいんです!
両方あなたなんですから!」
「なら、マリにだけしよう?
マリなら、君に何でもしてあげれるよー?
くすぐる以上に気持ちいいことだって……」
べしっ!
流石に私はチョップでその頭を叩いておく。
「マリちんでも出ない台詞よね、それ……人間として屑いわよ、今の貴方」
「暴力反対ー!
今までストッパーになってた茉莉がはずれてるだけだーい!」
子供みたいな言い草になるマリちん。私を救ってくれた時の影も形もない。
私は思う。
今のこれはマリでも、私のよく知らない茉莉でもない。
別人だ。
「マリでも、茉莉でも良いけど、それはタダの逃避だし、依存。
そんなのは相手に失礼」
「うう……だってーだってー」
駄々をこねるようにいわれ、イラッときたので会心の一撃を喰らわせることにする。
「弟君も嫌だよね?」
「はい……、何というかマリさんらしくないです。
重いのはノノだけで十分です」
好きな相手にストレートに拒否され、ガクッと両手をついて地面に項垂れる彼女。
「茉莉」
「なに、お兄ちゃん……」
しどー君を見る顔は幼く見え、今にも泣きそうだ。
慰めを期待しているようにも感じるが、
「意味のない話はやめておけ」
しどー節でストレートに切り込んでいく、私の彼氏。
妹に対しての躊躇を捨て、真剣な眼差しだ。
どんな手段でもと言葉にしたしどー君に迷いは無い。
こうなったら私のしどー君は強い。
「お前がそう自信を切り飛ばそうとしているのもそもそもの根源である、マジメさがさせてるだけだ。
結局、変わらないぞ」
「……じゃぁ、どうしたらいいのよ!」
駄々っ子のようにバンバンと地面を叩く彼女の手から血が出る。
「どうしたらいいのよぉ……私は、マリは、茉莉は……!
こんな二つの相反した状態が切り替え出来ないのに!
普通の生活も送れない!」
「病院にいけ。
家が病院で良かった、ホントに」
スッパリと斬られた彼女が、しどー君を大きく見開いた黒い
気づいたが、目元はしどー君に似ている。だが、込められた意思の力はしどー君の方が強く、凛々しく見える。
「……というかだ。
僕もだが、親父もデリケートに扱いすぎたんじゃないか?
家族だからって距離を置くままにした。
なら、お前の失敗は、医療と手段を放棄した親父が悪いんだよ」
確かに逃した後、
「だったら、とりあえず、病院にいけだ。
燦だって精神科や専門家のアドバイスで治った。
お前は自分の我儘で、自分を殺そうとしてるだけなんだよ。
当然のことをして無い奴の言葉なんざ、戯言にしか聞こえん。
違うか?」
違わない。
私は心の中で大きく頷く。
まだ、逃げないように影で待機してくれている妹は、痴漢の後遺症はまだ少なからずあるものの、ほぼ、問題ない。
彼女は大きく頭を振り、しどー君を力強く見返し、
「お兄様……、お父様にあんな子をみせたらどう思われます?
今までお姉さん経由で話は通してますけど……。
実際、どう思ってるか……」
しどー君の強い言葉に打ち伏せられ、茉莉の一部が表に出てきたようだ。
「茉莉。
行動する前にネガティブなるのをやめろ。
お前自身が僕や親父を敵にしているだけだ!」
「何を知ったように……!
何も知らないくせに!」
「言わなきゃわからんだろ!
言えよ!」
感情的な妹に感化されたように、感情的な怒りそのもので返すしどー君は彼女の首元を掴み立ち上がらせ、
「言えるだろ!
お前が僕や初音に対して弱味として見せなかった部分を日野に挑発されたぐらいで言わされてるんだから!
そんな軽いことなら親父や僕にも言えるだろ!」
前後に振り回し、彼女の頭がガックンガックン振れる。
物理的に息がつまり、グヌっと言い
そして代わりにと言わんばかりに柔らかく抱きつき、支えながら、
「燦から聞いた……。
親父への逆恨みで、火事をお越されたドサクサにお前が誘拐された時、言われたことも」
「あ、へ……?」
今度は優しい口調で、氷を溶かすように甘く『お前を理解しているぞ』と耳元で囁く。
ちょい待て、暴力で相手を否定してからの優しい言葉をかけるのってヤ◯ザな手法だ。
どこでしどー君、覚えてきた。
チラリと叔父さんや委員長の影が見えた気がするので、後で問い詰めることにする。
「親父は裏切らないし、僕も裏切らない。
それに僕のである初音も燦も裏切らない」
「……うっ」
とはいえ、手法としては有効だ。
彼女の顔に戸惑いが見える。
チャンスだ。
「裏切らない」
「……」
「「裏切らない」」
私も言葉を被せてやり、抱きついてやる。
「ああぁ、もう!
……判った!
判ったわよー!」
彼女が観念したとばかりに声を張り上げる。
「マリも茉莉も一旦、保留!
お父さんに相談する、するから!」
「絶対だな?
もう一回言葉にしろ」
しどー君が言葉にさせることにより、彼女自身の自覚を促す。
「うう……」
「言え」
「私、まつりは、ちゃんと相談します……」
「なにを?」
細かいしどー君である。
「まつりのトラウマに関してです!
マリも茉莉も殺しません!」
しどー君が満足そうに微笑み、彼女の頭にポンと手を置いた。
「いい子だ」
そして、私や燦ちゃんにするより力強くグリグリと頭を撫でるのであった。
首ごと動くので痛そうにも見えるが、悪い気分はしないと彼女の顔には笑みが浮かんでいた。
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