第117話 ファミレスで爆弾発言ですが、なにか?

「ノノ、ひのくんのあかちゃんうみたいし、いいよ!」


 っと、いつものファミレスで叫ぶ幼い声に視線が集まる。

 どうしたモノかと周りを観るが、彼女の姿を観た人は微笑ましい笑みを浮かべ自分の日常に戻っていく。

 なんせ、可愛らしいフリフリの服を着た小学生の言葉だ。

 まさか真剣に言っているとは思わない。


「ノノ?」

「なーに、ひのくーん、えへー♡」


 っと隣の日野弟君が恐ろしいモノを観る様に彼女を観るが、気にせずムギューッと抱き着くノノちゃん。

 これが当然だと言わんばかりだ。

 何しろ、今しがた弟君から、


「仮だけど、ノノにも付き合って欲しい。

 マリさんとも仮で付き合うんだけど……」


 二股(仮)を提案し、受託した言葉がさっきの発言だ。

 カオスな状況に、更にノノちゃんがカオスを被せてきた状況である。

 何というか、どうしてこうなった状態で、弟君が助けの視線を当事者ではない私と日野兄に向いてくるが、私達でも答えが出ない。

 なお、席の状況はこんな感じだ。


  妹  私  兄

 =========

    テーブル

 =========

  ノノ 弟  マリ


 ちなみに右が廊下側で、日野兄をパシリに使うことを考えてある。


「ひのくん、はつねーさんのことわすれたいからだろうし」

「ぐっ……」


 鋭いナイフのような幼い言葉に深く呻く弟君。

 燦ちゃんの何処がホントにそんなに良いんだか……。

 今日は私も燦ちゃんもサブなので、お揃いのジーパンシャツと飾りっ気を少なくしている。

 これならシャツをかなり大きめのを着れば、燦ちゃんの胸部もすんなり隠せる。

 さてさて、


「ノノちゃん?

 子供産むのは大変よー?」


 っと、至極真っ当な事をガングロ処女ビッチなマリが述べるという変な状況が続く。

 彼女はいつもの制服姿だ。


「しってるー、はつねーさんにおそわった……おとこのこのでおんなのこをつらぬくの。

 ……ノノはまだこどもうめないし、うんでもそだてられない。

 でも、みらいならできゆ」


 ……燦ちゃん? っと隣に目線を向けると、妹はニコニコと笑顔を浮かべながらハンバーグ食べてる。

 ムカついたので、


「うりゃ」

「ふえっ?!」


 とりあえず、妹のやわらかほっぺを伸ばしながらどうしたものかと考える。


「そこでおばさん!」

「おば……⁈」


 マリちんがそう言われ、絶句し、飲もうとしたメロンソーダをせき込む。

 一応、女子高生な訳でして、そんな言われ方をするとは思わなかったのだろう。


「ただしいせいのちしきおせーて?」

「……」


 マリちん、ノノちゃんを指差しながら、口をパクパクさせながらのスゴい形相をして私を見ないで欲しい。


「こっちみんな。

 ……いや待て、ノノちゃんらしくない」


 巻き込むなと突き放しながら、言葉を転がし考えを巡らせる。

 確かに日野君にとっては好ましい状況では有るが、相手の懐に飛び込むより敵対心で競い合う方向でいくと思っていたのだ。

 それこそ、胸を触る件しかりで鑑みることが出来る。

 つまり、助言事態をややこしくした犯人が居る訳で、容疑者に目線を向けると、


「~♪」


 燦ちゃんが楽しそうに、追加注文したドリアに口をつけている。


「犯人はきさまかー! この食欲デブ妹!」

「唐辛子フレーク山盛りにしないでよ、姉ぇ!」

「カプサイシンダイエットしてろー!」


 バサーっと調味料入れの全部を投入してやった。

 皿が赤くなるが、「あ、これでもいける」と言ってパクパクと食べる妹である。

 油断も隙もない。

 しどー君を半分盗られた時といい、この妹はスゴい手を打ってくる。


「えっと……」


 マリちんが困っている。

 ノノちゃんを突き放すのは簡単だ。

 単純に断ればいい。

 でも、マリちんの性格的にはムリだろう。

 今まで、色んな少女の援助交際で悩み事があれば受けてきた仲介役だ。

 マリちん自体の存在意義にも関わってくる。


「あー、うー。

 確かに間違った知識で妊娠されて、責任をとか言われるのもいやよねー……」


 それに、弟君はノノちゃんをコントロールしきれていないので、マリちんが手綱をゲットすることにメリットがある。


「ぐぬぬぬー」

「だめー?

