第120話 仲直りと妹だけど、どうしよう。

「……なんでしょう、初姉はつねーさん」


 いきなり過ぎたかもしれない。

 日野君が私に一瞬だけ目を向け、背ける。

 うん、悲しい。

 一ヵ月ぐらい前には懐いてくれていたのにね……。


「はつねーさんだ……」「乳ババア……」「強い……」「何がつまってんだ……」「「夢だろ?」」「……男子さいてー」


 胸に集中してる気がするが、まあ、小学生には無いものだ。

 異質だし、仕方ない。

 特に周りの女の子が私を観る目が強い。

 男子を刺激しないでと警戒されている感じがし、小さくても女だよね、と微笑ましくなってしまう。

 

「うーん、ババア呼ばわりした子はとりあえず反省だよ?

 お姉さん、あるいははつねーさんだからね?

 失礼な人は男の子に嫌われるぞ?」


 私がその子に視線殺気を向けるながら笑みを浮かべる。

 子供たちの前で初めて見せた表情だからか、数人が震えだし、


「ひえ……っ」「はつねー……さん?」「こわ……」

 

 ヒソヒソとされる。

 うーん、やりすぎたかな。

 いつもは知的で温和なお姉さんキャラで売っているので、ギャップがありすぎたかもしれない。

 更に言えば、好意が向いてる日野君の前で言うのは十分、酷いという話もあるが、礼儀ぐらいは教えないといけないから仕方ないよね?

 さておき、


「日野君と喧嘩分かれしてたから、仲直りしたくてね?」


 さて、皆の前だ、逃げれないぞ?

 ここで逃げたら、男の子としての評判は悪くなるだろう。

 まあ、それはそれでノノちゃん達には有利になるからいいかな?


「……初姉はつねーさん……。

 振った相手にそれはちょっと、酷いじゃないですか?」


 私を真剣な表情で観る彼。

 周りがどよめき、安堵や日野君への同情が寄せられたりする。

 私が濁した部分をストレートに吐き出したのはそれが狙いかもしれない。

 だが、私は無視し、


「そうかな?

 日野君は私と仲良くしたくないんだ。

 もう一生、金輪際。

 友達としてもね?」


 極端な選択をさせている気がするが、結局はこういうことだ。


「……そんなことは無いです」 

「なら、今、仲直りしても一緒じゃないかな?

 いつまで、振られたからって不貞腐れてるのかな?

 自分の思い通りにならないからって拒絶や回避するのはタダの逃げ。

 結局、そのままで居るとね、嫌なことがあったら逃げ続ける癖が付いちゃうよ?

 その点だけで言えば、私に振られても友だちなお兄さんの方がよっぽど大人だよね?」

「……っ!」


 比べられたくない相手をあげ、貴方は子供だと言い切る。

 喧嘩を売っているような形だが、これで良い。

 彼らのような年頃には効く。

 なお、あれを大人扱いするのはちょっと言って後悔した。


「私を忘れるために女の子と付き合ったりしているのは可愛いし、好意的に思うけどね?

 犯罪とか恨み節にならないのは健全だし」


 恨みにはしったクラスメートのことを思い返しつつ、実感を込めて言う。

 話題の方向性としては、相手を認めつつも毒を仕込む形だ。

 その毒は即興性だ。

 再びざわつくギャラリーの中には「日野君、彼女いたんだ……」と残念がる声も少なくない。

 狙い通りだ。


初姉はつねーさん……?」


 なんで、そんなことをするのと言いたいのを押しとどめる彼。

 彼の私を観る目が、戸惑いで染まっている。

 私はその表情を観たことがある。私が誠一さんと付き合っていることが判った時に逃げ出した顔だ。

 意地悪い笑顔を浮かべつつ、


初姉はつねーさんからのアドバイス。

 日野君が何人と付き合おうが知ったことではないけど、ちゃんと女の子を観てあげなきゃダメだよ?」


 ニコニコ。


「何も……判ってくれないのに、なんでそう言うこと言うんですか」


 虐めすぎたせいか、言葉にさせてしまった。

 とはいえ、改めて言葉で聞いて他の女の子とも仲良くしたいというニュアンスが感じられてしまうのが悲しい。

 色を知ると言うのは、成長ではあるモノのだが、何というか複雑な気分になる。

 とはいえ、私には言う資格がある。


「正直、日野君を観ていてお兄さんを思い出したからかな。

 君のお兄さん、ある女の子の好意に全く気付かなくてね、その逆恨みで私が刺されそうになったんだよ?

 髪の毛を短くしたのは、その子に切られたからだし」


 短くなった髪の毛を触りながら、日野君に示す。

 事実だから酷い。

 周りから修羅場だ、昼ドラだという声が聞こえるが、創作なら良かったなと思う。


「私を好いてくれた日野君にはそんなことになって欲しくないなと、お姉さんからのアドバイスというわけだよ?

 傷つけられるだけならマシだけど、もしそれが原因で縁が切れちゃったら、絶対後悔するからね?」


 遠くで見ているノノちゃんにチラリと目線を向ける。

 彼もそれに釣られ、見、


「……ぁ」


 心配そうに見つめるノノちゃんが確認出来たのだろう。

 声が漏れた。


「……」


 そして再び私を観て、探りを入れてくる。

 探られて困ることは無いのだが、変な結論にされても困るので次の一手だ。


「私は基本的に嘘はつけないからね?

 そうでしょ、みんな?」


 周りを巻き込んで、皆に見えている私というイメージを引き出す。

 これにより説得力を増す狙いがある。


「はつねーさん、嘘はないよね、間抜けだけど……」「素直バカだから、そんな脳ないよね……」「さっきも何もない所でこけてたし……」「五月ごろ、木に登って落ちてたし……」「階段から転げ落ちたのもみたし……」


 あれ、私の知的で温厚なイメージどこ……?

 ともあれ、


「ね?

 私ってこんなイメージでしょ?

 ……ちょっと、傷ついたけど。

 もし、それでも疑うなら、嘘かどうかはお兄さんに聞いてみたらいいよ?」

「はい……判りました」


 っと、頷いてくれる。


「それで本題。

 仲直りしたいんだよ?」


 っと、手を差し出す。

 戸惑う彼だが、その手を拒否することは出来なかった。

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