第115話 子作りと妹だけど、どう説明しよう。

「あかちゃん……?」


 私を観る幼い視線に含まれる感情は戸惑いだ。

 その単語と気持ちよくなるための行為が結び付かないのは当然だ。


「そう、赤ちゃん」

「コウノトリさんがはこんでくれるの……に?」

「うーん……。

 それは目に見えない妖精さんの比喩なんだよ?」


 そういう話を小学生に読み聞かせた絵本の解釈で見た気がする。

 否定すると親など教えていた人への不信に繋がりそうなので引用させて貰う。


「お母さんのお腹が膨らんだら魂を運んできてくれる妖精さんがいて、目に見えないの。

 だから、幸福の鳥、コウノトリが運んできたって言うことがあるの」

「……」


 私を観る幼い目が怖い。

 誠一さんのように相手を理解するでもなく、日野兄弟みたいに会心を狙うでもない。私を計るそんな目だ。

 小二の幼女、よく微笑む可愛い幼女のさせる表情とは思えない。


「はつねーさん、うそはないの……」


 ふと、気を抜き、大きく頷くノノちゃんはいつものあどけない顔だ。

 伝聞を使ったのが良かったのかもしれない。

 そういう話があっただけ、嘘は含まれない。


「続けていい?」


 コクリとノノちゃんが頷いてくれる。

 話そうかと悩んだ内容はこれで三度目だ。

 親に任せるべきかもしれない、他の大人に任せるべきかもしれない。

 ただ、私の直感が、この場でしないと後悔すると言い、突き動かされていく。

 姉ぇから、半分彼氏を寝取った時の考えてに近いので間違いないだろう。


「ノノちゃん、男の子には股についてるモノがあるよね?」

「……おち「言わなくていいよ?」……はい」


 危ない。

 十八禁ワードが飛び出るところだった。


「女の子にはその場所に割れ目があるよね?」


 私は自分のお腹を掴んでいると見えるようにしながら、ノノちゃんだけに判るように人差し指だけをちょっと開いた股間の真ん中へ示す。


「ここに男の子のを挿れるの」

「いれゆ……?」


 信じられないとばかりに、ノノちゃんが私の股間を見つめてくる。

 そして、自分のを見て、


「ふえ……」


 顔を赤らめて固まる。


「ここからね、一ヶ月一回、血が出るようになるの。

 それが赤ちゃんの元の一つ。

 それにね……男の子から出る赤ちゃんの元と混ぜると、形が出来はじめるの」

「……」


 ノノちゃんが固まったまま、私の話を聞く。無知の彼女の喉元がゴクリと鳴るのは女としての本能からかもしれない。


「だから、大切なことなの。

 ノノちゃんが胸を揉まれて気持ちよくなったら、お腹の奥も準備が出来て熱くなっていくの。

 でも、それに流されて好きな人以外に自分を貫かせては駄目」


 あと少しで貫かれそうになった私であるからこそ強い口調になっている。


「好きな人でも、お互いに責任を取れるまでは赤ちゃんを作るのも駄目。

 子供を育てるのはお金もかかる。

 自分も相手もね?」


 言いながら浮かぶのはパパママ。

 よくもまあ、ちゃんと育て上げてくれたと感謝しかない。

 更に一人追加というのだから、スゴい。


「ノノちゃんは赤ちゃん、今の自分が育てられると思う?」

「……ムリ……」


 自分のお腹を擦りながら状況を想像し、そう答えを出すノノちゃんはやっぱりこの子賢い。


「だから、気持ちいいことに流されるのは駄目という人が多いの。

 ちゃんと自分で気持ちいいをコントロール出来て、間違いの無い知識を学ばんでからじゃないと好きな人にも迷惑をかけちゃうからね?

 ノノちゃんは自分だけの我が儘を好きな人にぶつけるのが正しいと思う?」

「……正しくないの……」


 結論を述べると、そうノノちゃんは真剣な顔で答えてくれる。


「……はつねーさんはしてるの?」

「私のプライベートな話だから内緒ね?」

「うん」


 縦に頷きを確認したので続ける。


「してる。

 ちゃんと育てられない子供が出来ないようにしながら、そして気持ちいいだけで求めないように、一緒にいて恋心を更に育んでるの」


 私自身に言い聞かせるように、言葉にする。

 そういうふうに誠一さんにちゃんと教育、矯正されているのだ。

 とはいえ、こんな話をしていたら、ちょっと体が熱くなってきた。

 今日は生でできる日だ。

 うん、たかぶる。

 コントロール出来て無いって? 人間、理性だけでは何ともならないわけですよ、と自分に言い聞かせる。


「はつねーさん、おとな……ってはじめておもった」

「あははは……」


 普段の私の評価については聞かないでおこう。

 たぶん、傷つくだけだ。


「あのかおがくろいひとはこんとろーるできるの?」

「姉ぇの友達だから出来ると思う」

「ひのくん……とできるの……?」


 ノノちゃんが既に女の顔するのが怖い。


「日野君次第かな。

 彼もまだ私に未練があるみたいだし、なにより彼の体がそういうことがまだ出来ないかも。

 流石に無理矢理はしないと思うし」


 まだ、昔みたいに話してくれないことが状況証拠で悲しい。


「みれんはわかゆ……ひのくん、はつねーさんをめでおってる……」


 ノノちゃんがそう確信めいたものを感じながら言う。


「ノノちゃん、マリさんに知識聞いてみたら?」

「ふえ?!」


 彼女が驚きの声をあげるのは珍しい。

 それを私は楽しく感じながら、


「利点はあるよ?

 先ず、自分の知らないことを知れる。

 二、相手が間違ってないかを確認できる。

 三、相手を知れば百戦危うからず」

「……」

 

 一巡、考えをノノちゃんが巡らし、


「はつねーさん、ないすあいでぃあです。

 ノノ、あのひとのこと、ひのくんねらってるからきらい。

 でも、たしかにあいてをしらないとかてるものもかてない……」

「マリさん自体はノノちゃんを邪険にはしないと思うし」

「?」


 流石に根拠が援助交際女子のフォロー役だと聞いてるからとは言えない。

 ので、


「姉ぇが友達だと言える人だから、無闇に人を傷つけたり、貶める人ではないと思うの」

「……はつあねぇはたしかにきもちがいいひとなの」


 ふざけた言動も多いが何だかんだ筋を通すし、慈愛が深い姉ぇは私の自慢だ。

 そう言ってくれると私も嬉しくなる。


「うん……わかったの。

 ちゃんとはなしてみるの」


 なにはともあれ、喧嘩やいざこざなんかは相手のことをちゃんと知らないから起きるのだ。

 私と姉ぇがそうだった。

 間違いない。

 

「終わったか?」


 と、水面から出てくる日野さん。

 女子の股の前あたりに浮いてくるとか、頭どうかしてるとは思うが、本人の視線はこちらの顔。

 全く気にも留めていないようだ。

 ビート板で殴るか、それも喜びそうだと悩み、


「いやぁ……!」

「ふが!」


 日野さんの顔が顔を真っ赤にしたノノちゃんに蹴飛ばされていた。


「グッジョブ。

 でも、暴力は駄目だよ?

 日野さん以外には」

「はーい♪」


 笑顔で返事してくれる。


「俺はいいのか……」


 そんな呟きは無視した。

 日頃の行いが悪い日野さんは、何とかならないものかと思う。

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