第126話 見つからないんだけど……
「マリシショーが変だったの!」
っと、タクシーで駆け付けるとノノちゃんの第一声がそれだった。
小学校近くのタバコ屋、つまりノノちゃんの家の前。
タクシーには念のため待機してもらいながら、燦ちゃんに飛びつくノノちゃんの興奮するままの言葉を聞くことにする。
「マリシショー。
きょう、ここにきて、かおがくろくなくて……。
わたしのあたまをなでてくれて……。
せいふくもいつものじゃなくて!」
そして興奮したままの感情で言葉を述べるノノちゃんが涙を目じりに溜めながら、
「ひのくんをたのむって……!
あきらめたのかと思ったけど、ちがうの!
あれはなにかをかくごした目だったの!」
堪えきれず泣き出すノノちゃんを燦ちゃんが宥めることになる。
勘や考えが鋭いノノちゃんがいう事で、マリちんが間違いなくヤバい状態なのは確かだ。
とりあえず、繋がらないとは思いつつマリちんの電話に掛けると、
『この電話は、現在使われておりません』
「は⁈」
繋がらない処の話ではなくなっていた。
しどー君家での一件から何度も電話を掛けていた訳だが、電話は解約されていなかった。
他の携帯や、タバコ屋の前にある赤色の電話機からも繋がらない。
「……嫌な予感が的中してる気がする」
私は何人かの仲間に連絡を取るが、判らないという回答ばかりに焦燥感を募らせている。
誰も繋がらないとのことだ。
そして誰も連絡先が判らないという事だ。
「もしもし、九条さんですか……お願い事が……いや、委員長では無くてですね?
いや、市内にいるのだったら、委員長にも手を……!」
しどー君も方々に手を回して電話をし続けているが成果を得られずに、
「せめて住所が判れば……!
親父も知らないらしいからな……」
悪態をついてしまう。
「――考えろ、初音……、考えろ……」
たぶん、これがマリちんの分水路だ。
私と燦ちゃんがしどー君に助けられたのと同じで、ここを外すと彼女は戻ってこれない。
そう確信めいたモノが脳裏をチラついている。
「待って、確か、懐いてたのは先輩ということなら……」
私は閃いたまま、スマホを音速タップ。
チャットソフトに叩きつける様に打ち込むと、即座に先輩から住所が送られてくる。
「しどー君、住所は判った!
先輩が家の保証人だった!」
「デカした、初音!」
そして、喜びと安堵が一瞬浮か私達だが、再びスマホが鳴り、
『でも、そこには居ないわね。
私も心配になって見に来てみたんだけど……』
さっきマリちんの状況を説明していたおかげか、先輩も心配になっていたらしい。
しかし、完全にヒントが途絶えた状態になったことだけは判った。
「やばいやばい……」
焦りだけが募ってくる。
「マリちん、私にさようならって言ってたし……!
追いつけなかったから、私が追いつけなかったから!」
目の前が揺らぎ、嫌な汗が垂れる。
呼吸が浅くなり、眩暈もしてきたようだ。
「初音、ちょっと抱き着かせてくれ」
「へ、こんな時に⁈」
「良いから、頼む」
しどー君が私の拒否にもかかわらず、抱き着いてくる。
いや、しどー君もかなり動揺しているのが心臓の鼓動が速いことから判る。
「……落ちつこう。
こういう時は根本的な所から見直すべきだ」
私に、そして自分に言い聞かせるように、しどー君はそう言い、深呼吸をする。
私も余裕が無くなっていたことにここでようやく気付き、深呼吸をする。
「ありがとう、しどー君……落ち着いた」
「僕もだ」
二人で笑いあう。
次には、しどー君は真面目な顔になり、
「初音。
茉莉、いやマリはいつも何処にいた」
「河原町の三条から四条の間、三条寄り。
基本的にチェーンのイタリアンでご飯を食べるか、そこら辺をウロウロしてるわね……」
「可能性としては有るか、いや、あえて避けるか?」
受けて、しどー君が考え始める。
「初音、あいつは何故、お前にさようならを言ったんだろうか。
普通消えるなら、心配させるようなことは言わない筈だ」
「それはまりししょー……たぶん、とめてほしいからだとおもうの」
ふと、幼い言葉がそう言う。
眼元が赤いが、泣くのを止めて落ち着いた姿はいつものノノちゃんだ。
「止めて欲しい……?」
「そうなの。
たぶんだけど、はんたいのかんがえが……ごちゃごちゃしてるんだとおもうの!
とめてほしくないけど、とめてほしい!
ヒントがあるはずなの!」
思い返すのは私がしどー君から逃げ出した時のことだ。
確かに好きで堪らないからこそ、離れようとした。
「ヒントねぇ……」
「あー、言われた通り来てみれば居たな。
おいっす」
部活の帰りなのか、制服だ。
とはいえ、手を借りる人は多い方が良い。
「マリちん探すの手伝って!」
「さっき部活を観に来たぞ?」
「は?」
「顔を塗ってなくて、驚いた。
普通に美人だったが、マジメガネにどことなく似てて微妙な気分になった。
で、見学してた弟連れてった。
それで伝言を預かって来たんだわ」
ちょっと待て、どういう事だ?
マリちんは、ノノちゃんに託すと言っていた。
「どこ行くって言ってたの!」
「ホテルは止めたからそれ以外だろうな。
それでだ、あの女から伝言なんだが……良く判らないんだよな。
嘘つき初音は出会いを思い出せって」
「……嘘つき……ねぇ」
「喧嘩でもしたんか?」
言われるが思い当たることはない。
いや、マリちんが明確な拒絶になったのは私の出自を証明してからだ。
それまでは、拒絶はしていたモノの話には応じてくれた。
「確かに、マリちんから見れば、私は騙していたように見えるかな……」
確かに私は初めて出会った時ととりまく状況が変化しすぎている。
落ち着くために、説得するために自分の内面に目を向けすぎて、マリちんの反応を見なかった私を恨む。
でも、
「忘れるわけないじゃない……出会いの場所なんか……。
マリちんめ……」
私は私がビッチの一歩を進んだ場所へと、足を向けることにした。
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