第122話 妹……ではないと言い張りますが、なにか?

「面白い彼氏さんだねー。

 初対面なのに、妹認定とかー、おもしろーい。

 あははー」


 っと、マリちんは気を取り直して述べて、


「貴方の妹さんはこんな黒く顔を塗って、援助交際をするような子かなー?

 そんな不真面目なことが出来ると思われた妹さんかわいそー」


 ニコニコと笑顔をしどー君へと向ける。


「……確かに、普段の妹からなら考えられないと思う」

「でしょー?

 だったら……」

「でも、お前は僕の妹だ」


 マリちんの言葉を切って、確信を持って断定するしどー君。


「確かに、妹はある人に裏切られてから、人間不信になった」


 悪い男につかまったメイドの話だろう。

 しどー君自身、言っていて拳を握る手が強い。

 表情にも我慢が見える。


「それは特に家族に対して出、ずっと一人暮らしせざる得ない状況まで落ち込んで、学校も行かず引きこもりになってしまった。

 会えたのは姉さんだけだ」


 ……姉さん?

 また新しい女の情報だ、後で詳しく聞かせて貰うことにしよう。

 脳内に書き留めておく。


「中学ごろから、約束事や決まり事をした前提なら普通の会話が出来るようにまで回復して、一年に数回しか会えなくても、姿が大分変わっても、妹なのは判った」


 だからと、しどー君は切って、


「僕にはお前が妹だと判る」

「……」


 論理性も何もかも切り捨て締めた。

 しどー君にしては珍しい反応だが、眼にはいつもの強い意志。

 メガネは無いがギラギラと炎が燃えている、私のしどー君だ。


「……話、わけわかんなーいよー?

 頭、大丈夫ー?」


 マリちんはそれを否定しにかかるが、言葉尻が弱い。


「というか、迷惑なんですけどー。

 私はマリ、茉莉なんて人じゃないのー。

 そもそも初対面だしー、はつねん、どーにかしてー?」

「うーん……」


 助けを求められるが、悩む。

 だってねぇ?


「言っとくけど、しどー君、私が言っても止まらないと思うわよ?

 知ってるか知らないかはどうでも良いけど、目的決めたら突っ走るタイプだから」

「……はぁ」


 マリちんがため息で返してくる。


「何か違うって証明した方が速いわよ?」

「悪魔の証明だよー、それは。

 私、妹さんしらないんだからー、私が言ったことに対してそれは妹だ、って言われたら終わりよー!」

「じゃぁ、しどー君、妹の特徴をば」

「その化粧を外せ」

「ムリ☆」


 流石にと、即答するマリちん。


「じゃぁ、一つ譲歩だな?」

「は?

 何言ってんのー、この人?

 そもそも証明する理由が無いわけよー!」

「じゃぁ、お前は妹だ。

 妹として扱う。

 いいな?」

「……うえええん。

 この人、話通じないよー」


 援助交際歴が私より長く色んな男とやりあっているというのに、マリちんはしどー君の発する迫力に押されつつある。

 何というか、しどー君との相性が悪い感があり、涙目になっている。


「ともあれ、妹とこんな会話が出来るのが楽しくてな?」


 対してしどー君は笑顔だ。


「いつも、『はい』『いいえ』とかの簡素な答えか、『〇〇を守ってない! 死ね! 殺す!』なのにな。

 倫理や社会ルール的に逸脱している二股をまだ話してないから、拒絶されるのではないかとビクビクしていた僕が馬鹿みたいだ」

「だから、妹じゃない……って……」


 極端すぎる気がする。

 いや、しどー君もスイッチオンすると極端だしなぁ……、ありえなくもないかと思う。

 とはいえ、私が知っているマリちんとはだいぶイメージが違う。


「しどー君、しどー君、マリちんが妹さんかはさておき。

 妹さんてどんな人なの?」

「そうだなー……規則好き、というか規則以外信じてない熱血バカ。

 中学の時は規則、規則うるさいって人伝いに聞いた」

「だれがばかだよー!」

「ん?」

「あわわわ……」


 しどー君は気にせず続けてくれる。


「やっぱり半身を分けた存在で、物事に囚われやすい性格なんだと思う。

 とはいえ、僕が初音のお陰で今みたいな柔軟になれたように、妹もあぁ、こうなれるんだって素直に安心した。

「だからちがうのー!」


 ガルルルっと、野生の猫のようにしどー君に噛みつく、マリちんの姿は新鮮だ。


「とはいえ、顔の化粧はどうかと思うがな?

