第125話 驚きましたが、なにか?
「驚いたわ……流石に……」
「予想通りとはいえ……僕もだ」
マリちんを逃してしまった後、私達三人でとある人に会っていた。
しどー君のお父さんから、茉莉のことをよく知る人物で是非にと紹介された人へと三千院の方へと会いに行った訳だ。
その帰り道、私たちはバスの最奥で揺られている。
京都の奥とはいえ、敷地面積が多いお屋敷のご息女で縁がない人だと思ったのに、驚いた。
オジサンが叔父さんだったり、お嬢が従姉だったり、校長が祖父だったり、しどー君の妹が援助交際友達だったり、これ以上は無いだろうと思っていたのにだ。
正確に言えば今回の件、私としては再会にあたっていたわけで、
「まさか、先輩だったとは……」
つまり、マリちんと一緒に先輩と仰いでいた引退した女性だったのだ。
更に言えば、
「そしてしどー君の元許嫁さんで姉さんと仰いでいた間柄だったとは……」
これだ。
世の中狭すぎる。
先輩もマリちんと同じで山姥にしていたわけだが、大学入学するからと引退した。
先輩のネットワークを引き継いだのがマリちんな訳で、元から顔なじみだったという訳で、成程と思う。
久しぶりに顔を会わせた先輩は、黒くて長い艶やかな髪を携えたスレンダーなお嬢様大学生という風貌で、援助交際をしていたと言われても見かけからは判らない風貌に変わっていた。
私も会って気付くまで時間を要し、先輩は狐の様にコココと楽しそうに糸目を弓にしていたのが悔しい。
「どっかのご令嬢みたいで……というか、まさしくご令嬢でちょっとどころか……物凄い違和感を覚えたけど」
服装もおしとやかな感じでブランド品の高級そうなモノを身に付けてはいたが、ひけらかしはしておらず、着け慣れている感じを覚えた。
私も言われればご令嬢だが、そんな感覚はまるでないのだ。
「僕は逆だ。
その姿しか知らなかったから、慣れた様子で初音みたいなワードがぽんぽん出てきて……今も、夢ではないかと」
でもなあっと、しどー君はため息をし、
「事実だったんだよな……」
複雑な表情を浮かべる。
誰だって姉と慕っていた人で、元許嫁が援助交際をしていて非処女と言われたらそうなる。
「はあ……」
それ以上に堪えているだろうことは、しどー君が破談の話をしなくても、相手からするつもりだったという事実だ。
曰く、弟以上には見れていないとのことで言われていた。
当然、子ども扱いされたことでしど-君のプライドは傷つけただろうし、何より、
「マジメなしどー君だから、漠然と結婚するんだってマジメに考えてた時期もあったけど、実はそれは無意味で……やるせない感じもあったり?」
「それもある」
しどー君は、ため息一つし、気分を切り替えるようにして続ける。
「いやまあ、確かに僕のことを弟扱いしかして無かったのは薄々気づいてた。
けれど、一時期は荒れてたらしいことも今日初めて知ったし……なんだかな、っと」
「信用や信頼を得るに至らなかった自分に歯がゆい?」
俯きながら彼は少し横に首を振る。
「いや、そこまで僕の目が回らなかったんだなと漠然と」
「子供だったから仕方ないわよ。
ノノちゃんみたいなのが例外なのよ」
あの子に関しては何というか、将来が怖いレベルだ。
「茉莉のことだってそうだ。
今まで忌避されてるからと、ちゃんと見てこなかった結果だ。
姉さんは信頼を得ていて、茉莉をマリという形で復活させたのにだ。
妹の信頼を得ていないし、妹にどうでもいいと切り捨てられてしまった」
だから、
「情けない男だよ、僕は……」
「しどー君……」
隣に座ったしどー君が弱弱しく見えてしまう。
いつもなら自分が正しいのだろうと定めたことに猪突猛進していくのに、ブレを覚えてしまう。
だから、私が抱き寄せて支えてあげるのだ。
「そんなこと無いわよ。
全てを背負い込むなんて神様ですら出来ないんだから。
宙返りしても神様にも成れないし、こんなことでしどー君が揺らぐこと無いわよ」
真っすぐいけるように。
「初音……」
「そうですよ、誠一さん!
少なくとも私達はあなたのお陰で今があるんですから!」
燦ちゃんも同意して、反対側から抱き着く。
リア充死ねと、前の方から視線が来るが気にするものか。
「燦……」
「それにですよ、誠一さん。
兄弟は他人の始まりとも言いますし、はい。
それ以上に遠い人は、自分の手に届かなくて当然なんです。
手に届くようになった偶然、つまり私たちの縁に感謝こそしても、元々脈や縁が無かった所、つまり元婚約者への未練は傲慢なのではないかと」
「この前まで他人みたいな距離だった妹が言うと説得力があるわね」
今じゃ、棒姉妹だし、お互いに求める行為もする仲なので姉妹以上になっているので、人生判らないモノである。
「……確かにその通りだ。
僕の気にしすぎだな」
コクリと私達の胸元に
「誠一さん。
その上で一つ問いますが、その上でマリさん……いえ、茉莉さんとは仲良くしたいんですか?」
「……」
燦ちゃんに問われ、しどー君が黙り込む。
私としては、友達として仲良くしたいと思うし、家族であれば仲が良い方が良いと思う。
けれども、確かに燦ちゃんの問いは、しどー君の目的を定めるうえで芯を得ている。
「したい」
そう、端的に述べた。
「今のあいつは不幸だ。
ずっと過去を引きずっている。
僕は初音のお陰である程度、引きちぎったがそんな相手もいない。
顔を隠している理由もまだ残っていた火傷以外にも納得できた。
自分が助けられるであろう、妹を捨てられるモノじゃない」
私達から離れ、バスの中で立ち上がるしどー君は続ける。
「先ずはあいつを捕まえる。
その上で、どんな手段を使っても説得する」
いつもの彼らしい自信満々の発言だ。
何とかしてくれる、そう安心させてくれる。
『~♪』
そんな決意に水を差すかのように鳴りだす、燦ちゃんの携帯。
バスの中だ。
燦ちゃんに睨むような視線が集まる。
「あわわ……」
っと、カバンから取り出して、相手先も確認せずに折り返しを伝えようとし、
「あとで電話を『マリシショーがとてもへんだったの!』」
慌てた拍子にスピーカーモードにしたのか、幼女の悲壮な叫び声をバスに響き渡らせ、皆を驚かせた。
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