 おばさんダメそうだから、ひのくん、おせーて?」

「……ちょ、ノノ!」

「ええではないかー、ええではないかー」


 っと、弟君に再度、抱き着いて迫る。

 悪魔かこの美幼女。

 選択肢が酷すぎる。


「しかたないなー……。

 だから、日野君からはなれてよー」

「やった☆」


 してやったりと、笑顔を浮かべながら人質を解放する幼女。


「但し、私のことはちゃんとマリさんと呼んでねー?」

「はいー、マリおばさ……じゃなくて、マリさん」

「よろしい」


 おばさんと言われたのも気に喰わなかったらしい。

 小学生に威嚇をするのは恥ずかしいからやめて欲しい。

 さておき、


「そしたら、とりあえず二股でいいのか、お前も……」


 っと、日野兄が弟へ何とも言えない視線を向ける。


「お兄ちゃん、僕の立場になったら判ると思う。

 それに日本以外にはお試し期間というのがあるらしいよ?

 士道さんが言ってた。

 なんで好きになってから付き合わなければならないんだとも」

「あのエセマジメガネ……!

 俺の初音さんを横取りしたばかりか、弟まで悪の道に引きずり込みやがって!」


 憤る日野兄。

 後半は確かに正しい怒りだと見えなくもないとはいえ、


「私は誠一さんのですから、徹頭徹尾。

 それに間違ったことは全く言ってないですよ?

 好きになって貰うために付き合って貰う事の何が悪の道なんですかね?」

「なら、俺とも付き合って「ムリです、私の愛は全部、誠一さんに向いてるので、あ、プリン追加でおねがいしまーす」」

「まだ、喰うのか、燦ちゃん……」


 妹が追撃とばかしに突っ込みや追い打ちを仕掛けるので、日野兄が真っ白に燃え尽きてテーブルに突っ伏す。

 ちなみに、しどー君の事を悪く言われたのが気に喰わないので、


「日野兄。

 燦ちゃんを諦めきれないからって童貞貫くつもり?

 さすがにキモイわよ?」

「なん、だと……」

「例えば、相手が死んだとかなら判るけど、男が居る相手を忘れられなくて……わねぇ?

 結局、操を立てるっていうのは女性だからこそであって、男性が言うと執着心が強い、女々しいとしか思わないわよ。

 そんな俺を恰好良いと思ってたら、さすがに笑うわ」


 事実を突きつけてやると、愕然とした表情で私を観てくる。


「マリちん、日野兄にいい人紹介してあげれない?

 流石に妹がストーカーされて可哀そうだから」

「こんなの紹介したらー、私の評判がおちるから、むりー。

 あ、お客としてなら大歓迎。

 黙ってれば顔いいし」

「俺の評価って……」


 残当な評価だと思うけどね?


「あ、いい案あるよー?」

「ぉ、なになに?」

「逆援助交際なら売れると思うー。

 顏は整ってるし。

 女性だけでなく、男相手でも需要在りそう」

「ちょっと待て!」


 眼を見開いた日野兄がケツをキュッと引き締める動作をする。

 流石に男相手は可愛そうである。

 さておき、小学生二人がハテナマークを浮かべているので、危ない会話は止めておこう。

 これ以上、ノノちゃんの性癖がよじれるのは良くない。


「で、弟君よ。

 二人と付き合う訳だけど、どうしたら勝ちなの?」


 ちゃんとルールを決めておいた方が良いと、仲裁役を買って出る。


「僕が好きになったらで。

 もし、片方だけを選んだら、もう一人はちゃんと身を引いてください」


 ノノちゃんとマリちんの顔に緊張が灯り、ゴゴリと喉が鳴った。


「いいですか?」

「はい、わかったの、ひのくん」

「承りよー」


 促すと渋々ながら二人がちゃんと頷くので、満足そうに弟君が笑顔を浮かべる。


「じゃぁ、二人にご褒美です。

 先に答えたノノ、顔をこっちに向けて?」

「うゆ?

 ……ふえ⁈」


 弟君がノノちゃんの額に唇を重ねた。

 幼い顔が眼を見開く。


「マリさんにも」

「⁈」


 そして、眼を見開く皆を楽しそうに観ながら、今度はマリちんの頭を両手で向かせてその額に、チュッと音をさせる。

 すると歴戦のマリちんが顔を赤らめてテーブルに頭を突っ伏すので、まるで初心な少女のように見える。


「イイ子にしてたら、またしてあげますので。

 いいですか、二人とも」

「「はーい……♡」」


 甘い声で反応する二人。

 誰だよ、小学生にプレイボーイな手法を教えたのは。


「……エロメガネのアドバイスか?」

「はい。

 ちゃんと飴もあげなさいと言われました。

 攻められて困るなら、こっちから攻めろとも」


 日野兄の問いで犯人はすぐ割れた。

 成程、最近の私達をもてあそぶしどー君なら言いそうだ。 

 なんせ、私が育てたのだから、えへん。

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