 委員長妹がアルビノ隠すのに使ってたのと一緒のモノなら、害は少ないとはおもうが……判らないな……」


 入学式当日、委員長に委員長妹がアルビノを暴露された件だろう。

 聞いた話では委員長妹は、アルビノで虐められた過去があって、小中とどっかの病院で支給されている化粧で隠し通していたらしい。

 んー、確かに言われれば、そう思えてくるので、


「マリちん、ちょっと失礼」

「へ?」


 黒い顔を指でなぞって、摩り、ペロリとついた化粧を舐めてみる。


「……同じかな」

「初音、間違いないか?」

「冗談で舐めたことがあるから、多分だけど」


 ペロリ、これは青酸カリみたいな感じで確証は無いが、微かに苦味を覚えるのは一緒だ。


「となると、親父も絡んでるのか……。

 なら、ちゃんと筋を通して報告済みでもあるか」


 しどー君が安堵の息を漏らす。

 まるで自分の事のようにマリちんの化粧の事に対して心配していたようだ。


「どういうこと?」

「あぁ、最近知ったんだが委員長妹な、親父の患者でもあったんだ。

 で、使ってた化粧品があってだな?」

「世の中狭い……」


 改めて思う。

 お嬢の件といい、おじいちゃんの件といい、これ以上は驚かないとは思いたい。


「……だから、委員長とも最近、つるむこと増えてんの?」

「そうだ。

 委員長のアルビノも親父が観てる」


 なるほど。


「そしたら、初音」

「ん? なに、しどー君」

「このマリについて教えて貰っていいか?

 妹で無いかもしれないなら、紹介して貰わないとな?」

「いいわよ」

「やめてー! やめてー!」


 マリちんが叫んで止めようとするが続ける。


「昔、私が交通事故にあったことがあって、加害者持ちでこっちの病院に通院してたのよ。

 陸上、辞めることになってからやることも、目標も消えてね?

 通院した後にやることも無く、河原町を歩いていたらナンパしてきたのがこれだった訳『かのじょー、しけたかおしてどーしたのー』ってね」


 しどー君がすごい顔してマリちんを見ている。

 マリちんはマリちんで、凄く気まずそうにしている。


「だってだってー、私、市外から来ました丸出しだし、悪いおじさんに声を掛けられたらそのままついていきそうなほど、弱ってたんだもん。

 それがマリに被って……」

「まぁ、確かに助かったわよ。

 ぽけーっと、感情も何も湧かない状態で、人生ってこんなにあっけないんだなって……割と自暴自棄だったし」

「そう言ってくれるとマリとしては嬉しい♪

 私もそうやって先輩に助けられたから」


 笑顔をほころばす山姥フェイス。


「まぁ、色んな遊びを覚えて……援助交際についても知って……。

 ママも水商売してたから、興味を覚えた訳よね。

 で、マリちんは優しい子ね。

 結局、面倒見が良いし、ノノちゃんの面倒も見てるし、今」

「……なるほどな……」


 しどー君がまるで自分のことのように嬉しそうに微笑む。


「だったらいいか、別に君が妹であろうと無かろうと」

「だーかーらー、私は妹じゃないのー!」


 マリちんの叫びに関しては今更感がある。


「一応、妹と仮定して言っとくが、家の提示版に空き日程の返信をしてくれ。

 僕がプロポーズした相手、二人を紹介したいから」

「妹じゃないって言ってるのー!

 知らないわよー!

 そんなことー!」

「はは、判った判った。

 初音、そろそろ行こうか。

 日野の弟とノノちゃんが、入口に見えた」

「あ、燦ちゃんも居るわね」


 入口に言われ見れば、親の顔よりよく見る妹の顔があった。

 しどー君に釣られ、立ち上がろうとすると私の手を取ってくれる私の彼氏。

 こういう細かい所も出来るようになってきたしどー君だ。


「じゃぁ、また今度。

 マリさん」

「もうあわないわよー!

 かえれかえれー! しねー!」


 ペコリさげたしどー君の頭に、罵詈雑言をなげかけるマリちんだ。

 マリちんは基本、柔和で感情的になることが無いので、珍しい反応だと私は面白くそれを観ていた。

 しどー君もしどー君で、罵詈雑言を受けていたのに顔が緩んでいたので、悪い事ではないのだろうと感じた。

 

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