第119話 黒歴史と妹だけど、どうしよう……。

「ノノちゃん、お勉強の調子はどうですか?」

「バッチグーです。

 このまえもいろいろおそわりました。

 おとこの子のかたちとか」


 っと、幼女の手が筒型を作る。

 うーん、勧めた手前、複雑な気持ちになりながら言うことは言っておこう。


「他の人の前でしたらダメだよ?」

「うん!

 はつねーさんいがいにはおしえないー」


 イイ子である。

 さておき、いつものプールである。

 今週が終われば、私の当番も終わる。

 今は朝、昼でプール、夕方、塾か家で勉強というパターンでやっているが、しばらく、ノノちゃんや日野君ともお別れだ。

 日野さんとは今生の別れでもいいかもしれないが、編入は早くて十月になりそうなので、そう言うわけではないのだが。

 その前に試験が八月末にある、頑張らねば。


「あまりひとにいっちゃいけないって。

 マリししょーもいってたー」


 ともあれ、マリさんもちゃんとそこらへんは教育をしてくれているようだ。

 聞けば、姉ぇの先生でもあるとのことだ。

 ならば間違いは無いだろう。

 なんだかんだ、処女のままで援助交際を終わらせた姉ぇの先生だ。


「ひのくんにはぼでぃーたっちだけー」


 なんだかんだ、上手くいっていると思いたい……。


「でも、マリししょー、うすい……」


 ペタペタと自身のスクール水着の胸を触るノノちゃん。

 うーん、幼女がやると犯罪的な何かに見える。

 

「はつねーさんみたいに、なりたい……」

「あはは、大丈夫だよ、うん」


 小二なのに膨らみかけているので有望だと思う。

 私も姉ぇももうちょっと後、四年ごろから少しずつ膨らんでたし。


「大きすぎると、可愛い服が無いんだけどね?」

「そーなのー?」

「そうなの」


 昔は全く気にも留めて無かったんだけどね……。

 家ではパパママと同じくジャージで、家の外出る時は制服だったし。

 ここら辺は誠一さんに恋をしてから変わり、お洒落に関しては姉ぇの助けを借りているのが現状だ。


「ブラジャーが特にね……」

「ノノもするようにってマリシショーもいってた……。

 グヌヌしてたけど。

 おまえもか、ぶるーたすっていわれた?」


 まともな事を言われており、安心した。

 とはいえ、小学生に嫉妬するのは止めて欲しい。


「うーん……とはいえか、周りに何か言われるかも」

「へんだってー?」

「うん」


 私も姉ぇも弄られた経験がある。

 いま思えば、子供っぽいが、あの時は真剣に悩んだものだ。


ひがみだと思えばいいかな。

 とはいえ、女子同士は面倒かな……」


 私が同級生を殴り飛ばした原因でもある。

 一時期は初音姉妹の狂暴な方と言われていたことがある。

 自戒、するためにルールを重んじるようになったのが過去だったりする。

 あとは最近まで改善しなかったボッチ傾向になったのもその頃だ。


「はつねーさん?」

「いや、ちょっと、ブラジャーで悲惨な青春を送っていたなと……」

「……ダメなの?」

「暴力はダメって話になるんだけどね……」

「ぼうりょくはだめなの!

 めっ、なの!」


 小学生に怒られる高一である。

 過去のこととはいえ、致し方なし。


「結局、自分の身に帰ってこないやり方が一番なんだよね……」


 虐めをしようとして破滅した、ある同級生とそれに乗せられた人たちのことを思い返すとこの言葉はかなり説得力がある。

 結局、力で人を抑えても、その上の力を持った人には勝てないのだ。

 その場で圧倒的な力を奮った誠一さんや姉ぇだって、勝てない相手が居ることは聞いているし、割と真理な気がする。

 さておき、


「ノノちゃんだったらどうする?」

「うーん……。

 ブラジャーするひとをだいたすうにすゆ!

 みんなであかしんごうはわたっちゃダメだけど、シロをクロにはできる!」


 確かに正解だが、この幼女怖い。

 大多数による圧し潰しとか小学生の発想じゃない気がする。


「……ちなみに誰に習ったの?」


 流石にこんな英才教育を親がしているとは思えないので聞いてみる。

 親だったら、流石に私は一言ぐらい言いたい。


「ごがつごろまできょうとたわーでよくみたしろいおにーさん?

 さいきんみないけど」


 私の記憶に該当なし。

 知らない人だが、何となく幼女に捻じれた考え方を教えている時点でどこか歪んでいる気がする。

 一応、


「知らない人についてったらダメだよ?」

「そのひと、ノノのおんじん!」


 大丈夫だと、自信満々だ。

 まぁ、ノノちゃんがそう言うのだし大丈夫だろう。

 何かあったら今のノノちゃんは居ない気もするし、私がノノちゃんと会ったのはそもそも四月だ。


「そういえば、ノノちゃんの仮彼氏さんは?」

「あそこー」


 っと指させば、他の子と遊んでいる。

 彼女を放っておいていいのかとも思うが、別にくっつくだけが彼氏彼女というだけでもないのだと思いなおす。

 姉ぇも常々、誠一さんの交友経験値は上げるべきだと言っている。


「さいきんひのくんもてゆ……。

 ふだんはいっしょにいてくれるけど」


 グヌヌとしているノノちゃんに言われて、改めて観れば確かに周りに女の子が多い。七対三ぐらいだ。

 顏を赤らめている子や眼が潤んでいる子もおり、日野君も楽しそうにしているのが、何ともかんとも。


「……何というか、日野君のお兄さんを思い出す光景だね」


 何というか腹が立つというか、イラつくというやつだ。

 好意とか嫉妬とかではないのだが、誠一さんと比べてしまうからだろう。


「誠一さんなら、私が不機嫌ならフォローしてくれつつ、不機嫌にならないようにとは注意もしてくれて……ギブとテイクをしっかりバランスとってくれるだろうし……。

 うーん、もしかして力バランスが悪いのかなあ……」


 私たちの関係と比べてみる。

 誠一さん一強だが、全員で相思相愛であるし、お互いを尊重しあっている。

 物事の起こりも誠一さんが姉ぇを好きになり、姉ぇが誠一さんを好きになった。

 そこに横から私が割り込んだ訳でして……。


「ぐふっ」


 思い返しで自分にダメージがくる。

 私は自分の悪を完全に開き直れるような精神はしていないのだ。


「はつねーさん?」

「いや、ちょっとね……」


 とはいえ、部分的には開き直れる精神をしているので飲み下していく。

 もし地獄があったら私だけ離れ離れかな……それはそれで悲しいが仕方なし。

 結果として、誠一さんは私も選んでくれた。今はそれでいい。


「……はつねーさんならどうする?」

「私、扇動とかは苦手なんだけど……そうだね……」


 私の女が出てくる状況ではない。

 日常から出てきて他女子を捻ることができるならそもそもボッチみたいにはならないし、権力や義務、暴力に頼ったりもしないだろう。


「私が日野君の噂を流すかな……付き合ってる人がいるとね。

 予防線はしておきたい」

「なるほどー」


 ノノちゃんが流すにはリスクがある。犯人がばれた場合、否応がなく悪い感情を抱くだろう。

 万が一の場合、独断にしといて私が嫌われた方がいい。


「まあ、それをする前にちょっと割り込んでこよう。

 私としてもそろそろ普通に話したいし」


 よし、と気合いを入れて、


「おーい、日野君」


 自分から話しかけることが少ない私が勇気を出しながら、集団に近づいていくことにした。


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