第118話 姉妹喧嘩ですが、なにか?
「がるる」
「ふしゅー!」
家に帰ってから威嚇し合う二人の獣、つまり二人でリビングのテーブルを囲んでの姉妹喧嘩である。
取っ組み合いこそ無いモノの、威嚇し合っている。
正直、人が増えればすれ違うも増えるモノで、ハーレムとかは大変だと思う。
さておき、
「また、何があったんだ……」
家に帰ってきたハーレムの主、メガネをしているしどー君の開口一番がこれだ。
当然だ、主にはハーレムを保つためには配慮と努力が必要だ。
さて、今回の原因と言えば、
「燦ちゃんが幼いノノちゃんに性知識を教えたのよ!」
これだ。
しどー君が私に対して、何を言っているんだというジト目視線を向けてくるが、続ける。
「興味本位でやったら取り返しのつかないことになるわよ!
それこそ、一生、女として使い物にならなくなったり!」
実際、小さな女の子で性被害にあって、物理的に壊れてしまった話も聞いている。
そもそもに妊娠の最速記録は四歳であるが、通常十歳前半の女子の妊娠は分娩不可能になる場合が多く、帝王切開で母子共に負担がかかる。
非常に危険な行為なのだ。
「今回はもう性に関して興味を持ち始めてたし、ちゃんと知らないと私みたいになるから、教えなきゃダメだったの!
ノノちゃん賢いし、ちゃんとダメな理由を説明すれば問題ないの!」
「流石にまだ早いわよ!
体もまだ出来上がってない女の子よ!」
平行線だ。
まるで子供の教育方針のやりあいみたいだ。
「いつもと性への観点が逆の立場だな……。
とりあえず、状況」
しどー君が説明を求めてくるので、二人でヤイノヤイノと説明し合う。
私が正しい、私が正しいと言いあいだ。
ふむふむとしどー君は頷き、
「これは燦の方法がメリットが高いかな……。
覆水盆に返らず、そもそも性の目覚めが出てきたのは僕も観ている。
なら水の経路は先に決めてしまった方が良い。
あらぬところに水が行く前にな?」
「……うわーん!」
しどー君に否定された事実に不貞腐れて、ソファーに頭を突っ伏してしまう。
そんな私をヨシヨシと頭を撫でてくれるが、気分は晴れない。
確かに筋が通っているのは判るが、女とは感情の生き物であるという話かもしれない。
「しどーくんのばーかばーか!
燦ちゃんと仲良くやってればいいのよ!
この巨乳好きメガネ!」
「初音……」
だから、こんなことを言ってしまった。
醜い女になっている自覚はあるのだが、イライラとした感情が沸きあがって抑えられない。
こんなにもしどー君に分かって貰えないことが悲しいとは、重い女になったモノである。
こんな風にイライラする私自身がツラいのを自覚しているが止まらない。
何故かは判らない。
「初音」
「なによ!」
強く言い返し、観れば真剣な目線が目の前にある。
「初音」
「なによ……」
ニコニコと彼は微笑んで私の名前を呼んでくれる。
「初音」
そして私を胸元に引き寄せて、横になりながら抱き着いてくれる。
しどー君の匂いと温かさが私を包み込み、私の居場所だ、安心だと苛立っていた自分が抑え込まれていく。
「しどー君……ごめんなさい。
らしくなかった……」
「いいんだ、僕は初音の生き方を否定したい訳じゃないからな?
それは判ってくれ。
初音が優しいのは知ってるし、知人に対して最善をしたいって気持ちは僕もそうだ」
「えへへ……♡
しどー君大好き……♡」
私の匂いをこすり付けるように甘えてしまう。
ちゃんと彼は、私の女の部分が何を求めていたのか、理解してくれている。
いい彼氏さんだ。
「とりあえず、まぁ、過ぎたことよ、うん」
そして考えをいつも通りに切り替えていく。
私はビッチだ、ちゃんと割り切れる、と自身に言い聞かせる。
「で、私の友達に弟子入りしたの。
安心度は私が保証するけど」
「……スゴいなそれは。
つまり、援助交際仲間だろ、それ……」
「しかも弟君を狙い合うライバル」
「よくもまあ、相手の懐に……本当に小二か?
胆力といい、実行力といい……僕も委員長と普通に話すようになるまではかなり抵抗あったし。
話してみると、案外面白い人物だから、ちゃんと会話することの重要性を学んだが」
あれと話すのはまた別次元に大変な気がするが、まあ、判る。
「犯人はこれ」
「えへへへー」
私が指さす先は燦ちゃん。
笑顔を綻ばしてくるが褒めてねぇよ。
尻尾が観えれば振っていただろう燦ちゃんが私たちに近づいてくる。
確かにノノちゃんは腹黒ロリだが、燦ちゃんみたいに凶悪な一手を打ってくるような真似は想像だにしなかった。
「あー、なるほど。
私がイライラしてた理由はこれか」
「なに、姉ぇ?」
そんな妹を観て、私が何故、苛立っていたのかここでようやく思い至る。
燦ちゃんのあくどさにしどー君を半分盗られた時の感情を思い返したからだ。
今の二股状態自体は私も望んだ状況ではあるし、納得もしてるし、幸せではあるが、それとは別にしてやられたという感情がわだかまっていたらしい。
「このデブ腹黒妹め」
とりあえず、燦ちゃんの頬っぺたをつねる。
良く伸びる餅である。
「ぼうひょくはんたひ……」
「これぐらいはしどー君を半分あげた私の権利よ。
今度、また一緒にする時、覚悟しておきなさい?」
「ふえ……」
妹の顔が紅くなる。
初心なやつよのぉ、げへへへ。
今から楽しくなってくる。
「初音、悪い顔してる……」
「今度、しどー君に姉妹プレイを手出しなく、観て貰おうかと。
散々焦らされたしどー君がどうなるか、見ものよね」
「どんなプレイだ……」
「放置プレイ?」
しどー君が呆れてくるが、まぁ、何事も物は試しだ。
「そういえば、しどー君、しどー君」
「なんだ、初音」
「プレイボーイな手法を弟君に教えるとか、やっぱり意識変わったよね……」
言われ、しどー君が一寸、口元に手を当て、
「変わったのもある。
先ず燦の件で好きだから付き合うという前提が崩れたのがある」
「はふ……♪」
燦ちゃんの頭を左手で撫でるしどー君。
擽ったそうにして笑顔を浮かべる燦ちゃんはやっぱり犬っぽい。
彼は右手で愛おしそうに私を抱きしめながら、
「彼には、初音が僕に教えてくれたように、どう女の子と折り合いをつけていくかを示したかったんだ。
彼にとっての最良は、好かれている二人あるいは片方と付き合う付き合わないでは無く、そこから何を学べるかだろうと思うし」
「なるほど」
確かに私の教育の結果である。
それを確認できただけで、嬉しくなれる。
しどー君は私が育てたイイ男なのだ。
「それになにより、燦をちゃんと諦めて欲しい。
僕のだ」
そして独占欲も強いしどー君である。
「私は徹頭徹尾、誠一さんのですよ?」
「知ってる」
「わふ……♡」
燦ちゃんの顔を引き寄せるしどー君である。
こういう、ジゴロな部分は教えた覚えはないんだけどなぁ……。
元々、素質があったのかもしれない。
何がして欲しいかをちゃんと見てくれる部分が働いているだけなのだろうとは思うが、結論、これのお陰で私も燦ちゃんも仲良くやれるのだ。
ありがたい話だ。
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