第116話 しどー君の行き先ですが、なにか?

「そういえば、しどー君。

 最近、何処に行ってるの?」


 妹とも、私とも行動をしないことが増えているしどー君である。

 もちろん詰めるつもりは無く、夕食の話題として出しただけなのだが。


「まさか、他の女の人に会ってるとか?」

「女の人には会ってるな」


 と、何でも無い様に返してくるので、


「そっかー……」


 と流しそうになる。


「ん?

 今なんて言った⁈」

「女の人と会ってるって言ったんだが?」


 ちょっと眩暈がした。

 その次は喪失感。

 しどー君に捨てられる……? っと、頭の中によぎり、手が震えてしまう。

 チャリンと音がしたので、手元を観るが、私はちゃんと持っている。


「せ、せ、誠一さん……その人、何処のどなたなんですか?」


 それは右の席の皿からだった。眼を見開き、ワナワナと震えて、この世の終わりが訪れたような顔をしている燦ちゃんだ。

 それを観て、私は何とか姉としての威厳と落ち着きを取り戻すことが出来た。


「あぁ、学校のオタ研の部長だ。

 あの人も京都住まいだから、コミケ前にリサーチしてるんだ」

「ふーん……」


 本人が気付いてない可能性を疑う。

 しどー君、最近モテるからな……、この前のお祭りの時だって他の学校のご年配ババァの生徒に狙われてたし。


「彼女さんも一緒だから、こっちも初音連れていくか悩むぐらいにあてられて困ってる」

「なら誘いなさいよ」


 相手がいるらしいと聞こえ、私と燦ちゃんが同時に安堵の息を漏らすが、


「途中から暇そうにしそうなのがな?

 流石に失礼だ」

「まあ、確かに私はオタクじゃなくてビッチだし。

 あと、彼女って聞こえたけど?」


 私の聞き間違いかと、聞きなおす。


「……その人な、同姓好きだったり、レズビアンだったりのラブコメを書く人でな?

 委員長と僕とか、学校中の有名人をカップリングで小説や漫画にしたりしてるから、初音との面識を持たせると興味を引きそうで怖い」

「ヒエ」


 別の意味で危ない人だった。

 私も燦ちゃん限定で同性は致してしまった訳だが、無差別に喰うような人間では無いのだ。

 とはいえ、しどー君と委員長の薔薇園は興味をそそられる。

 だって、自分以外の目線からどうしどー君が見えているのか気になるんですもの、ほほほ、っと安心と欲望がミックスアップされてしまってテンションが変になる私である。


「既に初音と鳳凰寺さんの組み合わせ作品があったのが何とも……」

「ちょっと待て、どんな組み合わせよ?

 血が繋がらない従姉妹ではあるけど、普通は委員長妹とお嬢でしょ!」

「まあ、そこは創作の醍醐味かと。

 こうなったらという仮定を楽しんでいるらしいぞ?」

「というか、肖像権やプライバシー……!」

「諦めろ。

 モデルにした他人だからと、委員長も丸め込まれてた。

 確かに微妙に違って、初音はもっとギャルぽくアレンジされてたし」


 口が回りまくる委員長が無理なら無理だ。

 

「それならばと委員長は逆に妹委員長の本を描けと、資料提供しているのもあれだったが……」

「流石シスコン……」


 転んでもただで起きない委員長である。

 後で妹ちゃんに告げ口しておこう。

 こっちはこっちでブラコンなので喜ぶ気がするのが、何ともなんだけど……。

 早くやってしまえと、妹ちゃんを応援している私ではあるがね?


「後は、家にちょくちょく帰ってる」

「士道君のおうち?」


 そういえば、京都市内なのは何となくわかっているのだが何処にあるかはしらない。

 緊急時の連絡先は例の病院だ。


「妹とも顔合わせが必要だと思ってるから、スケジュールを合わせようと思ってるんだが……相変わらず、連絡がつかなくてな?」


 噂の妹さんだ。

 しどー君曰く、マジメな双子の妹らしいが、実際に会ったことは無い。


「そういえば、どんな人なんですか?」


 っと燦ちゃんが興味を持つが、しどー君は眼を逸らして言い辛そうにする。

 やはり妹関係は何かあるらしい。


「言わなくていいわよ、別に」

「助かる。

 とはいえ、少しだけ話すと、とある理由で極度の人間不信だった時期があるんだ。

 だから、規律をかたくなに守ろうとする。

 それしか信用できないからとな」

「もしかして、そのとある理由はしどー君も影響されてたの?」


 クソマジメガネのしどー君を思い出してしまう。

 懐かしい話だ。


「無いとは言えない」

「成程ね……メイドプレイでしどー君が僕のモノ宣言して、トラウマ回復した件と何かあったりとか?」


 直観めいたモノが働き、口からそう漏れていた。

 懐いていた人が結婚で居なくなったぐらいでトラウマになることに違和感を私が覚えていたようだ。


「初音は鋭いな」

「……ほむ?」


 そう言われ、考えて発した言葉ではないから逆に言った私が疑問符が沸いてしまう。


「メイドプレイ……私もしたいです……」


 隣で色ボケしている燦ちゃんは無視だ。

 夜、生で存分にして貰うといい。

 私が今日はダメな日だし。

 私は晩御飯のサバの西京焼きを口に入れつつ、しどー君に目を向ける。


「その人な、実は結婚した後に事件を起こしたんだ。

 結婚した相手が悪い人でな?

 それで……僕は後悔して、あぁなって、妹は人間不信になってしまった訳だ」


 いたって普通を装うとするしどー君だが、その手は強く拳で握られている。

 しどー君だって人間だ。

 それに私自身、彼がこの件に関して強い思い入れを持っているのは知っている。

 

「私はしどー君のモノよ?」


 っと言いながら、立ち上がり、しどー君の後ろから柔らかく抱き着いてあげる。

 私はここに居るぞとの意思を、言葉だけでなく、語感で伝えてあげる。


「私も誠一さんのモノです!」


 っと、燦ちゃんも横から抱き着く。

 すると彼は嬉しそうに微笑みながら、安堵の息を漏らす。


「ありがとう。

 二人とも愛してる」

「こんなことで安心してくれるなら、お安いご用よ」

「そうです、誠一さんは私たちにもっと甘えてくれていいんですよ?」


 と、姉妹で左右からしどー君にズズイと詰め寄りながら、挟み込む。

 彼の肩のあたりに左右から私たちの胸がムニュッとあたる贅沢姉妹サンドイッチである。


「僕は幸せ者だ。

 こんなにも僕を思ってくれる人が二人もいるなんてな」

「ふふー、あまえろー! ほめろー! 幸せにうち震えて、安心しろー!」


 ふざけて言うと笑ってくれる。

 ただふと、真剣な顔をして、


「あいつも……妹も体を委ねられる人を見つけられればいいんだけど」


 誰に言うでもなく呟くのが聞こえた。

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